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お菓子作りと謎の液体

 そんなわたしたちの様子をエチカさんたちは困ったような表情で見ていた。

 でも決して咎めることはなく、温かな眼差しで……。


 わたしはエリスさんとカミラさんにもライルさんにリングをプレゼントするためのお金を稼ぎたいことを伝えると、2人は是非とも協力したいと言ってくれた。

 ちなみにおでこ全開の方がカミラさん、ピン留めの方がエリスさんだった。




 それからハンナの厨房のスタッフみんなで協力して試作の焼き菓子を作った。

 フルーツを使ったクッキーや日本にない食材の入ったパウンドケーキ、スワリの茶葉の入ったマドレーヌ、パイ生地に旬の野菜のジャムが入った切り口が美しいものなどそれはもう様々。

 料理長なんて俄然張り切って、そのジャムを三層にして味だけではなく色使いまで徹底的にこだわってくれた。


 そんなわけで2日にわたり試行錯誤を繰り返しながら作ったお菓子はどれも素晴らしい出来になった。

 勿論プロのスタッフの力によるところが大きいけれど、みんなで意見を出し合って作れたのが何より嬉しかった。


「このラインナップなら申し分ございませんね」

 エチカさんが10種類以上のお菓子を目の前に、満足そうに頷く。

 キイロさんは試食の手が止まらず笑顔で口を動かしている。


「焼き菓子でこんなに綺麗な見た目のものは初めてですわ。味も普段食べているものとは段違いです」

 マニさんもお菓子を見つめながらそう言った。


「やりましたね、姫様」

 カミラさんが嬉しそうに腕を上げ自分の左右の手を緩く握る。


「みなさんありがとうございます」

 わたしは料理長を始めスタッフのみんなにお礼を言った。


「いいえ。姫様、これからですよ」

 エリスさんが言った。


「え?」

「これからいっぱいこのお菓子を作らないといけません。何と言っても明日が本番ですから」

「そっか、もう明日……」

 試食で満足している場合ではなかった。


「だからこれからできるだけたくさん作って、たくさんたくさん売りましょう」

「はい!!」

 わたしは答える。


 お金を稼ぐ手段としてお菓子を売ることにしたのだけれど、このお菓子ならきっと食べた人も心から喜んでくれるだろう。

 それから夜までみんなで協力して作り続け、粗方の数が揃った。



「後の新鮮なジャムを使ったものは当日料理長にお願いするとして、姫様はもうお休みください。その前におさからお話があるようなので少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」

 エチカさんが微笑んで言った。

 わたしは頷く。




 案内された部屋にシンリーさんが立っていた。


「姫様、こんな時間までお疲れさまでございました。素晴らしいお菓子が揃いましてようございました」

 シンリーさんは穏やかな表情だ。


「みなさんのおかげです」

「それで明日のフェスティバルですが、姫様のご希望通り直接参加していただこうと思っております」

「ホントですか!?」

「わたくし、ライル様には内密にコレット様に姫様の警護を頼んでまいりました。コレット様は姫様にも面識があるようでございましたから」

「あ、港の警備隊長のコレットさんですか? なんだか面白い方ですよね」

「女性に対して独特の感性をお持ちのようですが、腕は確かでございます。本当はコレット様の上官のルビナ様にお願いしたいところですが、ルビナ様は城仕えなのでさすがにライル様に気づかれてしまう恐れがありまして……」

 シンリーさんは残念そうに頰に手を当てる。


「そうですよね。配慮していただき、ありがとうございます」

 きっと彼女はわたしの無理な願いのために色々考えて動いてくれたのだと思う。


「とんでもございません。明日のことは何も心配なさらず、本日はごゆっくりおやすみくださいませ」

 シンリーさんはそう言って頭を下げた。






 いよいよフェスティバル当日。

 窓から日の光が差し込む。今日も晴天。

 自慢のお菓子とみんながいてくれるから不安はない。

 充実した1日になりそうだ。


 朝食を食べて厨房に向かおうとしたら、エチカさんに止められてしまった。


「お菓子でしたらもう全てご用意できておりますので、ご心配なさらずとも大丈夫です。それより本日はもっと大事なことがございます。マニが今、持ってまいりますので少々お待ちくださいませ」

 彼女はにっこりと笑った。



「本当にこの真っ青な液体を一気に飲むんですか!?」

 思わず大声で叫んでしまう。


 あれからすぐにやってきたマニさんから受け取ったグラスには、並々と青い液体が注がれていた。

 合成着色料?

 いくらなんでもこんな自然じゃない色のものを体に入れるのには抵抗がある。


「申し訳ございません。コルハはゲートを解除され、他国の船も行き来しております。警護を付けたとはいえ、姫様自体できるだけ目立たないようにしていただかないと」

 エチカさんが言った。


「それでこれを飲むんですか?」

「大丈夫です。子供が遊びで使うようなちょっとした変化の薬でして、大した持続性はありません」

 マニさんが横でそう言って優しく笑った。


 けれどそう言われてもなかなか決心がつかない。


「……危険な色」

 わたしは呟く。


「全く。ハイコウエの根とザザの幹の汁にクルトナの尾の粉、それに少しの魔法。匂いも味もないのですよ」

 マニさんは丁寧に説明してくれた。


 植物はいいにしてもクルトナの尾の粉って……。

 いや、ライルさんのリングのためだ。

 ここは一気に!!


 わたしは目を瞑り、勢いよく青い液体を飲み干した。

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