第13戦 VS橘カンナ
プルルルルル
プルルルルル
プルルルルル
プルルルルル
プルルルルルル!!!!
布団に入ったとたん電話がかかってきた。
冬の夜はとても寒く、屋内とはいえ暖房器具のないこの部屋はその寒さを嫌というほど体感させてくれる。
「もしもし、こちら橘」
眠い目をこすりながら、受話器を取ると久しい声が聞こえてきた。
『あ、お兄ちゃん?』
「ん?」
『ボクだよ!』
「ああ、カンナか」
【橘カンナ】私の妹だ。
カンナの漢字は、鉋と書く。
大工さんが使う、木を削る道具のアレだ。
あのシャーっていうヤツ。
戸籍上では神奈という漢字になっているのだが・・・まあ色々あるということだ。
「久しぶりだな、元気にしているか?」
『うん、けどお兄ちゃんがいないと少し寂しい・・・』
「ああ、すまんな」
確かにここ最近帰っていない。
たまには家族に顔を見せないといけないな。
『お正月には帰ってきてよ?』
「わかった、基本的に暇だからな」
勉学に関しては自主学習だし、部活もやっていないからな。
暇人、万歳(意味あってるよな?)
・・・微妙に虚しい。
あ、バイトがあったか。
『先に言うけど、店長にはお母さんが話を通してるよ?』
「ということは母さんは帰ってきているのか?」
母さんは職業がデザイナーで、世界レベルで活動しているためあまり家に帰ってこない。
もっともデザイナー業よりアマゾンで財宝見つけてきたり、半そで短パンでエベレストに登ったりと冒険しているが。
嫌いではないしむしろ尊敬している所もあるが、最低でも肋骨の1、2本は覚悟しないといけないからな・・・
おそるおそる聞いてみると、答えは
『うん、今も電話してる後ろでなんか騒いでる』
生命保険はどうだったかな?
確認してこよう。
『お父さんも仕事が一通り終わったって、他の大和家の人も大体は帰ってくると思うよ?』
大和は母さんの旧姓だ。
大和家とは・・・財閥のようなものだと思ってもらえればいい。
実際は大分違うが。
『そういえば、今誰が住んでいるの?』
宝連荘のことか。
えーと、一人一人説明するのは些か面倒だな。
「全員が大和高校関係者だ」
『その中に女の子はいるのかな・・・かなぁ?』
何か様子がおかしいな。
不安定な印象を受ける声だ。
「女性は3人だが?」
ミシミシミシィッ・・・
なんだこの受話器を握り絞める音は?!
『お兄ちゃん、その中に彼女とかふざけた存在はいないよね?』
「あ、ああ」
ふざけた存在て。
『その前に今、恋人なんかいないよね、ねえ?』
殺気が声からにじみ出ているのだが・・・
こ、この私が震えているだとッ?!
いったいどうしたのだろうか。
声に恐怖心が出ないように極力気を使い、なるべく安心させるように言葉を紡ぐ。
「いないぞ?」
『そっか安心したぁ・・・』
声が元に戻ったな。
電話越しに殺されるかと思った。
まだ体が震えている。
何か悪いことは言ってないよな?
『あ、お兄ちゃん』
「なんだ?」
『ボク宝連荘に住むことになったから』
「何ィ!!」
初耳だぞ?!
『ボクも大和高校受けることにしたんだ』
「しかし・・・」
『お兄ちゃんはボクと一緒に暮らすの嫌なの?』
泣きそうなのをギリギリでとどめている様な声だ。
私はこういうのが一番苦手だ。
「そ、そういうわけじゃなくてだな」
『そうだよね、ボクは本当の妹じゃないもんね・・・』
「わかった、わかった!!いつでも宝蓮荘に越して来ていいぞ」
『えへへ、今の言葉に嘘偽りはないよね?』
今の芝居か・・・
『我侭言っちゃってごめんね?』
「別に構わないぞ」
やけくそだ畜生。
あ、本当の妹じゃないっていうのは、つまり血が繋がっていないってことだ。
・・・言い直す必要性はなかったな。
カンナはうちの養子だ。
私が家族にしてくれるよう頼んだのだが、詳しい話はまた今度。
『じゃあそっちに住むことになるから、少し決めておきたい事があるんだけど・・・』
「ああ」
『あれは一緒にする?』
む、部屋か。
どうしたものかな。
『お風呂』
「考える余地がないだろ!」
兄妹水入らずから程遠い。
上手いこと言った。
『じゃあお布団』
「何故そうなる?!」
考える余地があるのか、ソレ?!
部屋以前の問題か!
年頃の娘なのに・・・
『ちぇっ』
「あたりまえだ、舌打ちする様な子に育てた覚えはないぞ」
『ごめんごめん、それとお正月に兄ちゃんが来て帰る時にくっついて行くから、物理的に』
無茶言うな。
橘カンナに宝連荘居住権を奪われる
家人の実家の帰省が確定した
1日12時間以上勉強という生活に慣れてきた自分が怖いなぁと考える冬の明け方。
友人とオリオン座を見ながら野郎と星座とは寂しきことかと思う寒空の下。
私は今日も元気です。
ハイ、ということで新キャラ登場です。
ちなみに人物の描写をいつもどおり省いています。
なるたけイメージを自由に広げてもらうためです。
単に自分の中のイメージがしっかりしていないとも言いますが(オイ
宝蓮荘に関しても描写はほとんどありませんが、一応補足させてもらうなら、お風呂はありません。
と、ちょっとあとがきで伏線を張らせていただきました。