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近づく休息の終わり

 それからキニュちゃんは、ライルさんがいる元の場所まで移動した。


「ライルさん、トレメニアさんです」

 わたしはわたしの両手に載っているトレメニアさんをライルさんの前にそっと差し出す。


「わざわざそんな風に見せなくても分かる」

「ライルは可愛くなーい」

「そういう可愛くないライルには気を遣う必要もなかったね」

「でも内心絶対喜んでる」

「さっきよりちょっと温かいもんね」

「温かいのはトレメニアのせいじゃなくて、セリアが側にいるからじゃない?」

「ライル、よかったね」

 気付けば花の妖精さんたちに囲まれていた。


 温かい?

 妖精さんたちの会話は独特だ。

 どういう意味だろう?


「……やかましい。もう水撒きに来ない」

「それは困るよー」

「タロス、大丈夫。そんなこと言っても結局ライルはここが好きだから」

「確かに。いつもライルがくれるお水は最高だしね」

 クルサイドカノンさんが羽を細く震わす。


「ライルさんは……妖精さんたちととっても仲がいいんですね」

 わたしの呟きにトレメニアさんは微笑む。


「遊ばれているだけだ」

 ライルさんにもわたしの呟きが聞こえたらしく、彼は冷めた表情でそう言った。



「あの、みなさん、この間は道案内をしてくださってありがとうございました」

 わたしはこの間のお礼を改めて伝える。


 横目でライルさんのリングを確認。自画自賛みたいになってしまうけど、やっぱりとてもよく似合っている。

 妖精さんたちの優しさにより、無事目的を達成することができた。


「こちらこそ」

 セレントピノさんが笑顔を向ける。

「え?」

「ごちそうだね」

「ごちそう?」

 お礼を返された上、突然出てきた突拍子もない言葉に戸惑いを覚える。


「見返りなんて求めてない。セリアのためならなんでもするけど、セリアの感謝の気持ちは私達にとっては極上のご馳走なんだよ。だから、こちらこそありがとう」

 セレントピノさんはそれこそキラキラ輝く極上の笑みで答える。

 他の妖精さんたちも、楽しそうにわたしの周りをひらひらと回った。


 妖精さんって不思議。

 本当に愛とか希望とかそういうものでできているらしい。

 だからこんなにも綺麗なんだね。


「向こうの世界では……とても考えられません」

 わたしはライルさんに向かってそう言った。


「妖精は誰にでも見えるわけではない。こちらの世界の人間だって存在を知っていても実際に見えるものは少ない。またこいつらも姿を現す相手を選ぶ。お前は特別だ」

「特別……。それならライルさんもですね」

「俺は魔術師だから見えても不思議はない」


「んー、見えやすいだけで、魔術師だからって全員見えるわけじゃないけどね」

 声とともにクライが現れた。

 ライルさんの影から突然、ゆらゆらと陽炎みたいに。


「クライ?」

 わたしは思わずクライに触れる。


「どうしたの、セリア?」

「実体……あるよね?」

「ん?」

「なんか人じゃないみたい」

「だーかーらー、みたいじゃなくてホントに人じゃないの。あの、セリア。そんなに撫でまわさないでくれる?」

 クライの頰が徐々に赤くなっていく。

 また困らせるようなことをしてしまったらしい。


「ごめんなさい」

 わたしは慌ててクライから手を離す。

「嫌じゃないよ。だから別に謝る必要は無いけど」

 クライは唇をきゅっと結んで、はにかんだように俯く。

 彼の青い髪がさらりと左側に流れるように落ちた。



「クライ」

 トレメニアさんが飛びながらクライに声を掛ける。


「あ、トレメニア。すっかり元気になったみたいだね」

「セリアちゃんのおかげです」

「よかった」

 クライの言葉にトレメニアさんは何度も頷く。

 トレメニアの花の香りがますます強まった。




「……それでクライ、守備は?」

「うん。何も問題なかったよ」

 ライルさんの問いにクライは神妙な面持ちで答える。

 守備?


「そろそろジェイド王子の元に戻る頃合いだろう」

 ライルさんはわたしを見つめてそう言った。


 ああ、確かに……。

 こんな平和な瞬間も、カナン国でジェイド王子とトキ王子が待っていることを忘れてはいけない。

 カナンの王位継承や婚約について、問題が山積みになったままだ。


「セリアは動き回っていたから十分な休息がとれてないと思うけど」

「大丈夫。でも、守備というのは?」

 わたしはクライからライルさんに視線を移す。


「ナギの全てのゲートは表面上通常に戻っている。だが管轄ごと外部の魔力の監視を徹底してきた。クライに先程まで何かおかしな動きがなかったか管理者の元に確認に行かせていた」

「おかしな動き……ですか?」

「一応、念のためだ。トキ王子は信用できない」


 それはそうかもしれない。

 この間のことだけでも、クライを痛めつけたりスサトさんを失うことになったり、ライルさんはそうとう辛い思いをした。

 わたしを異空間に飛ばしたアラクネへの指示が彼の仕業だと考えているのだとしたら尚のこと。

 でも……。


「それでもわたしはトキ王子を信じたいんです」

 カナンの前王様のことをあんなにも愛していた人を。

 人を愛することができる人を。

 ライルさんは答えず、考えるように視線を下げた。


「わたしは話し合いに行くんです。一緒に来てもらえますか?」

「何を今更……」

「ライルさん、クライ、わたしから離れないで。ずっと一緒にいてください」

 2人には、わたしを見守ってほしい。

 わたしは2人に頭を下げた。

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