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お疲れさまでしたのパーティー

「それはラ……」

 ダメだ。これまでのことで、流石にわたしも学習している。

 クライとライルさんは離れていても繋がっているのだ。


「えっと……ら、楽な生活していいってわけじゃないでしょ? だから、社会勉強……? この世界のことをよく知りたいし、生活力をつけたくて」

「ヒナは王女だよ? 生活力なんて必要ないよ」

「そんなことない。降って湧いたような身分に甘んじて自分で何もできないなんて嫌だし」

「そっか。ヒナ……らしいね」

 クライは頷きながら言った。


 ……辛い。

 本当のことが言えなくて、とっても辛い。

 でも言ったことも嘘ではなかった。



「クライ、今日はありがとう。それと、コレットさんのことも許してくれて」

「それは……別に許したわけじゃない。ただ許さないとヒナが哀しい顔するから」

 わたしは緩く笑う。


「わたし、もう少しハンナのみんなと一緒にいるね。クライは先にお城に戻っていてくれる?」

 クライは心配そうにわたしをじっと見つめた。


「大丈夫だよ。必ず戻るから」

「……うん、分かった。待ってるね。あ、そうだ。言うタイミングを逃しちゃったけど、その姿もとっても可愛いよ、ヒナ」

 彼はそう言って笑った。

 それはいつもの優しい笑み。心がふわふわと温かくなる。




 ハンナに戻ったわたしたちを待っていたのは『ナンハ大盛況、お疲れさまでした』のパーティーだった。

 シンリーさんはパーティーのための豪華な食事や飲み物をたくさん用意してくれていた。

 勿論それはハンナの厨房スタッフが用意してくれたもので、追加のお菓子を作りながらパーティーの準備までして、さぞや大変だったろうと思う。

 魔法の薬の効力は切れ、わたしの髪と瞳はすっかり元通りだ。


「みなさん、今日は本当にありがとうございました」

 わたしは大きな声で、ハンナのスタッフ全員にお礼を言った。



 計算したフェスティバルでの売上は、仕入にかかった材料費などを除いて大体5000キリ。

 これだけあればライルさんに素敵なリングをプレゼントすることができる。

 目標を達成することができて、みんなも嬉しそうだ。


「姫様、本当にようございました。早速明日にでもリズ様のところに参りましょう」

 グラスを持ったエチカさんが言った。


 リズ様……。

 リングはライルさんのお母さんにお願いすることになっていたんだった。


「心の準備が……」

「大丈夫ですわ。リズ様はお優しくて可愛らしい方なのでそんな風に緊張することはございません」

 マニさんが言った。


「でも……」

「姫様、落ち着いてくださいませ。よかったらお飲み物でもどうぞ。こちら、口をつけておりませんので」

 エチカさんは手に持っていた透き通る紫色の飲み物が入ったグラスをわたしに差し出す。


「ありがとうございます」

 わたしはグラスを受け取り、一口飲んだ。


「炭酸?」

「苦手でございましたか?」

「いえ、ただ驚いてしまって。この世界にも炭酸ってあったんですね」

「はい。こちらのアカシニセンソーダは女性にとても人気です。美容に良く、度数は10段階の3と低めになっております」

 度数……って? お酒じゃなくて、ただの炭酸……だよね?

 向こうの世界の炭酸とは何か違うのかもしれない。


 もう一口飲む。

 紛うことなく炭酸だ。

 甘酸っぱい果実の懐かしく爽快なしゅわしゅわ感が喉を通っていった。



「実は、リズ様ですが、明日こちらに来ていただくことになっております」

 エチカさんとの会話が終わるのを待っていたかのように、シンリーさんが微笑みながらそう言った。


「ふぇ?」

 わたしは再び口に含んでいたソーダを飲み込み、間抜けな声を返す。


「リズ様は普段コルハと正反対のミチミチの山奥に居られます。魔力のない者が転移スポットや車で移動すると結構な時間がかかりますし、その間また姫様に護衛を付けなければなりません。ですからリズ様には事情を説明しましてこちらに来ていただくことに致しました。お城で姫様を待っているみなさまのためにも迅速かつ安全に……でございます」

「さすがおさですね」

 キイロさんは尊敬の眼差しでシンリーさんを見ている。


 わたしは移動手段のことなんて深く考えていなかった。

 シンリーさんには助けられてばかりだ。






 翌日、朝食を食べ終わると同時に、部屋に来客者がやって来た。


「セリちゃん? ホントにセリちゃんなの? 会いたかったわ!!」

 返事を返す間も確認する間もなく、来客者は思い切りわたしに抱きつく。


「え? ええ!?」

 緊張感も何もない。

 ちょっとしたパニックだ。


 彼女は戸惑うわたしから離れると、顔を上げて笑った。


「ラ、ライルさんの……ライルさんの……妹さんですか!?」

 わたしは叫ぶ。


 ふんわりとしたシルバーの髪に黄緑の瞳。その綺麗な髪と瞳の色がライルさんを思わせた。

 でもわたしよりいくらか年下のように見えるその姿はただただ愛らしい。


 わたしの言葉に、彼女はきょとんとした顔でほんの少し小首を傾げた。


 どういうことだろう。

 ライルさんのお母さんではなく、間違えて妹さんが来てしまったのだろうか?

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