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傷つけないで

 わたしは小さく頷いた。

 顔が熱い……。

 一層腕輪を握る手に力がこもる。


「ライルの魔力……?」

「え? ライルさんが近くにいるんですか?」

「彼の気配はないわ。あなた、何かライルのものを持っていない?」

「あ……」

 わたしは腕をまくってメルさんにライルさんから貰った腕輪を見せた。


「それは?」

「ライルさんの額のリングです。お守りとして貰ったんです」

「お守り?」

「はい。わたしが強請ねだったんです」

「強請った?」

 メルさんは目を丸くしている。



「まさか、あなたが好きなのってライルなの?」

 わたしの顔はますます赤くなる。


「そうなの?」

 震える声のメルさんの問いに、わたしは再び頷く。


「ダメよ!! ライルだけは絶対にダメ!!」

 メルさんは険しい表情で叫んだ。


「……どうして……ですか?」

 こんな大声を出してまで反対される理由が分からない。

 メルさんは険しい表情のまま俯く。


「メル姉……。もしかしてメル姉もライルさんのことが好きなんですか?」

「違うわ。それは絶対にない」

「じゃあどうして?」

「ライルのこと、勿論あなたの護衛としては認めているし信頼もしている。けど、あなたの伴侶に相応しくない」

 相応しくない……。

 その言葉は前にも聞いた。メルさんはあの時のジェイド王子と同じことを言っている。


「あの、伴侶なんてそんなおこがましいことは考えていません。そもそもライルさんに好かれていると思っていませんし、これから努力して……好きになってもらえるかだって分かりません。でも、側にいたいんです。だからカナンの問題に決着がついたら、ちゃんと彼に想いを伝えたいって思ってます」

「どうしていつもライルなの?」

 メルさんの厳しい表情は変わらない。


「いつも?」

「最初からよ。あなたの護衛はカエヒラ様のはずだった。あなたが望んでライルを側に置いたのよ」

「ライルさんが嫌いなんですか?」

 メルさんは首を横に振る。


「嫌い……じゃない。ただ、許せなくて」

「許せない? メル姉がライルさんの何に対して怒っているのか分からないですけど、彼はとても優しい人です」

「セリアは許せるって言うの?」

 そう聞かれてもライルさんが何をしたのか分からないのだから答えようもない。

 でも……。


「……きっと許せると思います。許してあげたい。どうしてもライルさんの笑った顔が見たいから」

「……あなた、そんなにまでライルのことを」

 メルさんはしばらく驚きの瞳でわたしを見ていたけれど、突然勇ましい表情になり、

「殴るわ!!」

と一言叫んだ。


「え?」

「ライルのこと、今すぐ殴りに行く!!」

「え、そんな……。何で? な、殴る? あんな超絶綺麗なライルさんを?」

「何が超絶綺麗よ!! ジェイド王子だって綺麗じゃない!! それに見た目の美しさだけで言ったらトキ王子だって負けてはいなかったでしょう!?」

 メルさんはすごい剣幕で捲し立てる。


「は、はい。それはそうですけど……」

「ライルは私に殴られて当然なのよ。セリア、そこを退いてちょうだい」

「嫌です」

 わたしは本気で殴りに行きそうなメルさんを扉の前で止める。


「気持ちの整理をつけたいの」

「けど、暴力はよくないです」

「殴られて済むならライルだってそれで本望のはずよ。退いて」

「退きません。ライルさんの代わりにわたしがメル姉に謝ります。謝ってダメなら、わたしをライルさんだと思って殴ってください」

 わたしは目を瞑る。

 自分でも滅茶苦茶なことを言っているのは分かっていた。けれどライルさんを殴るなんて絶対にしてほしくない。


 メルさんはわたしの言葉が聞こえていないかのように前へ進もうとした。

 体ごと彼女を止める。

 何でこんな肉弾戦みたいなことに……。



「お願い、ライルさんを傷つけないで」

 わたしは呟くように懇願する。


 メルさんは息を呑み、急にわたしを強く抱きしめた。

 彼女の鼓動の速さを感じる。


「……分かった。分かったわ。もう……私の負けね」

 メルさんはそう言うと俯き、自分の顔を両手で覆った。


「ごめんなさい、セリア。あなたに謝ってほしいわけじゃない。ましてや可愛いあなたを殴れるはずがないじゃない。悔しいけど認めるわ。ライルじゃないとダメだと言うなら、もう私は応援するしかない。あなたには、誰よりも幸せになってほしいもの」

 顔を上げたメルさんの瞳から完全に怒りは消えていた。



「……お茶でも飲みましょう」

 メルさんはそう言って隅の小さなテーブルの上のベルを鳴らす。


 部屋は密室ではなく天井近くの一部が格子状に細工されていて、ベルの音は廊下によく響くようだ。

 それからすぐにやってきた侍女さんにお茶の用意を頼み、わたしたちは扉の近くから奥のソファーに移動した。

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