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単なる物

 5分後、リズさんはカエヒラ様とともに戻って来た。

 突如空間に開いた穴から、ライルさんがよく使う光の魔法陣に乗って。


 その美しい魔法陣の文様は床に張り付くと、そのまま消えてしまった。


「お待たせ、セリちゃん」

 床に下りたリズさんはにこやかにわたしに近づく。


「……は、早かったですね」

 魔法とはいえ、お城までの距離を考えたら信じられない驚異の早さだった。

 わたしと一緒に待っていたシンリーさんたちもさすがに驚いている。



「セリア姫の頼みでしたら」

 カエヒラ様がそう言って頭を下げる。


「カエヒラ様、わざわざ来ていただいてすみません」

 わたしは恐縮して深々と頭を下げた。

 ライルさんにリングをプレゼントしたいというささやかな(?)願いから、なんだかとんでもないことになってしまった。


「姫、何もお気になさらず。不肖の息子に代わって再び私が姫の護衛に就きたいと思っているくらいですから」

「え……?」

「そんなに困った顔をしなくても大丈夫ですよ。今更ライルが私に譲るはずもないでしょう」

 カエヒラ様は笑った。



「ところで、こちらはお気に召しませんでしたか?」

 カエヒラ様は簡単な手品のように宙で手を振り、掴んだ手を見せた。

 手のひらにはあの時の指輪が載っていた。


「ライルに頼まれて姫に差し上げたはずのものが、先日戻って参りました。返品……ということでしょうか?」

「ち、違うんです。わたし、図々しくカエヒラ様のものを貰おうなんて、これっぽっちも思ってなくて。そもそもライルさんの勘違いですから……」

「勘違い?」

「はい。説明すると、とーっても長くなります」

「なんだか楽しそうなお話ね」

 リズさんが興味津々といった表情でカエヒラ様の手の上の指輪を覗き込む。


「いえ、そんな……お二人にお話するようなことではありません!!」

 言えるわけがない。

 最初のお守りのスカーフの話をしただけで、ライルさんのことが好きだと気づかれてしまう。


「大丈夫ですよ。無理に聞いたりはしません」

 カエヒラ様は微笑んで言った。

 わたしは大きく息を吐く。



 それにしても、改めてこうしてお二人並ばれていると、壮観……。

 まさに絵に描いたような美男美女カップルだ。

 わたしは気になっていたことを思い切って聞いてみることにした。


「……あの、お二人ともどうしてそんなにお若いんでしょうか?」

「ああ、えっとね。それは単純に私の趣味」

「え?」

 リズさんの答えに思わず間抜けな声を返してしまう。


「若いといっても見た目だけです。魔法はそんなに万能ではありませんので。ちなみに私はリズさんの趣味に付き合わされているだけです」

 カエヒラ様が困ったようなような表情で言った。


 ライルさんや美形の王子様たちで免疫はあるけど、カエヒラ様の美しさも全く彼らに引けを取らない。

 一番いい年齡で(?)時を止めたくなるリズさんの気持ちも分かる。


「ライルには呆れられていますけどね」

 カエヒラ様は俯く。


「ライくん、私には何も言わないわよ」

「リズさんは甘いですから」

「……そうかもね」

 リズさんは笑った。



「さて、雑談も良いですがそろそろ」

 そう言ってカエヒラ様が軽く右手を振ると、見覚えのあるものが目の前に現れた。


「わ、キニュちゃん!!」

「キニュ……ちゃん?」

 カエヒラ様は怪訝な表情をする。


「キニュレイトのことね。可愛い呼び方」

 リズさんが言った。


 カエヒラ様のキニュちゃんはわたしの足元で待機する。


「セリア姫、どうぞお乗りください」

 カエヒラ様の言葉に「お邪魔します」と言い、キニュちゃんに座らせてもらった。

 そっと手で撫でてみたキニュちゃんからは何の反応もない。


「キニュ……ちゃん?」

「どうしたの?」

 リズさんが聞いた。


「わたし、キニュちゃんに嫌われてしまったんでしょうか?」

「どういうこと?」

「キニュちゃん、いつもはすごく優しい感じがするから」

「キニュレイトが?」

 リズさんは考えるように呟き、カエヒラ様の方を見る。


「ライルのキニュレイトですか?」

 カエヒラ様の質問にわたしは黙って頷く。

 途端にカエヒラ様は笑い出した。



「……すみません」

 謝るけれど、カエヒラ様の肩はまだ震えている。


「カエヒラ様?」

「……失礼しました。あまりにも意外で。普通、キニュレイトに感情なんて存在しないものですから」

 そういえばライルさんも自分で出しておきながら、気味が悪いとか言っていた。


「セリちゃん、同じように見えてもカエくんのキニュレイトとライくんのキニュレイトは違うものなの」

「それは……分かります。けどクライが出したキニュちゃんも同じような感じだったので、キニュちゃん自体が人に懐っこいものだと思っていました」

「懐っこい……? 確かにキニュレイトは魔術師の思いで出来ているけど、あくまでも単なる物よ」

「物……」

 それはそうなのかもしれないけど、わたしは今更キニュちゃんを単なる物だなんて思えない。


「それにしたってずいぶんレアなケースですね」

 カエヒラ様が言った。


「カエくん、今度ライくんにその『キニュちゃん』を見せてもらいましょう」

 リズさんは楽しそうに言った。

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