諍い加速?
「お帰りなさい、セリア!! 心配してたのよ。クライからハンナでこちらの世界のことを勉強しているって聞いてはいたけど。カエヒラ様に送ってもらったのね。ホントに良かった。あ!! もしかして、ライルと喧嘩してるとか?」
メルさんの瞳が輝いている。
やけに嬉しそうだ。
「喧嘩は……終りました。多分…… 」
わたしはライルさんに視線を向ける。
ライルさんは返事をしてくれない。
「ライルさん、まだ怒ってますか?」
「怒っていないし、そもそも最初から喧嘩なんてしていないだろう」
「え? すごく怒ってたじゃないですか」
「怒っているのとは違う」
「だって帰ったのに、お帰りなさいって言ってくれなかった…… 」
「親父に抱かれている状態でそんな言葉はかけられない」
「だ、抱か……変な言い方しないでください。カエヒラ様はよろめいてしまったわたしを受け止めてくれただけです」
「親父の前でよろめくな」
「わたしだってカエヒラ様に迷惑をかけて申し訳ないと思ってます」
「そういうことを言っているわけではない」
「ちょっと!! 私の目の前でイチャイチャしないで!!」
メルさんが叫んだ。
「……メル姫、お言葉ですがどういう意味でしょうか?」
ライルさんが聞き返す。
「あー、もう。なんか……なんか嫌……。大体ライル、あなたには言いたいことが山ほどあるのよ」
メルさんは強い口調で言った。
「あなたにセリアを」
「メル姉、やめてください!! 何を言うつもりですか?」
「だから」
「わ、間違えました!! やっぱりダメ!! ここで言わないでください」
わたしはすごいスピードでメルさんの腕を掴み、彼女を足早に引っ張っていく。
もうどこへ向かうというわけでもなく。
とにかくライルさんとクライから距離を取りたかった。
2人から50メートルくらいは離れただろうか。
「セリア!! 2人きりなのは嬉しいけど少し腕が痛いわ」
メルさんの呼吸が乱れている。わたしはようやく彼女の腕を離した。
「メル姉、ごめんなさい。でもライルさんに変なことを……言わないでください」
「変なこと? ただセリアを任せられないって言おうとしただけよ。殴るよりはずっといいでしょう?」
「殴るって……」
まだそんなことを言っている。
「殴るのは我慢する。だって本当にセリアが前に飛び出してきそうだもの」
メルさんの言葉にわたしは小さく息を吐いた。続けて聞いてみる。
「任せられないってどういう意味ですか? 護衛としてですか?」
「ううん。勿論、セリアの伴侶として」
やっぱりライルさんの気持ちは無視なのだろうか?
もうどこをどう突っ込んでいいのかわからない。それに……。
「メル姉、わたしの気持ちを応援するって言ってくれたじゃないですか」
「セリアのことは応援したいわ。嘘をついたわけじゃない。けど、ごめんなさい。あんなライルには任せられないのよ」
「メル姉にはメル姉の考えがあるのは分かります。でも、わたしの気持ちがばれるような事は……言わないでください」
「そんなこと言わないわ。ただあなたの伴侶には相応しくないと……」
「だからそれがバレバレじゃないですか」
もう泣きたい気分だ。
リングを贈る前に気持ちがばれて、振られて、贈り物なんて渡せないくらい気まずくなる可能性だって十分にありえる。
「セリア、あなたを困らせようとしているわけではないの」
メルさんは破顔する。
わたしはよほど困った顔をしていたらしい。
「メル姉……」
「分かったわ。しばらく私、ライルには近寄らない。感情的に余計なことを言ってしまいそうだから。とにかくあなたが無事に戻ってきてくれたのだから今日のところは良しとするわ。……落ち着いたらまた一緒にお茶を飲みましょう」
「はい」
わたしは頷く。
メルさんは優しい顔でわたしの髪をなでた。
そして真っ直ぐにお城の扉へ進んでいく。
わたしはメルさんを見送って、ライルさんとクライの元に戻った。
「えっと、セリア、大丈夫? メル姫さま、なんか怒ってた?」
クライが首を傾けながら尋ねる。
綺麗な青系のグラデーションの髪がさらさら右方向へと流れた。
「大丈夫。怒ってないよ。メル姉は優しいもの」
「そうだね。セリアのこと、大好きだもんね」
それは……きっとそうなのだと思う。
落ち着いた優しい雰囲気の彼女が感情を露にするのは、いつだってわたしのことで。
時に困ることもあるけれど、それだけ愛されているのだと感じる。
メルさん……。
いいえ、親しみを込めてこれからは心の中でもメル姉と呼びたい。
だって彼女はわたしの本当のお姉さんなのだから。
「セリア、おかえり。おかえりなさい。主が言わないから2人分言ってみたよ。元気そうでよかった」
「クライ……。すぐに戻らなくて心配かけてごめんね」
クライは笑って左右に首を振る。
「フェスティバル、一緒に参加できて楽しかった」
「まあね。でもあれでほんとに社会勉強になったの? 変な子供に好かれるわ、コレットが暴走するわで大変だったじゃない」
「あれはあれで楽しかったよ」
「んー、でもやっぱりコレットに対する処置が甘すぎるよね……」
そう言ってクライはライルさんに視線を向ける。
なぜかライルさんはクライから視線を逸らした。
「あ、そっか。この件に関して主は何も言えないか。自分も同じことしてるし、コレットの方が未遂なだけまだマシとも言えるしね」
「え? 何の話」
「いいの、何でもない。セリアはとっても寛大だなって話。ところでずっと気になってたんだけど、さっきから大事そうに何持ってるの? フェスティバルで作ったお菓子でも貰ってきたの?」
わたしは両手で包みを持っていた。勿論ライルさんへの贈り物のリングが入った包みだ。




