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王子様が迎えに来てくれたと思ったのだけれど  作者: 録宮あまね
5.カナン国トリイ

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ジェイド王子の話3

「危険人物……」

 わたしは呟く。

「兄は切れ者で統率力があります。そして剣の腕に長け、見た目はさながら天性の人を惹きつける魅力に溢れています。本来なら順当に第1王子である兄が次の国王になって然るべきで、現在、国民の多くは何の疑問も持たず僕より兄を支持しています。けれど兄には絶対に王位を継がせるわけにはいかないのです」

「それはわたしの事件の首謀者だと思っているからですか?」

「勿論そうです。そのことも含め、彼の人格に問題があるからです」



「父が亡くなり、僕は1度だけ兄に問いました。『セリア姫を譲るつもりはありませんが、もしあなたが王になったならカナン国をどのような国にしていきたいのですか』と。……答えてくれないのではないかと思いましたが、兄は侮蔑を込めた目で僕を見ながらこう言いました。『カナンだけではなく、力で以てこの世界の全てを統べます。そのためならどんな犠牲も厭いません』と」


「……まるで戦争でもするような言い方ですね」

「するような、ではなく間違いなく戦争を起こすつもりなのだと思います。兄はサイネリアを1つの国として、そこに君臨する唯一無二の王にでもなるつもりなのでしょう」

 ジェイド王子はため息をつく。



「あの、5つの国は平和条約……みたいなものを結んでいないのですか?」

「そんなものはない。親和国であるカナンとナギ、親交が深いアサナとナギのみ内々で協定が結ばれている程度だ」

 ライルさんはそういって腕を組んだ。


 彼は更に続ける。

「それに……メル姫が話したことを忘れたか。ソンワは好戦的で元々カナンをよく思っていない。今も微妙な均衡状態を保っているだけで、カナンが何か仕掛ければこれ幸いと応戦してくるに決まっている」

「……それならやっぱり……トキ王子が王様になれば戦争に?」

 自然と声が小さくなっていた。

 戦争になれば罪もない人が死んでしまうかもしれない。

 力で国や人を支配するというのは、きっとそういうことに違いないから。


 急に怖くなる。

 向こうの世界でだって、戦争なんて過去の出来事とか、自分には関係ない遠い世界の出来事だと思っていた。



「だから、僕はそれを阻止するためにもカナンの王位を継承したいのです。5国の王家にはそれぞれ脈々と続く長い歴史があります。その王家を滅ぼし国土を侵略しようなんて、とんでもなく愚かで恐ろしい考えです。僕はできることなら全ての国と平和協定を結びたいと思っています。いえ、絶対に結んでみせます」

「平和協定……?」

 わたしは聞き返す。


「……はい。セリア姫、そのためにも絶対にあなたが必要なんです。この世界のために。……こんな言い方はやはり……卑怯だと分かっています。僕のあなたへの気持ちをただ、知っていてほしい。純粋にあなたの愛を手に入れたいと願っている自分の心と矛盾しているとも。それでも今は、偽りの愛でも、慈悲でも構いません。みっともなくてもお願いするしかありません。どうか……どうか僕と結婚してください」

 ジェイド王子は必死だった。

 握っている彼の左右の拳が少し震えている。

 わたしは、そんな彼から目を逸らすことができない……。



 彼は優しい人だ。

 とても……。

 本当に心から、この世界とわたしを愛してくれている。

 それが分かった。

 分かってしまった。


 今度は、ごめんなさい……なんて言えない。

 ライルさんを好きだという個人的な想いだけで、ジェイド王子の強い気持ちを全て跳ね除けることなんてできない。

 わたしの想いが、この世界を危機に陥らせる。



「……すみません。結局、押し付けるばかりで。ゆっくり考える時間が必要でしょう。姫、よかったらしばらくこの王宮に滞在してもらえませんか? もっと僕のことを知っていただきたいですし」

 ジェイド王子はそう言って、緊迫した状態から解放されたのかようやく微笑んだ。


 カナンに滞在……。

 そんなこと、わたしの一存で決められることではない。

 わたしはライルさんを見つめる。


「ライルさん、セリア姫をお預かりしてもよろしいですか?」

 ジェイド王子が尋ねる。


「それは……俺に帰れと?」

「……申し訳ありません」

 ジェイド王子は頭を下げた。

 彼の美しい赤紫のイアリングが大きく揺れる。



 ライルさんは厳しい顔でしばらく考え込んでいた。

「いえ、こちらこそ失礼いたしました。元より彼女を殿下のもとに連れてくるのが俺の役目。承知していたことです。けれど、まだ嫁がれたわけでもありません。護衛にクライを残すことだけは許していただけませんか?」

 ジェイド王子は黙って左右に首を振る。


「知っておられる……のですね」

 ライルさんはそう言った。


 ジェイド王子の返事はない。

 何のことを言っているのか分からない。

 でも……このままではライルさんはわたしを残して帰ってしまう。

 不安になり、わたしは隣のクライを見つめた。

 クライは俯いていて表情が見えない。


 まさかクライまでわたしの前から居なくなってしまうというの?

 こちらに来てからずっと一緒だったのに。

 彼が居てくれたから、いつも笑っていてくれたから、知らない場所での不安な気持ちも和らいだ。

 2人とも、居なくならないで。

 勝手に決めないでほしい。

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