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リングの行方

「あの、これはライルさんに」

 クライは一瞬首を傾げ、

「は?」

と叫んだ。


「だから……ライルさんに」

「何回も言わなくて大丈夫だよ。……あるじ、聞こえてたよね?」

「……何が?」

 ライルさんの言葉にクライは呆れた顔でため息をつく。


「セリア、ちなみにそれってお菓子?」

 わたしは俯き加減に首を振る。勿論左右に。


 迷惑がられたらどうしよう……。

 なんだか不安になってきた。



「うーん、そっか……。何となく分かった。オレ、少し外すね。主、セリアに冷たくしてもベタベタしてもダメだからね。大事なのは礼節と誠意、あと優しさだよ。とにかくちゃんとしてよね」

「……煩い。どういう意味だ」

「どういう意味って……。もうそんなんだもの、煩く言いたくもなるよ。セリアを傷つけたら絶対に許さないからね」

 クライはそう言ってライルさんを睨んだ。


「クライ、待って!! なんだか分からないけど気を遣わないで。クライも一緒にここにいて!!」

 わたしは慌ててクライの腕を掴む。


「セリア、ありがと。でもオレがいると余計話がややこしくなりそうだし」

「そんなことない。クライがいてくれた方が心強いよ……」

 わたしは懇願するようにクライを見つめる。


「セリア、いい加減主に緊張するのやめなよ。何かあったらすぐに飛んでくるから、心配しないで」

 クライはそう言うと消えてしまった。

 やっぱり見た目と口調は幼いけれど、彼はすごく大人なんだと思う。



「あいつの言うことは……さっぱり分からない。……城に戻るぞ」

 ライルさんは無表情でそう言った。


「あの、渡したいものが」

「俺に?」

「今までの話、聞いてなかったんですか?」

 わたしの声に、ライルさんは若干目を細める。


「すみません、大きな声を出して。よかったらこれ、受け取ってください」

 わたしは迷って選んだラッピングの袋を、思い切ってライルさんの前に差し出す。

 同時に、反応が怖くて思わず下を向いてしまった。



 暫く待ったけれど、一向に手の重みが軽くなる事はない。

「……受け取って、もらえないんですか?」

 不安になりわたしは顔を上げる。


 ライルさんは驚いた顔でわたしを見ていた。

「ライルさん?」

「ああ、すまない。受け取ればいいのか?」


 受け取りたくないわけではなく、ただ状況を把握できなかっただけのようだ。

 わたしは安堵の息をつく。



「受け取って、中を見てください。気に入ってもらえるかは分かりませんが、みんなの協力で完成したリングです。ライルさんに使ってもらえたらと思って……」


 中を開ける前に詳しく説明して、もはやサプライズも何もあったものではない。

 でもライルさんにはきちんと説明しないと一向に話が進まないのだと気づいた。




 ようやくライルさんは袋を受け取り、リングを手に取る。


「まさかこのリングのためにお前はフェスティバルで商いのようなことをしていたのか?」

 ライルさんの瞳がさらに大きく見開かれる。


「お前は……ではなく、ハンナのみんなとです。それにリズさんにも協力してもらいました。リングをイメージ通りに作れたのはリズさんのおかげです」

「……リズ? 母上か。確かに微かだが母上の魔力が残っている」

 ライルさんは両手にリングを載せ、集中しているのか瞳を閉じた。

 カエヒラ様の事は結構ひどい扱いなのに、リズさんの事はちゃんと母上と呼んでいる。

 どういう理由なのかは分からないけれど、差がありすぎてカエヒラ様が気の毒だ。



「あ、あの、もしよかったら……ですけど、そのリングを着けてみてもらえませんか?」

 わたしは勇気を出してそうお願いしてみた。


「何故?」

 瞳を開けたライルさんに、間髪入れずに問われる。


「あ、すみません。やっぱりデザインとか色々気に入らないですよね。嫌ならいいんです」

「そうじゃない。そういうことではなく、何故、お前は俺のためにこんなことをする?」


「それは、ライルさんのリングをわたしがもらってしまったから……」

「そんなことを気にしていたのか。俺のものなんて全部持って行って構わない」

「え?」


「そもそも最初から、俺はお前のものだ」

 ライルさんは迷いなくきっぱりと言った。


「な、なな、何、言ってるんですか?」

「俺はお前の臣下だ。全てをお前に捧げている。お前が望むなら俺の血でも肉でも好きに持って行って構わない」


 ああ、そっか……。

 そういう意味ですか。

「って、いきなり怖いことを言わないでください。今時、戦時中のお国のために!! の精神じゃないんですから。忠誠心がありすぎるのも困りものです」


「意味がわからない」

「だから、ライルさんはライルさんのものでわたしのものではないってことです」


「俺はお前のものではないのか?」

 瞬間、ライルさんの瞳の色が深い群青色に変わる。


「はい。それはそうです」

「俺は必要ないということか」


「違います。ライルさんは必要です。でもライルさんはライルさんのもので、いつでも自由な心でいてほしいということです。……ライルさんはちょっとずれていると思います」

「お前にずれているとは、言われたくない」

 ライルさんは冷静に呟くと、ため息をついた。



「そんなに優しくするな」

「え?」

「その優しさは、俺ではなくクライに」

 ライルさんはリングをわたしの前に差し出す。


 クライに……?

 もしかしてわたしの好意に気づいて、その好意を自分以外に向けさせようとしているの?



「……迷惑……でしたよね」

 わたしの心は一瞬で重くなる。


 彼は左右に首を振る。

「俺には受け取る資格がない」

「どういう意味ですか? 資格がないなんてこと絶対にないです。迷惑じゃないんなら、受け取ってください。クライじゃなくてライルさんのことを思って作ったんです。ライルさんが要らないって言うなら、このリングは行き場がなくなってしまいます」


「……そうか。お前は変わらないな」

 ライルさんは目を伏せた後、僅かな間、黙っていた。



「本当に俺が貰ってもいいのか?」

 次にそう言葉を発したとき、彼の瞳の色はミントグリーンに変わっていた。


「勿論です」

 わたしは頷く。


 ライルさんは、ゆっくりと自分の額にリングを嵌めた。

 斜めの、いつもの位置。


「よかった。思っていた通り、すっごく似合っています」

 わたしは笑って伝える。


「美しいリングだと思う。俺には……とても勿体ない」

 ライルさんはそう言うと、そっと額のリングの縁を撫でた。

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