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帰城早々の諍い

 カエヒラ様は自分もキニュレイトに乗ると立ったまま右手を突き出し、いとも簡単に空間に穴を開けた。

 この穴に飛び込めばきっとお城に戻れるはず。


「姫、戻りますがよろしいですか?」

 カエヒラ様は振り返り、わたしに確認する。


「あ、はい。みなさん、本当にお世話になりました。ありがとうございました」

 わたしはこの場にいるみんなに最後の挨拶をする。


 ハンナのみんなはわたしに深々と頭を下げ、リズさんは軽く手を振った。


 ずいぶん長居をしてしまったから、みんなと別れるのが少し寂しくもあったけど、決して永遠の別れというわけではない。望めば、いつでもきっとまた会える。



「では」

 カエヒラ様がキニュレイトごと穴に入ると、唐突に外の空間に投げ出された。

 準備はできていたはずだけど、眩むような光に思わず顔を顰める。

 しかも結構な高度があって怖い。

 一体ここはどこ?


「もう一度」

 カエヒラ様は素早く穴を開け、再びキニュレイトごとその穴に飛び込む。


 今度は眼下に見覚えのある美しい景色が広がった。


 森に囲まれた真っ白なお城。小道を辿れば妖精さんたちがいるフラワーガーデン。

 キニュレイトは徐々に下降して、お城の正面玄関の前で止まった。

 もう地面すれすれ。すぐにでも降りられる高さだ。

 カエヒラ様はキニュレイトの上でわたしに近づくと、わたしの目の前に座り込む。


「心配ですので部屋の前までお送りいたしますが、直接抱えてもよろしいでしょうか?」

「え?」

「私の魔力が姫の部屋近くで感知されたらライルに怪しまれます。部屋まで気付かれないよう使用する魔力を最小限にしますので」

 カエヒラ様はそう言うと綺麗な顔で笑った。


 ……ああ。やっぱりライルさんにとても似ている。

 わたしはじっとカエヒラ様を見つめてしまった。


「姫?」

 カエヒラ様は心配そうに身を乗り出し、首を傾げる。

 ち、近い……。


「あ、あの、こ、ここで大丈夫です。部屋まで1人で戻れますから」

 わたしは慌ててキニュレイトから立ち上がる。

 キニュちゃんは宙に浮いた絨毯みたいなもので、ふかふかして案外不安定。途端にバランスを崩した。


「……と。姫、大丈夫ですか?」

 カエヒラ様は転びそうになるわたしを瞬時に抱きとめた。


 恥ずかしい……。

 注意力が足りなすぎる。

 そういえば前にも同じようにライルさんのキニュちゃんから落ちそうになって、キニュちゃんが受け止めてくれたことがあった。



「何をしている?」

 いつの間にかお城の扉が開け放たれ、扉の前にライルさんが立っていた。


「ライルさん……」

 彼はわたしに近づくと、

「何故親父と一緒に居る?」

と言い、怖い顔でわたしを睨んだ。


「……ごめんなさい。ハンナからここまでカエヒラ様に送ってもらいました」

「シンリーもぐるか」

 ライルさんはため息をつく。


 戻ってきて早々、ただいまの挨拶もせずに謝らなくてはいけない状況になってしまったことが辛い。

 でも自業自得だ。


「ライル、姫やハンナの皆を責めるような言動はよしなさい」

 カエヒラ様はわたしから離れ、キニュレイトから降りた。


「別に責めてはいない。ただ聞いているだけだ」

「ようやく戻られた姫に掛ける第一声がそれですか?」

「こいつが不可解なことばかりするからだ」

「別に誰が姫を送り届けたって構わないでしょう。私は束の間の護衛をしたまでです」

 カエヒラ様は微笑む。


「お前は何故俺を呼ばない?」

 ライルさんの視線がカエヒラ様からわたしに移る。


「それは……」

「お前の護衛は俺のはずだ。この期に及んで親父を選ぶのか」

 え……?

 刺すようなライルさんの視線が痛い。


「……なるほど。仮に姫が私を選んだのなら君は素直に護衛を降りますか?」

 カエヒラ様がライルさんに尋ねる。


「降りるはずもない」

 ライルさんは即答した。


「わたしだってライルさんじゃなきゃ嫌です」

「は?」

 わたしの言葉にライルさんは大きく目を見開く。


「……っく。ははっ」

 カエヒラ様は笑った。

「ライル、これではっきり分かったでしょう。姫は小さいころから全く何も変わっておられない。それに束の間の……と言っているにも関わらず、君がそのように取り乱すとは少し驚きました。キニュレイトの件といい、これはクライに詳しく事情を聞く必要がありそうですね」

「……余計なことをするな」

 ライルさんは瞳を伏せ、苦い顔で自分のこめかみ辺りに手を置いた。



「セリア!!」

 そのクライが開いた扉から現れる。

 少し後にメルさんの姿も見える。


「姫、私はこれで失礼いたします。あまり良い帰城といかず申し訳ございません」

 カエヒラ様はそう言って頭を下げた。


「いえ、とんでもないです。送って下さってありがとうございました」

 カエヒラ様は素早くキニュレイトを消すとライルさんに、

「そんな調子ではいつか優しい姫に愛想をつかされますよ。一緒に居たいのならもう少し言動には気をつけなさい」

と言い、自分も消えた。

 ライルさんは頭痛のポーズのままでいる。

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