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お城に戻る方法

 それからわたしはエチカさんたちに案内してもらいながら宿中のみんなにブローチを渡して回った。

 厨房にいた料理長とエリスさん、カミラさん、執務室にいたシンリーさん、様々な場所にいた名前を聞いていない方たちにも。

 サプライズだったこともあるけれど、フェスティバルのお菓子をモチーフにしたデザインがよかったのか、とてもとても喜ばれた。

 思い切って作ってよかった……。


 ほっとしてエチカさんたちと部屋に戻ると、

「セリちゃん、お城まで送ってあげるわ」

とリズさんが言った。

 リズさんは帰らずに待ってくれていたようだ。


「大丈夫です。ここまで1人で来れましたし、1人で歩いて帰れます」

 わたしは笑顔で返す。


「そんなことダメに決まっているでしょう? ライくんが知ったら激怒するわよ」

 そういえばライルさんから1人にならないよう念を押されていた。


「でもこれ以上リズさんに迷惑をかけられません」

「セリちゃんのことで迷惑なことなんて1つもないわ。カエくんにお願いするわね」

「え?」

「私、自分は移動できても誰かを連れて移動するのは得意じゃないの。ちょっと呼んでくるから待っていて」


 呼んで……くる?

 まさか、カエヒラ様を?


「いえ、あの!! リズさん、大丈夫です!!」

 わたしは慌ててリズさんの服を掴む。


「そうですよ。カエヒラ様はとてもお忙しい方です。姫様はハンナが責任を持ってお送り致しますので、ご心配なさらないでください」

 エチカさんが言った。


「でもカエくんが一番早いと思うから」

「……確かに」

 キイロさんの呟きにエチカさんが顔を顰める。


「とりあえずおさを呼んでまいります。リズ様、少々お待ちくださいませ」

 エチカさんは颯爽と部屋を飛び出していった。



「リズさん、カエヒラ様は……その、緊張します」

 わたしは呟く。


「苦手?」

「いえ、苦手とかじゃなくて……すごい方ですし、なんか……あの、とてもライルさんに似ていますし」

「変なセリちゃん。カエくんだって王家の……セリちゃんの臣下なのだから、ライくん同様、何でも頼んでいいのよ?」

 滅相もない。わたしはすごい勢いで左右に首を振る。

 リズさんは笑った。


「でも、まあ……そうね。ライくんは私よりカエくんに似てるわよね」

「なんとなくですが、クライがリズさんに似ている気がします」

「セリちゃん、クライが人じゃないのは知ってる?」

 わたしはゆっくりと頷く。


「クライのことはどう思ってるの?」

「……クライは、とても優しいです。いつもわたしのことばかり考えて。ただそのせいなのかは分かりませんが、たまに精神的に不安定になるのが心配です。それでも……わたしは彼とずっと一緒にいたいって思ってます」

「そう……。きっとクライも同じ気持ちでいると思うわ」

 リズさんは優しく微笑む。



 そこでシンリーさんを連れてエチカさんが戻ってきた。


「リズ様、姫様のお戻りについてエチカに聞きました。今回、リズ様をお呼び立てしてしまっただけでも申し訳ないのに、カエヒラ様にまでご負担をおかけするわけにはまいりません。姫様のことはライル様から任されました私が責任を持ってお城までお送りいたします」

 わたしは横で頷く。

 またシンリーさんに迷惑をかけてしまうことになって申し訳ないけど、それでもカエヒラ様に迷惑をかけるよりはずっといい。


「シンリー、私は王族じゃないんだからそんなに畏まらないで」

 リズさんがきっぱりと言った。


「ですが……」

「セリちゃんのためよ。シンリーだってセリちゃんを早くライくんの元に返してあげたいでしょう?」

「ええ、それはもう……」

 シンリーさんは真剣な瞳でリズさんを見ている。


「カエくんだってセリちゃんのためにできることがあれば嬉しいのよ。だからこんな些細なこと、何の負担でもない。セリちゃんが不在だったこの15年のことを考えてみて? カエくんも何かしらの理由をつけてちょっとでもセリちゃんと一緒にいたいはずよ」

「確かにそうですね。ようやくお戻りになられたセリア姫様の安全のためにはカエヒラ様が適任なのかもしれません。……私が間違っておりました」

 ええ!?

 何この展開。

 いつの間にかシンリーさん、リズさんに言い包められている?


「大体、私だってセリちゃんと離れたくないくらいだし……。セリちゃんと一緒にお城に行っちゃおうかしら。ああ、もうずっと一緒にいられるライくんとクライが羨ましい」

 リズさんはそう言った。


「正直なところ私もです。王族の方をハンナで待つのが私の仕事ですが、ここ数日いつでも姫様の側にいてお仕えしたいという気持ちが芽生え始め、戸惑っております」

 シンリーさんは切ない表情で目を伏せる。


 もう何が何やら……。

 2人の気持ちはありがたいけれど、趣旨が変わってきている。


 どうしよう……。

 わたしが何か話し出そうとする前にリズさんは、

「というわけで、ちょっとカエくんのところに行ってくるわね」

と言い、その場から消えてしまった。


 早い……。

 その消え方はライルさんの仰々しい空間魔法と違い、前にメルさんが瞬間移動したときと似ていた。

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