好きです
「それであなたの気持ちは分かってもらえたの?」
「はい。でも納得してはもらえませんでした。まず先に、わたしが動かないと……」
ライルさんに聞かれたくなくて、小声になってしまう。
「セリア、私の部屋で話しましょう。ライル、クライ、ご苦労様。あなたたちはゆっくり休んで。あ、後でもいいけど、今回の話し合いの内容をカエヒラ様に報告しておいてくれると助かるわ」
「畏まりました」
ライルさんは淡々と答え、クライとともにその場を去った。
それにしても、彼は本当にわたしの気持ちに少しも気づいていないのだろうか?
トキ王子が攻めた質問をした時も、不可解といった表情をしていた。
気づいていて気づいてないふりをしている……ようには見えない。
そもそもライルさんはそういう演技ができるタイプではないと思う。
メル姉の部屋で、わたしはこれまでの流れを話した。
2人の王子がわたしの気持ちを重視してくれたこと、王位継承問題が頓挫してしまったこと、ライルさんに自分の想いを伝えたいことを。
「そう。セリア、それで覚悟はできたの?」
メル姉は厳しい顔でわたしを見つめた。
わたしは頷く。
「私はいろいろな意味で賛成できない。でも止められないわね」
「自分の心に嘘はつけません。わたしはライルさんが好きです」
言葉にした途端、心が軽くなった。
メル姉はどういうわけか泣きそうな顔でわたしの髪の端に触れる。メル姉が整えてくれた肩ほどの長さの髪に。
「真っ直ぐなセリア。私はいつだってあなたの幸せを願ってる。けど、もう二度とあなたを……」
「メル姉?」
「ううん。ごめんなさい。セリア、頑張って。どうか悔いのないように」
そう言って彼女は笑った。
わたしは彼女の部屋を後にする。
自室に戻り、服を着替えた。
正装のドレスや装飾品はそれなりに重みがあり動きづらい。
どのドレスも綺麗な色合いの布地で縫製されているのだから、わたしとしてはシンプルで装飾が少ないデザインのものの方が動きやすくてありがたかった。
ワンピースに近いようなオフホワイトと浅葱色がメインのドレスを選ぶ。
ライルさんはどこにいるのだろう。
お城の中に彼の部屋があるはずだけれど、把握していない。
彼を想う時、必ずあの場所が頭に浮かぶ。
あの場所……。
わたしの足は自然とフラワーガーデンに向かっていた。
フラワーガーデンに着くと、ライルさんが当然のように魔法で水を撒いていた。
彼、1人……。
クライや妖精さんたちの姿はなかった。
「ライルさん……」
呼びかけるとライルさんは無表情で振り向いた。
絶対にいると思っていたわけじゃない。
ここで会えたことが嬉しい。
「ナギに戻ったら話したいことがあるって言ったこと、覚えていますか?」
「ああ。だが戻ってすぐにそんな込み入った話をすることもない。疲れているだろう。今日はゆっくり休め」
「込み入った話じゃありません。今、伝えたいんです」
ライルさんは怪訝な表情をして水撒きを止めた。
瞳は薄青に碧が混じった基本の色だ。
美しく水面のように揺れている。
「好きです」
わたしの突然の告白に、ライルさんは驚いた顔でわたしを見つめた。
「何を……」
「ライルさんのことが好きなんです」
わたしはもう一度伝える。
「そんなこと改めて言わなくとも、お前に嫌われているとは思っていない」
「違います。そんな広い範囲の……人としての話をしているわけじゃありません。その、つまり、特別な感情で」
「特別な感情?」
ライルさんは僅かに首を傾げた。
全然通じていない。
鈍いにも……程がある。
「ライルさんのこと、男の人として好きってことです。好きなので付き合いたいんです」
わたしはきっぱりと言った。
ライルさんは目を見開いたまま、無言でいる。
時が止まってしまったかのようだ。
一体、何を考えているの?
「……もしかして、あの時の口づけがお前を惑わせたのか?」
しばらくした後、彼はそう言ってわたしから目を逸した。
「え?」
「治癒にあんな方法を取る必要はなかった。あの時はつい」
つい……?
咄嗟に……?
なんとなく……?
そんな言葉は聞きたくない。
聞くのが怖い。
軽く握った両手が震える。
わたしはそのことを追究せず、一呼吸おいて、ライルさんの問い真っ直ぐに答えた。
「キスされたから好きになったわけではありません。最初からです」
「最初から?」
わたしは頷く。
「向こうの世界にいるときから。いえ、多分記憶をなくすずっと前から好きなんです」
「何故だ? 今だって記憶は戻っていないのだろう?」
「断片的な記憶なら残っています。前にこの場所でお話したはずです。ライルさんがフラワーガーデンで水撒きをしている姿、優しい笑顔を向こうの世界の夢の中で繰り返し何度も見てきたと。きっとその光景はわたしにとって特別で、忘れることができなかったんだと思います」
「俺は……」
ライルさんは目を伏せる。
「俺はお前の気持ちに応えられない」
「……他に好きな人がいるんですか?」
わたしの問いに、彼は左右に首を振る。
「俺はお前のこと以外考えていない。護衛として」
「護衛として……」
わたしは機械的にゆっくりと繰り返す。
「俺はお前に想われる資格がない」
それは、前にも聞いたセリフ。
彼の額に嵌っている美しいリングを渡した時に。
だからまたわたしは同じ言葉をぶつけるしかない。
「資格……なんて必要ないです。わたしは、これから先もずっとライルさんと一緒に居たい。可能性があるなら、迷惑じゃないなら、これから好きになってもらえるよう頑張りたいです」
「お前が頑張る必要なんてない。そういうことではなく、俺がお前に相応しくないんだ」
「それは、わたしが王族だからですか?」
彼は再び左右に首を振る。
「……俺の問題だ」
「迷惑……でしたね」
わたしは呟き、視線を下に移す。
返事は無い。
彼の優しさ……だと感じた。
迷惑だと、恋愛対象として見ることができないと、はっきり伝えればわたしが傷つくだろうと、それで敢えて自分がわたしに相応しくないという体にしているように思えて。
精一杯の勇気で気持ちを伝えた。もうこれ以上ライルさんを困らせたくはない。
どうしよう……。
それでも、受け入れてもらえないのに、こんなにも彼が愛おしい。




