繋がっている
でも……じゃあどういうことなんだろう?
ライルさんのこれまでの態度からして、わたしに恋愛感情を抱いているとは思えない。
彼はわたしがジェイド王子と結婚することを望んでいるはず。
「まさか!! 女の人なら誰でもいいとか?」
考えを思わず口にしてしまう。
「は? 何言ってんの?」
「だから、ああ見えて来るもの拒まず精神の……。けど別にあの時はわたしが迫ったわけじゃないし。とはいえ、弱った女子がいる=チャンスみたいな考え? むしろ隙あらば……とか? でもハンナでは寄ってくる女の子をちゃんと断っていたような……」
「ちょっと? セリア?」
クライはただただ狼狽えている。
「据え膳食わぬは男の恥ってこと?」
わたしはソファーから立ち上がった。
勢いで足がテーブルにぶつかり、お菓子が乗ったお皿やティーカップなどか若干揺れた。
「何それ? なんかの呪文?」
クライは、怪訝な表情でそう聞いた。
だってこの世界のわたしって自分で言うのもなんだけど、間違いなく綺麗だと思うから。やっぱり何か特別なオーラみたいなものが出ているのかもしれない。
きっとトキ王子ほどではないにしても、そういう力が王族にはあるんだ。
そういえばジェイド王子とメルさんからも、ものすごく神々しいオーラを感じることがある。
「セリア、何考えてるのか分かんないけど、主は……痛っ!!」
突然クライが頭を押さえた。
「どうしたの?」
「……さすがに、止められるよね」
クライは右手で頭を押さえながら僅かに笑った。
「クライ?」
「セリア、ごめんね。オレ、もう自分の部屋に戻るね。明日の朝また迎えに来るから、これからどうするかジェイド王子と話して決めよう?」
「そうだね。……でも、まず明日になったらライルさんに謝らなくちゃ」
「何を?」
「一緒に来てくれなくてもいい……なんて言ってしまったこと」
「大丈夫だよ。主、分かってるよ」
「……ううん。ちゃんと謝りたい。だってわたし、ホントはライルさんと少しも離れたくないの」
「え?」
クライは大きく目を見開き、固まってしまった。
「セリア、そんな言い方……したら、誰でも誤解するよ」
クライはそう返すと俯いた。
「誤解?」
「……でも、それでもいい。誤解させて。とても嬉しいから」
クライは俯いたまま、そっと自分の髪飾りに触れる。
どうしたんだろう?
ライルさんばかりでなく、時々クライの言動も理解できない時がある。
感情も……。
突然泣いたり落ち込んだり喜んだり。
けど間違いなくクライはいつもわたしのことを考えている。
わたしのせい?
せめてわたしに記憶があればもう少し、彼のことを解ってあげられるのかもしれない。
クライはわたしの部屋を後にした。
気持ちのいい朝。
久しぶりにゆっくり眠れた。
身支度を整え朝食をいただき、侍女さんたちと談笑をしていると、軽快なノック音とともにクライが現れた。
「おはよう、セリア」
クライは可愛らしく笑っている。
良かった。昨日よりずっと元気に見える。
「おはよう」
わたしも笑顔で返す。
「セリアは今日も綺麗だね」
「え? あ、ありがと。今日は空色のドレスを選んでみたの。どうかな?」
わたしはドレスのスカートの部分を持って、ひらりと回って見せた。
「似合ってるけど、綺麗なのはセリアだよ」
クライは恥ずかしげもなくそう言うと、更に笑った。
廊下に出ると、腕組みをしたライルさんの姿が見えた。
距離がある。
「ライルさん!!」
こっちを見てくれない。
やっぱりまだ怒ってる……よね。
「ライルさん、昨日はごめ」
「謝るな」
被せるようにそう言われた。
わたしは恐る恐るライルさんに近づく。
彼は更にわざとらしいくらいわたしから顔を背ける。
「怒って……ますよね?」
「怒ってない」
「じゃあどうしてこっちを見てくれないんですか?」
「セリア、気にしないで。多分、ただ気まずいだけ。えっと……昨日のオレとの話が」
クライがそう言った。
「お前は昨日から余計なことばかりぺらぺらと」
ライルさんはそう言ってクライを睨みつけた。
「え?」
わたしもクライに視線を送る。
「だからセリアはなんでそう抜けてるの? オレと主は繋がってるんだよ?」
繋がっている?
ああ……そっか。そういえばトキ王子とのやり取りも、クライを通して見ていたって言ってたっけ。
それって……?
思考が一瞬停止する。
それって考えたくないけど、キスの話とか離れたくないとかクライに話したこと、全部ライルさんに筒抜けだったってこと?
し、信じられない!!
そんなの……そんなのは、いくらなんでも恥ずかしすぎる。
顔が熱い……。
「あの、ごめんなさい!!」
わたしはライルさんに勢いよく謝った。
女の人なら誰でもいいとか、据え膳食わぬは男の恥とか、昨日はもう好き放題言ってしまった。
思い出すだけで恥ずかしい。
「だから、謝るな。お前が謝ることはない。甘いとは思うが、トキ王子に対するお前の考えは分かった」
あ、そっちですか。
「……お前、本当にジェイド王子と結婚するつもりはないのか?」
ようやくわたしと視線を合わせたライルさんに動揺は見られない。
美しいアクアグリーンの瞳で、冷ややかにわたしを見つめている。




