第22戦 VS節分
宝蓮荘では行事を重んじる。
仏教だろうとキリスト教であろうとお構いなしだ。
わいわい騒ぐのが好きなだけとも言う。
今日の日付は2月3日。
節分ということで私の部屋で豆まきだ。
『鬼はー外!』
ズガガガガガガガガ!
「痛!」
鬼のお面をかぶった健児を散弾が襲う。
ジャンケンの結果で公平に決めた結果だ。
「ちょ、ストップ!」
ソファーの後ろに隠れて、白旗を揚げた。
どこから取り出した。
「どうした、健児?」
「なんで大豆じゃなくて落花生なんだよ!つか威力がおかしい!!」
「知らないのー?北海道や東北の方じゃ、ほとんどが落花生をまくのよ〜」
ニコニコと笑いながら、麗香は思いっきり落花生を投げつける。
何気なく素肌の部分を集中的に狙っている。
そういえば麗香は東北地方出身だったな。
「落花生だと片付けるのも楽だもんね」
と、さっそく落花生を拾うカンナ。
落花生の方が大豆より安かっただけなのだがな・・・
「そういえば鰯の目刺はどうしたのよ?」
「おお、そうだそうだ。悪いが冷蔵庫から取ってきてくれないか、欅?」
「はいはい」
「・・・恵方巻・・・」
「それならユカが作っているぞ」
台所の方を指差す。
真木と一緒に仲よく作っているようだ。
・・・・え?
「ちょっと待ったぁああああ!」
「先輩うるさいですよー」
「す、少し落ち着け、真木」
「まず先輩が落ち着いてください」
落ち着いていられるか!
真木を台所に入れたら、恵方巻が弾道ミサイルになってもおかしくない。
「真木、もっとあの鬼に豆をぶつけてやれ、悦ぶぞ」
「仕方ないですね、豆まき再開ですっ☆」
ニンマリと笑い、健児に興味を移す。
よし。
これで恵方巻危機回避成功だ。
危ない危ない。
「家人ー、鰯がないわよ」
「ヌ〜ん」
「そういえば昨晩、ヌヌの飯にしてしまったのだったな」
困ったものだ。
ふぅむ。
「家人君、代わりにこの魚使えば?」
「他にも魚があったか・・・・いやマグロの目刺は大きすぎないか?」
それ以外にお魚がないよ、と自分の身長より大きいマグロを掲げる。
力持ちだな。
「そもそも何でこんな馬鹿でかいものが置いてあるのよ!」
「大和家から持ってきたのだが、よく考えたら捌ける人物がいなくてな」
「それで冷凍保存してたってわけか」
丼モノはマグロとにらめっこをしながら、ある不安を口にする。
その視線は恋人を見る視線にも似ている・・・気がしなくもない。
「これ傷んでるんじゃないのかな、大丈夫?」
そういいながら丼モノはマグロの頭をさする。
気に入ったのか?
「大丈夫・・・だと思うんだがなぁ・・・」
まあどちらにせよ解凍するまで時間がかかる。
それまでに考えよう。
「皆さん、恵方巻が出来上がりましたよ!」
おおお〜と歓声が上がる。
皆それぞれ、ユカから恵方巻をもらう。
「お兄ちゃん、今年の方角はどっちなの?」
「東北東だ」
ここで恵方巻について、少し説明しておこうか。
節分に食べる巻寿司のことだ。
盆のおはぎやぼた餅、正月の御節のようなものだと思ってくれれば良い。
ただし恵方巻には食べ方が存在する。
一に恵方を向いて食べること。
恵方は年によって違うので要注意だ。
二に・・・
「目を閉じて、絶対に喋らないようにしろよ」
『はーい』
ということだ。
三は願い事を思い浮かべること。
余談になるが、恵方巻は元々は関西地方の習慣だったそうだ。
それが近年飛躍的に広まったらしい。
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
以下ループ。
誰も喋らないので、部屋からはモグモグという音だけが聞こえる。
「家人」
「・・・・」
一足先に食べ終わった健児が、早速妨害しようとする。
無論それに答えるわけがなく、代わりにモグモグという音で返す。
「おーい」
「・・・・」
「ちょ、いきなり無言で殴るな!」
邪魔をする方が悪い。
途中で喋ったら縁起が悪くなりそうだ。
にしてもこの恵方巻、なんか変な味だな。
「―――?!」
視界がグニャグニャに歪む。
この感じ、真木の味だ。
おかしい。
恵方巻はすべてユカが作ったはずだ!
あ。
真木は触れた材料ですら兵器に変えられるのだった・・・
遅れて真相にたどり着いた瞬間、私の意識は深い闇へと堕ちていった。
恵方巻の当たりは1本だけだったらしい
マグロの目刺は一時、見物客が現れるほど有名になる
それほど美しいマグロだったのかもしれない
真木の料理をついついオチに使ってしまいます。
書いている方は楽なんですけど、ちょっと単調になりがちです。
ちなみにこの話を書くためにちょっと恵方巻について調べました。
私も恵方巻食べたんですけど、目をつぶっていないんですよね・・・
大丈夫かなぁ。
P.S.
恵方巻が近年広まったのは、バレンタインデーのチョコと大体同じ理由だそうです。