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ライルさんの気持ち

 トキ王子の手紙には、形式的に承諾したと分かる文章が書かれているのみだった。



「一先ず、ですが時間を作れましたね」

 ジェイド王子は大きく息を吐く。


「では、すぐにでもナギに戻って構いませんか?」

 ライルさんはジェイド王子にそう尋ねた。

「勿論構いません。メル姫もさぞ心配していることでしょう」


「あの、戻るって今ですか!?」

 わたしは急すぎる展開に付いていけず、2人を交互に見る。


「ああ。正装に着替えてこい」

 ライルさんは言った。

 メルさんが用意してくれた緑と白を基調としたドレス。それに煌びやかな装飾品。全て部屋にある。


「セリア、行こう」

 クライはそう言ってゆっくりとわたしの前を歩く。

 本当にいいのか不安になって再びジェイド王子に視線を向けると、彼は笑って頷いた。




 正装に着替えて、グラン・ハルスタインの正門へと向かう。

 侍女さんたちや警備兵たちが並んで頭を下げる中、ジェイド王子だけが真っ直ぐにわたしを見つめていた。


「セリア姫、あなたの帰りを待っています。このグラン・ハルスタインもまたあなたの帰る場所。それだけは覚えておいてください。ですが、次にお会いする時こそ決着をつけなければいけませんね」

「はい」

 王位継承の問題。トキ王子との決着……。

 勿論平和的な解決を願っているけれど、いざその時になってみないとどうなるかは分からない。



 ライルさんは手を振り、魔法の絨毯を出した。

「キニュちゃん?」

 弾かれたように魔法の絨毯であるキニュちゃんは嬉しそうにわたしに擦り寄る。


 キニュちゃんを見るのはずいぶん久しぶりだった。

 変わらない気持ちのいい手触り。


「またか。何度も何度も気味の悪い真似を……」

 ライルさんはそう言ってキニュちゃんを見ながら嫌悪の表情を浮かべた。


 わたしがゆっくりとキニュちゃんに乗ると、ライルさんとクライはジェイド王子に一礼して浮上する。

 ジェイド王子は大きく手を振った。

 わたしも高度を上げるキニュちゃんの上で手を振り続けた。




 グラン・ハルスタインを離れ、トリイのゲートへ向かう。

 やはり来た時と同じ手順で戻るのが一番早いらしい。途中でクライが説明してくれた。

 ただ、それだと若干気になることがあった。



 わたしはゲートをくぐるとキニュちゃんから降りてライルさんに声を掛ける。

「空間移動の魔法を使うつもりですか?」

 来た時と同じ手順というなら、またあの白い光の魔法陣を描き、空間魔法で戻るに違いない。


「そのつもりだが?」

「他の方法はないんですか?」

「……不満か?」

「あ、そうだよね。あるじにべったりされて気持ち悪いよね。主が抱えなくても魔力が通ったものなら魔法陣の上に立てるから、オレがキニュレイトでセリアを包むよ」

 クライは名案と言わんばかりに両手をぱちんと合わせてそう言った。


「違うよ!! そういうことじゃない!! あの方法って魔力いっぱい使うでしょ? あんなに何回も空間を飛んだら疲れちゃうと思うから……やめてほしいの」

 わたしの言葉にライルさんは目を見開く。


「……俺のことを気にしているのか」

 わたしは頷く。


「セリア……」

 クライも驚いた表情でわたしを見つめる。


「魔法を使わずに乗り物と徒歩でナギまで戻りましょう?」

 わたしはそう提案してみた。

 こちらの世界に車とか電車があるのかは分からないけれど、船で来ようとしていたくらいだから魔法を使わなくても絶対に戻れるはず。もしかしたら、ナギに入れば転移スポットを使って戻れるかもしれない。


「戻れるけど、主のことなら気にしなくて大丈夫だよ」

 クライが言った。



「何でそんな余計な心配をするんだ」

 ライルさんはそう言ってリングのない自分の額に手を当てる。


「……何度もお前を危険な目に合わせ、護衛の役目を十分に果たせているとは言えないがこれでも王室直属の護衛だ」

「え?」


「いくらお前が懇願しようと力がなければ護衛なんてすぐに外される」

「つまりね、主の魔力はセリアが思ってるよりもっともっとたくさんあるから大丈夫ってこと。実戦で魔力を打ち込み続けるとか異空間に移動するとかなら別だけど、これくらいの空間移動で疲れたりしないよ」

 クライは微笑む。


「でも……前に魔力が不安定だって」

「それはありすぎるからだよ。絶対量がありすぎてゆらゆらするの。安定してないけど主の魔力の量、今はカエヒラ様と同じくらいあるんじゃないかな」

 クライはライルさんに視線を移した。


「とにかく、俺の心配なんてするな。お前は自分の幸せだけ考えろ」

「え?」

「……これからは協力する。今は俺もクライと同じ考えだ」

 ライルさんは微かに目を細めた。


「どういう?」

「だからお前の考えに従うと言っている。婚姻関係を結ばずにカナンの王位継承問題を解決したいという願い……解った。そしてそれがうまくいこうといかずとも望むなら異世界に戻してやる」

「……どうして?」

 わたしはライルさんをじっと見つめる。


「何故そんなに驚く? 何か誤解をしていないか? ジェイド王子を信頼し協力してきたが、あくまでそれはお前のためだ。俺はお前の護衛だ。お前のためにならないことはしない」

「だってこれまでずっとわたしの意思を無視して、その上サイネリアの行く末まで持ち出して、強引にジェイド王子と結婚させようとしてきたじゃないですか!!」

「……それが、一番お前が幸せになれると思っていたからだ」

 幸せに……。

 ライルさんはずっとわたしの幸せを望んでくれていたの?

 ……信じられない。

 こんなに嬉しい言葉はない。

 これ以上の言葉ってない。


 わたしはライルさんに抱きつく。

 今度は躊躇うことなく。

「やっぱり、優しい……ですね」



「……どうしていいか分からない」

 ライルさんはわたしに抱きつかれたまま微動だにしなかった。


「いつもみたいに抱えて飛んでください。ナギに戻りましょう」

 わたしは顔を上げて笑った。


「……クライ」

 ライルさんが声を掛けると足元に白い光の魔法陣が浮かび上がる。





 ライルさんは軽く12回空を飛び、わたしたちはナギに戻った。

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