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トキ王子の欠片

「キリク、そんな事はまともな人間が言うセリフです。認めません。兄上のせいで姫の魂は15年も行方知れずだったのです。兄は彼女をこの世界から葬り去ろうとしたも同然。それは決して許されることではありません」

 ジェイド王子が言った。


「だからそれは殿下のせいではないのです。諸悪の根源はアラクネであり、私は私なりに彼女のことをずっと調べてきた。確かに殿下はジェイド王子のことを憎んでいたが、関係のない幼い姫に危害を加えようなどと考えるはずがない。全てはジェイド王子の苦しむ姿を殿下に見せたいという彼女の歪んだ愛情が招いた悲劇であり、そのことに関して殿下に非はない。前王が出した結論に間違いはない」

「そんなこと……とても信じられない」

 ジェイド王子は震える声で呟く。


「自分のお父上を信じられないか?」

 キリクの言葉にジェイド王子は俯いたまま返事をしなかった。



「トキ王子が関与していなかったという証拠はあるのか?」

 ライルさんが厳しい口調で追及する。


「それは……ない」

「お前は何度もこいつ……セリアの肉体を奪おうとしただろう」

「肉体と魂は共鳴する。肉体があった方が魂を探しやすかったからだ」

 キリクは必死に訴えた。


「ではこの15年の間、あなた達も本気でセリア姫の魂を探していたというのですか?」

 ジェイド王子が驚いた表情で尋ねる。


「当然だ。彼女は殿下の妃となる重要なお方。そなたらより先に見つけていち早く姫を懐柔したかった」

「懐柔って……」

 クライが呆れた声を上げる。


「最も懐柔するまでもなく、殿下をまともに見て陥落しない人間などいないと思っていたのだが」

 キリクは横目でわたしを見る。


「それはとんだ計算違いだったね」

 クライは少し意地悪な顔で目を細めた。



「お前たちは未だにアラクネの魔力を使っているだろう。それはどういうことだ」

 ライルさんは言った。


「アラクネは殿下のために生前からずっと自分の魔力を溜めていた。自分に何かあってもいいように……。彼女の魔力は強大ゆえ殿下の役に立つ。殿下はあまり好ましく思っていないが、私はただ利用できるものを利用したまで。そしてミナスにはアラクネの魔力がまだ存分に残っている」

「では、何故強硬手段を諦めた。手の内を明かし、今更こいつに心情を訴えるなんて意味が分からない」

「それは先程そこの傀儡が言った通り、誤算が生じた。……恐らく、あの時殿下の方が……」

 キリクは目を伏せ、少し間を取る。


「殿下も……人だったと言うことだ。感情ばかりはどうしようもない。直接確かめてはどうか?」

「どういう意味ですか?」

 わたしの問いに答えようと再び口を開けかけたキリクの動きが突然静止した。



「うっ」

 彼は小さく呻くと今まで抱えていたお腹のあたりを更に苦しそうに抱え込む。

 そして歪んだ表情で悶えるように激しく体を揺らし、急に横臥した。


「キリク!!」

「欠片……だ。……暴れて……」

「え?」


 倒れているキリクの足元が墨を落としたように黒くなっている。

 黒の染みは床にじわじわと広がっていた。

 よく見ると染みではなく深い穴だ。

 蠢く穴の動きは生き物のように不規則で気持ちが悪い。


「何これ?」

「中の……殿下の欠片が勝手に魔力を使ってい……あっ……うっ」

 キリクは苦しそうに再び呻く。


 蠢いていた穴は伸縮性があるのか突然広がり、キリクの右足を飲み込んだ。

 わたしは咄嗟にキリクの両腕を掴む。


「おい、勝手な真似をするな」

 ライルさんが叫んだ。


「その魔術師が……正しい。離……せ。そなたまで飲み込まれる」

「嫌です。この穴に飲み込まれたらあなたはどうなるんですか?」

「そなたには……関係がない」

「放ってはおけません」

 わたしはキリクの瞳を見つめ、はっきりとそう言った。


「心配ない。恐らく……この穴は殿下のところに繋がっている」

「セリア姫、危険です。離してください!!」

 ジェイド王子もわたしの側に移動して叫んだ。



 引っ張られる。すでにキリクの右足と左足の一部は穴の中だ。


 どうやらトキ王子は無理矢理キリクを自分のところ……セレカルド・イリスに連れ戻そうとしているらしい。


 でもこのまま戻ったらキリクは一体どうなってしまうのだろう?

 彼はトキ王子に殺されるかもしれないと怯えていた。

 さすがにそんなことはしないと信じたいけれど、わたしにはトキ王子が何を考えているのか分からない。



 更にキリクの体が沈む。右足だけではなく、もう左足も完全に飲まれかかっている。


 重い!!

 だけど、このまま彼の腕を離してはいけないと思う。


「ライルさん!!」

 わたしはライルさんに助けを求める。


「駄目だ。手を離せ。言うことを聞かないのなら強制的に切り離す」

 ライルさんは非情な言葉を投げた。


「セリア、もういいからキリクの腕、離してよ!!」

 クライが叫ぶ。


「……嫌。わたし、このままキリクと一緒に行きます」

「セリア、何言ってんの?」

 クライが驚きの声を上げた。


「だってこの穴はトキ王子のところに繋がっているのでしょう? 元々向かう予定だったのだから問題ないはずです」

「何だと?」

 今度はライルさんが怒りを露にする。


「それに一緒に行けばキリクがトキ王子に酷いことをされないか見ていられます」

 キリクはわたしを見上げ、目を見開いた。

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