第9戦 VS樫野木欅
「いらっしゃいませ〜」
ここは喫茶カフェという名のケーキ屋だ。
この変わった名前の由来は、この店が以前は喫茶店だったためケーキ屋なのに喫茶店の名前がついたそうだ。
それと喫茶でありカフェでもある飲食店という意味を込めたらしい。
どういう意味だ。
喫茶店だったころの名残か、ケーキを持ち帰らず店内ででゆっくりと食べる人が多い。
「840円になります」
私はここでバイトしているのだ。
実家からの仕送りは無いし、家賃の収入もたまに赤字になるぐらい少ない。(滞納や修繕、維持費が主な原因)
そのため日々の生活のためにも、働かねばならないのだ。
「ありがとうございました〜」
ああ、私は一言も喋っていないぞ。
喋っているのは別の店員だ
私はレジや接客業といった、直接客と触れ合うような仕事は向かないからな。
客も私相手だと、無愛想で近寄りがたいだろうし。
といってもここに来る客はほとんど常連しかいないので、私が無愛想に振舞っても慣れているので問題はないが。
それでも他に動ける奴がいれば、接客業やレジ打ちは任せている。
私は大体他の仕事をしている。
「あんたも働きなさいよ、なんで私の後ろに立ってるのよ」
「それはお前がサボらないように見張っているからだ」
「サボってんのはどっちよ!」
「言うまでも無いだろう、私だ」
「わかってんならとっとと働け!!」
「働いたら負けだと思っている」
「殴るわよ?」
「・・・・・・・・・すまん」
少女の名前は【樫野木 欅】
樫の木なのか欅の木なのか。
バイト仲間で大和高校の同級生だ。
胸が小さな体を、店長の趣味40%露出度15%その他もろもろで構成されたエプロンドレスが包んでいる。
「なんか失礼なこと考えてない?」
「考えてない、特にお前の身体的コンプレックスとか」
「小さくて悪かったわね!」
自覚あったのか。
大和高校美少女同好団体には貧乳の方がいい、とか言う奴なら普通にいるだろ。
そうそう、胸が小さいというのはさしたるコンプレックスでは無いだろう。
ルックスは普通に良いし。
だから安心しろ、まな板。
―――足の小指に電流のように痛みが走る。
「痛ッ?!」
「励ますか貶すかどっちかにしなさいよ、てか口に出てるし」
「すいません・・・」
まさか口から出ていたとは。
「あんたもいい加減自分ひとりで接客しなさいよ、いらっしゃいませ〜」
客が来たか。
見た目青年、説明以上。
「フン、私に接客業など10年早いのだ!ご注文はなんでしょうか?」
「自分で言うな!チーズケーキEXと紅茶ですね、って普通に笑顔で接客できるじゃない」
「知り合いのほとんどからその笑顔と敬語が不自然すぎると言われた、店内でお召し上がりになりますか?」
「まあ納得よね・・・・少々お待ち下さい」
この店に来るのが初めてと思われるその青年は明らかに戸惑っている。
そりゃそうだ、店員二人が注文を聞きつつ会話してたら誰だって戸惑う。
「早く紅茶入れなさいよ」
「ぐ・・・只今」
頼むから踏むな!
この橘家人、屈辱の極み!!
「紅茶です」
自分ではそれなりに、紅茶をおいしく注げるようになったと思うのだが。
しかし緑茶に関しては、父さんの方が上だろう。
あ、私にも父親はいるぞ?
単に話に出てこなかったのと、中学入学の時に喧嘩別れみたいに宝蓮荘に移り住んだからだ。
そのうち父さんとはケジメをつけておかないとな・・・・
今度実家に帰った時、ちゃんとあの時のことはもう気にしていないと伝えないと。
ふぅむ、どうやって話を切り出すか。
「何呆けてんのよ、やることないなら掃除でもしてなさいよ」
「・・・」
不満だ。
別に仕事をせずに考え事に耽っていたのは悪いと思っている。
だが樫野木に言われるとやる気が起きない。
母親に勉強しろと言われた気分だ。
「ご不満があるなら店長に言いつけるわよ?」
「すいませんでした」
樫野木の言葉から回答までの速度、0.0000017秒
店長は怖いからな・・・
普通とは違う方向性で。
普通に私が悪いのだから、おとなしく樫野木の言葉に従うとするか。
「いらっしゃいませ・・・・あ、リン」
「む、森か」
樫野木と森はいとこだ。
リンとは林葉から来る、樫野木が森を呼ぶときの愛称だ。
「・・・いつもの・・・」
「ああ、わかった」
森のいつものとはハードティーという名前のお茶だ。
妙な名前だが、実際はただのハーブティー。
命名は店長。
「リン、何しに来たの?」
森にバイト先に来られたことで驚いている。
なにせ制服がエプロンドレスだからな。
多少なりともその格好に慣れているかもしれないが、見られて気持ちよくは無いだろう。
その動揺をさとられまいと、言い方に棘が付いてしまったというところか。
おお、我ながらなんという洞察眼。
「・・・悪い・・・?」
不満げに森が答える。
普通に、樫野木に少しきつい言い方をされたので癪に触ったのだろう。
「そんなこと言ってないわ、あたしは理由を聞いただけよ」
・・・本格的にムードが悪くなってきたな。
二人ともストレスがたまっていると、よくくだらないことで喧嘩する。
あれ、樫野木のストレスの原因は私か?
「・・・うるさい・・・」
「なによ!」
「二人とも、周りが見ているのだが」
「・・・っ!」
結構客の視線が集まっている。
とはいえその視線は面白半分の目や、またかと呆れながらも温かく見守る目がほとんどだ。
流石は伊達にこの店の常連客ではないということか。
「・・・欅の声大きいから・・・」
「な・・・」
「二人ともそのくらいにしておけ、森、ハードティーだ、いつもの席で良いよな?」
と言いつつカウンター近くの席にハーブティーを置く。
森はその席について、どことなく優雅さが混じった仕草でお茶を飲む。
「・・・ありがと・・・」
樫野木があたし何してんだろと、いったかんじで溜息をつく。
冷静さを取り戻したようだ。
「・・・おいしい・・・」
「ん、どうも」
やはり褒められると悪い気はしないな。
そんなことを考えていると、背中に鈍痛。
って蹴られたのか!?
「何をするんだ、樫野木!」
「さっさと掃除しなさい!」
理不尽、実に理不尽だ、まったく。
私が何をしたというのだ。
「樫野木さんに、家人が虐げられているぞ」
と少し離れた席にいた3人の学生客の方から聞こえてくる。
「樫野木さんから罵られたいなぁ・・・」
いやいやいやいやいやいや?!
貴様ら同好団員か!
ここは、学校に近いから学生がよく利用するから、いても何ら不思議ではないか。
「踏みつけてほしい・・・」
「いや、どちらかというと撲ってほしい」
「森さんの冷たい視線も気持ちよさそうだよな」
マゾか。
確認するまでも無いか。
「にしても、家人むかつくな〜」
「今度シメるか」
返り討ちにしてやろうか。
「あ、こんなのはどうだ?」
なんだというのだ、もう・・・
「あーこぼれちまったぜ、掃除しろよ家人」
三人のうち一人が、コップに注ぐように飲み物を床にこぼす。
ふう、こういう嫌がらせはよくないぞ。
大人っぽく冷静にユラリゆらりと同好団員三人に接近。
「貴様ら・・・」
「な、なんだよ」
語彙は強めだが、瞳には恐れの色が見える。
周りの客は既に観戦モードに入っている。
「死ぬ覚悟があるようだなぁ!!!」
「何を言って・・・・ぐぁっ?!」
「客に・・・何しててて・・・いるっんだよっ!?」
「かみ過ぎだ!これでも食らって落ち着け!!」
拳を大きく振りかぶる。
そして・・・
「アンタが落ち着きなさいよっ!!!」
ゴシャァ!
あれ?
意識が遠のいていく・・・
そっか、椅子で殴られたのか。
ああ、時が見える・・・・・わけがないか。
ドサァと倒れこむ。
「「「家人ぉ?!」」」
「やりすぎたわね・・・これ」
おまえがやったんだ・・ろ
最近よく・・・このセリフ使うな・・・
「・・・大丈夫・・・」
何が・・・大丈夫なんだ・・・
「・・・ギャグだから・・・」
酷い。
樫野木欅に撲殺される
しかし奇跡的に生き返る
〔修正前と修正後の変更点〕
・この前話にあたるサッカーの話が延期
・喫茶カフェがケーキ屋になってる
・樫野木が森をリンと呼ぶ
・樫野木のデレ要素控えめ
(以前書いてた時期と私の方針が少し変わったため)
とか盛り込んで修正したら、今までの中で最長の話になってしまいました!
調子乗りすぎたようです・・・
いっそいつもこのくらいの長さの方が良いですかね?