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天然ですか?

 それから、エントランスにいた人たちをメルさんは簡単に紹介してくれた。

 威厳ある人も一見強面な人も、話をさせてもらった印象は一貫してみんな嬉しそう……ということだった。

 セリアとしてのわたしは、本当になんて恵まれているのだろう。


 話に聞いていたコレットさんの上司だというルビナさんは、とてもギャップのある女性だった。

 見た目はスタイル抜群の女優さん。でも話してみるとぶっきらぼうで職人のように朴訥としている。

 是非ともコレットさんとの掛け合いを見てみたい。



 メルさんはエントランスにいた数十人を紹介し終えると、早々にわたしを部屋まで送り届けてくれた。


「セリア、急にたくさんの人を紹介してごめんなさい。みんな早くあなたに会いたいと楽しみにしていたから……。私も聞きたいことや話したいことがたくさんあるけど、さすがに疲れてしまったでしょう。ゆっくり休んでね。だって、明日も明後日もあなたに会えるんだもの」

 メルさんは瞳を輝かせ、嬉しそうに笑った。

 メルさんの笑顔を見ているだけで、わたしも自然と笑顔になる。




 1人になり、疲れからか、それとも緊張から解放されたからか、ソファーに座ろうとした途端に崩れてしまった。

 ここはわたしがこの世界に連れて来られて初めて目を覚ました部屋。

 そういえば、以前はソファーがなかった。様々な家具が増えている。


 戻ってきた……。

 数日しか居なかったはずの部屋なのに不思議と懐かしさで胸がいっぱいになる。

 この部屋を出てから色々なことがあった。

 元の世界に帰りたいと、真実から逃げたいと嘆いていたわたしはもう何処にもいない。

 少しだけ強くなれたのは、きっといつもわたしの側にライルさんとクライがいてくれたから。

 ソファーで横になり、しばらく休む。


 落ち着いた頃、侍女さんたちが代わる代わる訪れ、細やかな気遣いをしてくれた。






 翌日、部屋で朝食をとった後、控えめに扉がノックされた。

 昨日から何度も訪れている侍女さんたちだろうと思い、勢いよく扉を開ける。


「……ライルさん」

 すっかり油断していた。


 扉の前に立つ今日のライルさんは、これまでになく軽装だ。滑らかな右肩の素肌が露出している。


「ちゃんと休めたか?」

 口調がいつもより優しい気がする。

「はい」

「……今、少しいいか?」

 緊張しながらわたしは頷く。


「な、中にどうぞ」

 わたしはそう言って片側の扉を全開にする。


 ライルさんは迷うように一瞬目を伏せたけれど、すぐに部屋の中へと移動した。



「これからの話ですか? あ、どうぞそっちのソファーに座ってください」

「ここでいい」

 ライルさんは立ったまま、突然わたしに右手を差し出す。


「不本意だが親父のものを貰ってきた」

 彼の右手には美しい細工が施された幅の広い指輪が載っていた。

「お守り……とやらにしろ」

 ライルさんはそう続けた。


 ……お守り?

 どうやらこれからの話をしにきたわけではないようだ。

 わたしは指輪をじっと見つめる。


「なんでそんな怪訝な顔をしている。さっさと受け取れ」

 ライルさんは無表情で更にわたしの方へと指輪を差し出す。

 全く意味が分からない。


「えっと、カエヒラ様の指輪……ですか?」

「お守りとしては抜群に効果があるはずだ。あれでも稀代の魔術師だからな」

 ライルさんは言った。


「……受け取れません」

 わたしは少し考えて返事をする。


「指輪が気に入らないのか。それならまた別の装飾品に作り変えても構わない」

「違います。そういうことではなくて、もうお守りは必要ないんです。わたしにはライルさんから貰った腕輪がありますから」

「俺のものよりこちらのほうが、よっぽど効果がある」

「さっきから効果効果って一体なんのことですか?」

 わたしはようやく一番聞きたかった疑問を口にする。


「より魔力が高いもののほうが、お守りとしての効果が高いはずだ」

「効果なんて関係ないんです!!」

 思わず叫んでしまった。


 お守りといってもそんな魔除け(?)みたいな理由でライルさんのものを身に着けたいわけではない。

 ライルさんはお守りの意味を完全に履き違えている。

 いや、本来は正しいのかもしれないけれど、わたしはただ単純に好きな人ライルさんから貰ったものを持っていたいだけだ。


「……何を怒っている?」

 怒っているわけではない。


「天然ですか?」

 わたしはライルさんを見つめる。


「天然はお前だろう」

「わたしは天然ではありません」

「どう見ても天然だ」

 確かに少し抜けているところがあるかもしれないけれど、今回のライルさんほど頓珍漢な行動をしたりはしない。


 この場にクライがいてくれればよかった。

 彼は案外しっかりしているから、こういった時は冷静に突っ込んでくれるだろう。


 ライルさんは、まだ自分の手のひらに載せたままの指輪に視線を移す。



「折角なのでその指輪はライルさんが使ってはどうですか?」

「何で俺が親父のものを」

 ライルさんの表情が不機嫌なものに変わる。


「では、申し訳ありませんがカエヒラ様に返してください」

「本当にそれでいいのか?」

「はい」

 わたしはきっぱりと答える。


「そうか。まあ親父も、お前にこの指輪をやると言った時は不可思議な顔をしていたが」

 それはそうだろう。

 カエヒラ様は理由も分からず、よくわたしにこんな高級そうな指輪を譲ってくれることにしたものだと思う。

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