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クライに似ている

「セリちゃん、何言ってるの? あ、記憶がないのよ……ね。私はライルの母のリズ・アルベルトです。どうぞよろしくね」

 彼女は笑う。


「リズ……様?」

 確かに若い外見に似つかわしくなく、彼女の話し方はとても落ち着いている。

 リズ様の記憶はないけれど、どういうわけか初対面の気がしない。


「カエくんばっかり先にセリちゃんに会ってずるいって思ってたの。呼んでくれて嬉しいわ」

 リズ様は言った。


「カエくん?」

「セリちゃん、お城でカエくんに会ったでしょう?」

「カエ……カエヒラ様のことですか?」

 リズ様は頷く。


 カエヒラ様のことはライルさんのお兄さんだと勘違いしてしまった。けれどリズ様は更にそのカエヒラ様よりずっと若く見える。

 一体どうなっているのだろう?



「セリちゃん、何か私に作ってほしいものがあるって聞いて来たのだけれど、ライくんは一緒じゃないの?」

 リズ様は辺りを見回す。


 ライくん……。

 ライルさんのこと……だよね?

 そんな呼び方は全く彼のイメージではない。でもそれを言うならカエヒラ様の『カエくん』もだけど。


「ちい……いえ、クライ……までいないみたいね。大事なセリちゃんを1人にするなんて、2人とも護衛として失格ね」

 リズ様は困った顔でそう続けた。


「あ、違うんです。ライルさんにもクライにも……秘密にしたくて」

 それからわたしはライルさんに貰った腕のリングを見せながら、彼にお返しをするためにハンナのみんなと一緒に代金を用意した旨を説明した。


「……セリちゃん」

 リズ様は呟くと、突然両手で顔を押さえ俯いてしまった。


「リズ様?」

「ごめ……な……さい。これで2度目……ね」

「え?」

「何でもないの。ありがとう。ライくんのことを……大切に……思ってくれて」

 リズ様の声は震えていた。


「リズ様……?」

「そのリズ様っていうのはやめて。みんな何故かリズ様って呼ぶけど、カエくんとライくんのせい……なんだから。セリちゃんは、リズって……呼んでね」

 泣きながら話しているせいか、リズ様の言葉は途切れ途切れだ。


「……はい。じゃあお言葉に甘えて、リズさんって呼びますね」

「呼びつけで……いいけど、仕方が……ないわね」

 リズ……さんは顔を上げ、涙で濡れている頰を拭いながら笑った。


 ああ……この感じ。一緒にいてほっとするこの感じ。

 ずっと誰かに似てるって思ってた。

 クライだ。

 リズさんはクライに似てるんだ。それとも、クライがリズさんに似てるのかな。



「どんな感じのリングにしましょうか?」

 潤んだ瞳のまま、リズさんはにっこり笑って顔を横に傾ける。

 途端にふわふわの銀の髪が揺れた。

 ホント可愛いったらない……ってリズさんに見惚れてる場合ではなかった。

 リングのデザインについては前々から真剣に考えていた。


「えっと、正面はシルバーの凹凸で、上下がシルバーと緑二色を使って三色ストライプにしたいんですけど、どう説明していいか……。あ、そうだ。上手く描けるか分かりませんが絵で描いてみますね」

「大丈夫よ。セリちゃん、私に触れながら強くイメージしてくれる?」

 わたしは言われた通りリズさんの腕に触れ、リングをイメージする。

 理想のリングが目の前に立体的に浮き上がった。


「どう?」

「凄い……。まさにこれです」

「シルバーの素材はやっぱり金属がいいかしら? 緑の部分はチベンライドとアシノスという宝石がぴったりだと思うけど、何種類か出すからよかったら色味を見て決めてね」

「あの、できればシルバーの素材はスレアチブがいいんですけど、スレアチブって高価ですか?」

「だからもう、セリちゃんはお代の心配なんてしなくていいの」

 リズさんは呆れた声で言った。


「そういうわけには……」

「そんなことより、スレアチブって……イミテーションでいいの?」


 勿論スレアチブがイミテーションなのは知っている。

 でも今着けているスレアチブ素材の腕輪はカナンに行った時に着けていたとんでもなく重い装飾品と違ってとても快適だ。見た目も本物となんら遜色はない。


「イミテーションはダメですか?」

 わたしは尋ねる。


「そんなことないわ。軽くて体に負担がないし、スレアチブは成形に適したとても人気の素材よ」

「……ライルさんは本物のほうがいいのかな」

 わたしは独り言のように呟く。


「ライくんは何も気にしないと思うわ。セリちゃんからの贈り物なら……と言いたいけれど」

 リズさんはそう言って目を伏せた。


「もしかして贈ること自体、迷惑なんでしょうか?」

「まさか。ただ、ライくんにはセリちゃんの優しい気持ちが分からないかもしれない」

「分からない?」

「欠けているのよ。それに例え分かったとしても、きっと自分にはセリちゃんの優しさを受け取る資格がないと思っているから」

「どうしてですか?」

「……ごめんなさい。でもこれだけは忘れないで。ライくんはセリちゃんの護衛で、自分よりもセリちゃんのことがずっとずっと大切なの。ライくんのこと……信じてあげてね」

「それは、勿論です」

 答えても、リズさんは伏せた目をわたしに向けようとはしなかった。


「リズさん、心配しないでください。わたし、例えライルさんに迷惑がられても落ち込んだりしません。どんなに時間がかかろうと絶対ライルさんの笑顔を取り戻すって決めたんです。向こうの世界にいた時、毎日夢の中でライルさんの笑顔を見ていました。あれがただの夢だなんて思えない」

 わたしは瞳を閉じて、これまで何度も何度も見てきたライルさんの綺麗で温かな笑顔を思い出す。


「セリちゃん……」

 リズさんは呟くと、わたしと彼女の間に浮くホログラフィのようなリングを無視してそっとわたしを抱きしめた。


「セリちゃん、ありがとう」

 リズさんの声が優しく響く。


 リズさんの細い肩を抱きながら、やっぱり彼女はクライによく似ていると思った。

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