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グラン・ハルスタインの警備隊長

 それからライルさんは、クライの髪飾りにも劣らないくらい複雑な形のネックレスをわたしに差し出した。

 中心は直径10センチほどの三日月が2つ合わさっていて、両手で受け取るとなかなかの重みがある。


「装飾品にしか見えないが、中心部分は短剣だ。護身用に持っていろ」

 彼はそう言うと、今度はわたしの手からネックレスを取って、ゆっくりとわたしの首にかけた。

 わたしはライルさんを見上げる。


「何も持たないよりはマシだ」

 ライルさんはそう言った。

「マシなのは自分、でしょ? ホントはセリアのことが心配で心配で仕方ないくせに」

 クライが微笑む。


「お前は……」

 ライルさんは、クライを魔力で軽く飛ばした。



「何すんの!! "姫が心配でなりません。この短剣が僕の代わりにあなたを守ってくれるでしょう。しばし離れますが、この短剣を僕だと思って肌身離さず持っていてくれませんか?"くらいのこと、さらっと言えないわけ?」

「……頭痛がする。それは誰の真似だ? コレットか?」

 ライルさんは呆れた顔で額を押さえる。


「あ、確かに!! ちょっとコレットっぽかったかも。でも、コレットじゃないの。ジェイド王子だよ。似てない? ね、セリア、似てなかった?」

 クライはそう言ってわたしに笑いかける。


「王子の真似など失礼だろ」

 ライルさんが即座に突っ込む。


「えー、別にふざけてるわけじゃないよ。オレ、前からジェイド王子のストレートに言う感じに憧れてて」

 クライは平然と答えた。



 急に緊張感がなくなり、わたしは思わず吹き出す。

「良かった。セリア、やっと笑ってくれたね」

 クライはライルさんに向かってそう言った。

 ライルさんは呆れた顔のまま、ため息をつく。

 2人のいつものやり取りは、不安な気持ちをどこかへ追いやった。


 そのおかげか、わたしはそのまま2人を笑顔で見送ることができた。






 2人がナギに戻ってしまい、王宮で1人きりの朝を迎える。

 でも……平気。

 思っていたよりずっとよく眠れた。

 着替えるため、クローゼットを開ける。

 広いクローゼットには、たくさんのドレスが並んでいる。

 サイズは全て同じ。

 きっとわたしのために用意してくれたのだろう。

 それならいつまでも着てきたドレスのままで居るのは失礼かもしれない……と思い、わたしは比較的動きやすそうな薄い黄色の明るい色のドレスを借りることにした。


 ドレッサーにも、眩いばかりの装飾品。

 ドレスに合いそうな小さな星形のイアリングを選び、耳に付ける。

 勿論、今日も見えないように腕にライルさんのスカーフを巻いている。

 支度を整えると、最後にベッドサイドに置いていた護身用のネックレスを首にかけた。

 その重みが身を引き締めた。




 しばらくすると、数名の侍女さんたちが部屋にやってきた。


「セリア姫様、おはようございます。起こしにまいりましたのに、もうお目覚めでしたか?」

 侍女さんの声は弾んでいる。


「まぁ、もうお支度も済んでおられるのですね」

「髪を結わせていただきます」

「殿下と一緒に朝食を」

「さあさ、参りましょう。殿下がお待ちですよ」

「今日はとても天気がいいので、お二人でお庭を散策されるのも良いかもしれませんね」

 次々と明るい笑顔で話しかけてくる侍女さんたちにきちんと返事をして、促されるままに部屋を後にする。



 広い廊下に出ると、剣を携えた男の人が片足を付き跪いていた。

 爽やかな朝にそぐわない、重々しい光景……。


「スサト様が常時、姫様の護衛に当たります」

 侍女さんの1人がそう言った。


 ああ、スサトさん……。

 彼だと分かってほっとした。

 彼に会うのは、これで二度目。

 でも初対面という認識でいいだろう。

 何しろ彼に初めて会った時のわたしは透明人間。

 つまり、わたしが一方的にスサトさんを見ていただけ……。


 わたしに跪き、頭を下げるスサトさんは、まるでジェイド王子の前で態度を変えたあの時のライルさんのようだった。

 思い出して……哀しくなる。



「スサトさん、立ってください。あの、初めまして。セリアです。ご迷惑おかけしてすみません。これからしばらくお世話になります」

 わたしは彼の前でしゃがみ込んで、何とか彼と視線を合わせようと、首を傾けて挨拶をした。


「お初にお目にかかります。グラン・ハルスタインの警備隊長、スサト・サザナと申します。ライル様の代わりなど恐れ多いことですが、与えられた身に余るお役目、精一杯務めさせていただきます」

 スサトさんは頭を下げたまま答える。


「グラン・ハル?」

「この王宮の名前です」

 耳に掛かった品の良いダークグレイの髪が落ちて、更に彼の顔が見えなくなった。


「あの、スサトさん? どうぞ顔を上げてください。わたしに対して、そのような振る舞いはやめてください。ちゃんと顔を見て話したいので……」

 わたしがそう言うと、スサトさんはゆっくりと顔を上げた。


「どうぞ、立ってください」

 わたしはもう一度言った。

 彼は立ち上がり、今度は立ったままわたしに頭を下げる。

 だからその行為をやめてほしいんだけど……。



 ようやく顔を上げたスサトさんは、かなり背が高かった。

 ライルさんも高いが、更に彼より10センチくらいは高い。

 目の下あたりに深い皺。若干、中年的なやつれが見られる。

 でも、その整った顔立ち。若いころは相当美しかっただろうと推測された。


「スサトさんはナギの出身だって聞いたんですけど、他の国でお仕事をするのってこの世界では普通のことなんですか?」

「いえ。他国に住み、職に就くことは稀です。私はカエヒラ様の推薦で、ジェイド殿下に仕えさせていただくことになりました」


「カエヒラ様? ライルさんのお父さんですよね」

 知っている名前を聞いて、安心したのと同時に嬉しくなった。

 そういうことなら、ライルさんとクライがスサトさんに絶対的な信頼を寄せているのも頷ける。


「あの……姫様。お話を遮って申し訳ないのですが、そろそろ殿下のもとに……」

 傍らに立っていた侍女さんに、おずおずと声を掛けられた。

 わたしは慌てて謝り、スサトさんとともにジェイド王子のもとに向かった。

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