第19戦 VS引越の荷物
「これより、第23次引越紛争の開幕を宣誓する」
「23って数、適当に言っただろ」
「健児、そこにはツッコむな」
何回引越があったかなぞ知るか。
宝蓮荘は歴史が長いから、もしかすると3ケタくらいはあるかもしれん。
「てか家人、部活で疲れてるから帰っていい?」
「僕もたまってるゲームが・・・」
「お前ら12月分の家賃、滞納してるよな?」
「「ごめんなさい」」
そんな大した額ではないのだがな・・・
丼モノは浪費家だし、健児は食費がかかるからな。
金欠状態なのだろう。
「二人とも、懐の温度は?」
「僕は何とか食いつなげるくらいの温かさは」
「ぶっちゃけ水で米を食べるレベル・・・」
「・・・いつでも私の部屋に来ていいぞ」
健児は「すまねぇ、恩にきるぜおやっさん」と泣きながら感謝してくる。
誰がおやっさんだ。
大和家から色々と食材を持ってきたからな。
人に分けるくらいには余っている。
「ん、来たぞ」
森と樫野木の荷を積んだ、軽トラがやってくる。
時間ジャスト、運転手はいい仕事をしているな。
「家人・・・何でデコトラ!?」
「知り合いの軽トラを貸してもらっただけだ」
軽トラにしてデコトラとは中々のセンスだな。
無論、本気でそんなことは考えていない。
「誰だよ、その知り合いってのは・・・」
母さんだ、とは言わずに口をつぐんでおいた。
デコトラなんて甘い甘い。
過去に自家用ヘリで引越した奴もいたそうだしな。
ちなみにそれも私の母さんだ。
「・・・よろしく・・・」
「ああ」
運転席から降りてきたのは森。
ということは運転していたのか?
まあいいか。
過去にジェットを未成年で運転した奴もいたそうだしな。
ちなみにそれも母さんだ。
「・・・不束者ですが、どうぞよろしく・・・」
「いや、何か違うだろ」
丼モノが「バターだなぁ」と呟く。
たぶん「ベターだなぁ」と言いたかったのだろう。
一応、言うまでも無いと思うが、森から花見のときに入居者希望を受けたということだ。
「ん、樫野木はどうした?」
森と樫野木は二人でひとつの部屋を借りることになっている。
後から来るのか?
「・・・いる・・・」
「 んー!んー!」
む、何かトラックの荷台のほうから聞こえてくる。
・・・埋まっているのか?
「重いな」
タンスをどけて冷蔵庫を開けると、中から樫野木が出てきた。
よく入ったものだな。
「窒息死するかと思った・・・」
「何故こんなところに入っていたんだ?」
「色々あったのよ、主に叔母さんと。てか何でアンタがここにいるのよ」
「私はお前が引っ越す宝連荘の管理人だ」
聞いていなかったのか。
「なんですってー!」
「バターな反応だね」
だから丼モノ、ベターだろ。
叫ぶ必要性が無いだろう。
「にしてもよく冷蔵庫の中にはいったね、樫野木さん」
「まあ私はこれでも、結構やせてる方だし」
「胸が小さいからだろ」
禁句を呟いてしまった健児は、樫野木によって即座に悶絶させられた。
その樫野木は足元で気絶している哀れな男を気にも留めず、ダンボールを一つだけ持って自分の部屋に向っていった。
「健児ー、死んでるか?」
「死んでたら返事しないでしょ」
そうだな、と丼モノに相槌を打ちながら、しゃがみこんで健児の頭をぺしぺしと叩く。
起こすのは無理そうだな。
「家人君、埒が明かないから運んじゃおうか」
「そうだな」
丼モノ、ナイス提案。
趣味さえ除外して考えればいい奴だ
てかさっきっからまったく作業が進んでいないな。
「このタンスから運ぼうか」
「ああ、せぇのっ」
なかなか重いな。
2、3歩進むと、転がっている健児が邪魔になり前に進めない。
「健児、起きろ」
「・・・・・」
返事がない、ただの肉塊のようだ。
丼モノとアイコンタクト。
オーケー。
「「せーの」」
健児がギィッ!と悲鳴をあげる。
痛そうだな。
「おまっ・・・何しやがる!!」
「何ってタンスを腹に落としただけだが」
「おまえらイノシシの皮をかぶったセールスマンだろ」
「人の皮をかぶった鬼だろ」
イノシシの皮をかぶったスーツ姿のセールスマンが家を訪ねてくる。
中々にシュールな光景だ。
「ほら健二君、さっさとやろうよ」
「ちっ、わかったよ」
量はそんなに無いからすぐに終わるだろう。
しかし10分も経たないうちに、健児が飽きてしまった。
「家人、ちょっとくらい中身見ても平気だよな?」
「下着類は一番最初に樫野木が持っていったぞ」
「・・・まだ何も言ってないんだけど」
「貴様ごときが考えることなど、たかが知れている」
「無いとはわかりつつも、開けてみっか」
「やめとけ、見つかったときのことを考えろ」
制止したにも関わらず、「俺は人間をやめるぞー!」とわけのわからないことを叫びながら、健児はダンボールを開けた。
パカァ
バタン!
「・・・」
「・・・」
「・・・」
沈黙。
「家人、これはもしかして・・・」
「もしかしなくても藁人形だな」
「そこら辺は森さんのものだよね」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
再び沈黙。
「とりあえず、私たちは何も見なかったという方向で行こうか」
「うん、健児君運んでよ」
「何で俺なんだよ!」
「僕だって嫌だよ」
「触ったら呪われそうだな」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
三度目の沈黙。
「・・・それ・・・」
「「「うわあ!!?」」」
森、急に背後から声を掛けないでくれ!
心臓のバクバクする音が止まらない。
「・・・内職・・・」
内職で藁人形なんかを作るのか?!
誰が買うのだろうか。
知りたくはないが。
藁人形を商売なんかにしてるのは何処のどいつだ!
「ちなみにどこに納品するんだ?」
「・・・大和通販・・・」
そんなことやってるのか、うちの実家・・・
一時間後に第23次引越紛争終結
その後家人の部屋でパーティを開くことになったらしい
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ありがとうございます。
単純なアクセス数は60000・・・ぅおう。
6万といいったら私の所持金より多いです。
・・・当然か。
皆様、これからもよろしくお願いします!