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王子様が迎えに来てくれたと思ったのだけれど  作者: 録宮あまね
10.想いの行方

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さよならではない

あるじ、オレ、戻っていいんだよね?」

 ライルさんは頷く。


「やっと返せる」

 クライは自分の髪から複雑な装飾の髪飾りを外すと、優しい眼差しでその髪飾りを見つめ、ライルさんの前に差し出した。

 ライルさんは髪飾りを受け取る。



「セリア、お別れだよ」

 クライはわたしに近づく。


「クライ……」

 急すぎる別れという言葉に驚いて、クライを見つめた。


「オレが戻ったら、オレと主のセリアへの愛が合わさって大変なことになっちゃうと思うけど、もちろん全部受け止めてくれるよね?」

 クライは悪戯っぽい表情で笑いかける。


 なんだか頭が働かない。わたしは機械的に、ただ小さく頷いた。


「クライとはもう会えないの?」

「この姿ではね。でもさよならじゃない。これからもずっと一緒だよ」


 クライは、ライルさんの中に戻るだけ。

 分かっている。

 でも感情がついていかない。

 二度と目の前にいるクライとは会えない。そう思ったら……。


「泣かないで、セリア」

「クライ、このままじゃダメなの?」

「オレが戻らないと、主はずっと欠けたままだよ」

「欠けた?」

 クライは頷く。


「違う世界で夢に見るくらい、長い間『俺』のこと、忘れないでいてくれてありがとう」

 クライは涙が伝うわたしの頬に口づけた。


「セリア、大好きだよ」

 わたしから離れると、クライは綺麗な笑みを見せたまま、静かにライルさんの中に溶けた。

 そして間を置かず、ライルさんから無数の光のようなものが円状に散った。

 美しい、真っ白な光……。



 ライルさんは右手に残った複雑な髪飾りを見つめている。


「クライ、どこ?」

 わたしは蒼然とした顔で、消えてしまったクライの姿を探した。


「もう……俺の中だ」

 そう言って、ライルさんは左手で自分の胸のあたりを押さえる。


「クライ……」

 わたしは特に変わった様子のないライルさんを見上げた。


「今更返されても、俺には似合わない」

 ライルさんは髪飾りを緩く握る。


 クライは、この髪飾りをとても大切にしていた。

 いつかライルさんに返すために。


「いいえ。そんなこと……ないと思います」

「これは女性や子供が着けるものだ」

「貸してください」

 わたしは髪飾りを受け取り、ライルさんの髪に留めた。

 いつもクライがしていた場所に。


「似合っています」

 そう伝えた瞬間、ライルさんに突然抱きしめられる。


「ライルさん?」

「クライの言うとおりだ。お前は温かくて、柔らかい。ずっと許されるはずもないと思ってきたのに……」

 ライルさんは覆い被さるように、わたしの体を更に強く抱きしめた。


「すまない」

 ライルさんは、わたしを勢いよく離す。

 何に対して謝っているのか分からなくて、惚けてライルさんを見てしまう。


「強く抱きしめすぎた」

 ライルさんが言った。


「あ、わたしは全然大丈夫です。そんな風にライルさんに気を遣われたら、逆に緊張します」

「そうか……」

 クライが戻った影響ではないと思うけど、ライルさんの様子がいつもと違う。

 わたしの緊張がうつってしまったのだろうか?

 彼は続けて口を開く。


「俺はお前に会いたかったと言ってもいいのか?」

「え?」

「答えてくれ。返事は、『はい』か『いいえ』だけだ」

「……はい」

 わたしは答える。

 ライルさんは熱っぽい表情でわたしを見つめた。


「セリア、お前に会いたかった。愛している」

「ライ……ルさ……」


 嬉しいです。

 大好きです。

 すぐにそう返したかったけれど、胸がいっぱいで言葉にならない。

 ライルさんの美しい瞳にわたしが映っている。


「お前が幸せになってくれれば、相手は俺じゃなくても構わないと、ずっとそう思ってきた。でももう、無理だ。今はそう思えない。俺がお前を幸せにしたい」

 ライルさんはわたしの頬に触れた。

 いつの間にか、また涙が零れていた。でも今度は哀しい涙じゃない。


「大好き……です。ライル…… さん」

 わたしは途切れ途切れに伝える。


「分かっている。……その言葉は何度でも聞きたい。俺はこれからもっとお前に相応しい人間になろう」

 わたしは左右に首を振る。


「そのままの……ライルさんがいいです。無理して、変わらないでください。今のままのライルさんが好きです」

「俺もそのままのお前が好きだ。だが、できればもうそろそろ昔のようにライルと呼んでくれないか?」

「呼び捨て……ですか?」

 吃驚して、わたしは何歩か後ずさる。


「クライと話すように話してほしい。俺たちは幼馴染だ。大体、俺はお前の臣下なんだ。遠慮することはない」

「無理です!! ライルさんはライルさんです!!」

 大声で言い返したわたしに、ライルさんは目を細める。


「ごめんなさい。記憶が戻らないせいで」

 わたしはそう続ける。


「そんなことは構わない。けれどいつか……」

 いつか……。

 ライルさんが望むなら。

 わたしは小さく頷いた。

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