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初めましてではない初めまして

 お城の広いエントランスでは、メルさんや見たことのある侍女さんばかりでなく、多くの知らない人たちが待ち構えていた。


 メルさんはわたしの顔を見るなり、

「セリア……どうしたの、その髪!?」

と叫んだ。


 彼女の大きな瞳が見開かれている。

 思っていた再会と全く違う。

 馴染んでしまってすっかり忘れていた。

 短い髪の方が落ち着くから自分で切ったのだと説明して、メルさんはようやく落ち着きを取り戻す。


 思い返せばクライとジェイド王子にも同じように驚かれた。

 この世界では髪の長さってそんなに重要なことなのだろうか。


「お帰りなさいも言わずに騒がしくしてごめんなさい」

 そう言って、メルさんは一度可愛らしく咳払いをする。


「……改めまして。セリア、お帰りなさい」

 彼女はようやく笑顔を見せた。

「……ただいま戻りました」

 わたしもメルさんに微笑み返した。


「今日戻ること、知っていたのですか?」

 わたしは不思議に思い尋ねてみる。

「カエヒラ様が教えてくださったの。ライルがナギに戻れば分かるから」


 それは魔力で?

 そういえばライルさんの魔力は特殊だって前に聞いたような気がする。




 ふと周りに目を向けると、メルさんの側にメルさんに似た雰囲気の美しい女性が控えめに立っていた。

 柔らかそうな髪はミルクティーのような淡い色合い。


「……あの、違っていたらすみません。もしかして、わたしのお母さん……ですか?」

 どう聞いたらいいのかわからず、躊躇いながら口にする。


「……はい」

 お母さんは優しく笑った。

 珊瑚色の瞳に涙が浮かんでいる。


 でも「お母さん」なんて呼び方、ホントは失礼なのかもしれない。彼女はこの国の王妃様。


「セリア、ずっとまた会えるって信じていました。夢のようです。……抱きしめてもいいですか?」

 お母さんは両手を差し出す。

 ゆっくりお母さんに近づくと、そっと抱きしめられた。不思議と少し懐かしい香りがした。


 突然エントランスの隅のほうで誰かが蹲るのが見えた。

 多分男の人だと思うけど、蹲ると同時に何故か彼はたくさんの人に囲まれてしまった。

 もしかして具合でも悪いのだろうか。

 わたしはその男性へ近づこうと足を向ける。


「待ってください。今、連れてきますから」

 お母さんが言った。

「え?」

「あれは貴方の父です。貴方が見つかったと聞いてから、ずっと泣き通しなのです。そして貴方に泣いている姿を見られたくはないのでしょう」

 可笑しそうにお母さんは笑う。

 横でメルさんは困った顔をしていた。



 その後、時間はかかったけれど、どうにかお父さんの顔を見ることができた。でも泣きっぱなしでまともな話は出来ない。

 お父さんは金髪にアンバーの瞳。わたしと同じ瞳の色……。

 気品漂う優しい眼差しで、穏やかさや温かさを感じられた。

 ただ、王様がこんなに涙もろくてこの国は大丈夫なのだろうか……と心配になってしまう。


 しばらくお母さんとメルさんと3人でぎこちなく話した。

 記憶が無いからどうしてもぎこちなくなってしまう。

 それでもどうしてか初めて会う父母のことを知らない人とは思えなかった。





 いつの間にかライルさんとクライが消えている。

 懐かしい再会に気を利かせてくれたのかもしれない。


 わたしは落ち着かず、辺りを探すことにした。

 ナギのエントランスに入ってからわたしはずっとたくさんの人から注目され続けている。かなり動きづらい。



 離れたところにライルさんの姿が見えた。

 誰かと話をしているようだ。

 邪魔になってしまうかもしれないけど、わたしはそっと彼に近づく。


「あ、セリア!!」

 クライはライルさんの側にいたようで、真っ先にわたしに気づいて声を上げた。


「クライ」

 わたしは小さくクライに右手を振る。

 ライルさんとライルさんの前にいる人がわたしに視線を向ける。

 え……?


「ライルさん……のお兄さんですか!?」

 わたしは驚きの声を上げる。

 だってライルさんの前にいる人は、造形も雰囲気もライルさんによく似ていたから。


「……いいえ。ライルの父のカエヒラ・アルベルトと申します」

 そう言って彼は深々と頭を下げた。


「えっ? カエヒラ様!?」

「セリア姫、どうか親しみを込めてカエヒラと気軽にお呼びください」

「いえ、そんな……。ライルさんのお父さんを呼び捨てになんてできません」

 このやり取りも初めてライルさんに会ったときのよう。


 カエヒラ様は綺麗な緑色の髪と金色の瞳で、緩くわたしに笑いかけた。

 色味の違いはあるけれど、本当に見れば見るほどライルさんに似ている。いや、勿論息子であるライルさんがカエヒラ様に似ているんだろうけど……。


「カエヒラ様、失礼ですけど……とってもお若くないですか?」

 わたしは素朴な疑問を口にした。


「見た目だけだ。中身は耄碌じ」

あるじ、失礼だよ!!」


「クライ、良いのです。でも別に好きで若いこんな姿をしているわけではないのですけどね」

 カエヒラ様の口調はものすごく柔らかい。

 そこはライルさんと大違いだった。


「あの、体は大丈夫なんですか?」

 わたしは前のめり気味でカエヒラ様にそう尋ねる。


「体?」

「キリクたちから攻撃を受けたって聞いていたので」

「ああ。ご心配には及びません。浅い傷です。そんなことより、その侵入者キリクとやらのがしてしまったこと、お詫び申し上げます」

 カエヒラ様はそう言って再び頭を下げた。

 なんだかライルさんに謝られているみたいでドキドキする。


「い、いいんです。カエヒラ様がご無事で何よりです」

「……姫は面識のない私の心配をしてくれていたのですね」

 カエヒラ様は微笑む。それはとても美しい表情で。

 それでも夢の中で見たライルさんの笑顔には遠く及ばない。


 ライルさんはそんなカエヒラ様とわたしのやり取りを、相変わらずの無表情で眺めていた。

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