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100回目の告白

 終業式。

 それからホームルーム。

 貰った通知表は予想通り、可もなく不可もなく。



 放課後、隼人が教室まで迎えに来た。

 彼の姿を見ただけで、わたしの気持ちは一気に重くなる。

 逃げることはできなかった。運が悪いことに、隼人のクラスの方が先にホームルームを終えていたから。


 映画に行くことは、どうやらもう彼の中で決定事項になっているらしい。

 どっちにしろ行かなかったら行かなかったで、帰ったらまた母から(隼人が絶対に報告する)「なんで仲良くできないの?」と怒られるのは目に見えている。

 小さな子供じゃないんだから、仲良くしなさいっていうこと自体どうかと思うんだけど、母は癖になっているのか事あるごとにわたしにそういう言い方をする。




 ファーストフードでお昼を食べて、目的の映画を観終わり、いよいよ嫌な予感がした。

 いや、本当は行く前から嫌な予感しかしてなかったんだけど……。



 目の前には、真剣な表情をした隼人がわたしを見つめている。

 何度も見た、綺麗で思いつめたような表情。

 こういう表情をした隼人が、次に何を言うのかは分かっていた。

 しかも最近は時と場所を考えない。人通りのある歩道で、彼はわたしの行く手を阻んでいる。


「陽菜、俺と付き合って」

 隼人は周りを気にする様子もなく、はっきりとそう言った。


「……付き合ってる……じゃない」

 誤魔化せないのは分かっていたけど、わたしは敢えてそう返す。


「今じゃない。そうじゃなくて……分かってるよね? 俺がそのセリフ言うの、今日で100回目」

「数えてたの?」

「一体、何回言ったら伝わるのかと思って」

 わたしは隼人の真剣すぎる眼差しに耐えきれず、目を逸らす。


「……ごめん。付き合えない。隼人のことは好きだけど、それは隼人がわたしを想ってくれる気持ちとは違うから」

 辛い……。

 100回告白してくれたかもしれないけど、こっちだってこれまで100回同じような台詞を返している。



「また王子様……?」

 隼人はそう言って、ゆっくりと息を吐いた。

「その王子って、ずっと子供のままなんでしょ?」

 わたしは黙って頷く。


 隼人には、これまで幾度となく夢の中の王子様の話をしてきた。彼だって昔は、興味深そうに笑ってわたしの話を聞いてくれていたのだ。

 それが今や……。

「いい加減にしてよ。俺、未だに10歳くらいの子供に負けてるわけ?」

 

「……勝ってるとか負けてるとかの問題じゃない。ただ王子様を大好きだって気持ち、ずっと変わらないから。ごめん、隼人。本当にごめんなさい」

 わたしはそう言って、彼に深々と頭を下げた。


「謝られたって諦めない。俺は1000回だろうと10000回だろうと、陽菜に好きだって言い続ける。大体、そんなどこにも存在しない王子なんか想ってどうなるっていうわけ?」

 見上げた隼人は、怖い顔で言った。


 そんなこと言われなくても分かっている。

 所詮は夢の話。

 わたしは、いつまでも幼稚な考えのまま、夢の中の王子様を馬鹿みたいにひたすら想い続けている。


「陽菜を幸せにできるのは俺だけだから」

 隼人は言った。


 彼の想いもまた、尋常じゃないくらい強い。幼馴染だからって、わたしを選ぶ必要なんて全くないのに……。

 だから思う。もうこれは、鳥の雛の(断じてわたしの名前にかけてるわけじゃない)刷り込み効果みたいなものなんじゃないかなって。


 隼人の絶大なる人気は、わたしが誰よりも一番よく分かっている。

 彼にラブレターを渡して欲しいと頼まれたことだって、これまでに一度や二度じゃない。彼ならどんな可愛い子とだって付き合える。

 今、この瞬間だって、何気に知らない女の子が遠くからちらちらと彼の方を見つめているくらい……。

 でも前に、もっと素敵な女の子がたくさん居るはずだよって言ったら、鬼の形相で怒られた。

 それ以来、怖くて二度と他の女の子を勧めるようなことは言えなくなってしまった。



「……そんなに困った顔しないでよ。そんな顔されたら、俺が虐めてるみたいじゃない。別に俺、怒ってないし」

 隼人が言った。

 いやいや、絶対に怒ってた!!

 って軽く言いたいんだけど、そんなことすら言い返せない。

 正直、わたしは恋愛のスイッチが入っている状態の隼人が怖い。



「なんか甘いもんでも食べて帰ろ?」

 彼は明るく言った。

 それは少し不自然なくらいだったけど……それでも彼なりの優しさだって分かる。


「今食べたら、夜ご飯食べられなくなっちゃうよ?」

 わたしは、ようやくいつもの調子で返す。

「大丈夫。んー、クレープとアイスと餡蜜どれがいい?」

「餡蜜はないでしょ。隼人、餡子嫌いじゃない」

「まあね」

 彼はわたしが安堵の息をついたことなんて知らずに、綺麗な顔で笑った。

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