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わたしの想い

 それからすぐにライルさんとクライは別の部屋に移動し、広いこの部屋にはジェイド王子とわたしの2人きりになった。


「……本来ならまず幼いあなたの身に起こったことや、王族としてこの世界や国の未来の話をしなくてはいけません」

「はい」

「ですが、その前にどうしても確認したいことがあります」

 ジェイド王子の声は落ち着いていた。



「姫にはどなたか想い人がおられるのではないですか?」

 ジェイド王子は尋ねる。

 口調は優しかったけれど、瞳はしっかりとわたしを見据えている。先程鼻血を出して狼狽えていた姿とは別人だった。

 結婚を断わったのだから、そう聞かれても不思議はなかったのだけど、なぜかそんな質問をされるとは全く思っていなかった。


「ライルさんですね」

 彼ははっきりと言った。

「どうして……?」

 驚いて、わたしは聞き返す。


 この世界がどうなっているのか、2人の王子様や王様の遺言を知りたくてカナン国までやってきた。

 それなのに、そんなことどうでもいいと思えるくらい、さっきのライルさんの言葉でいとも簡単にわたしの心は砕けてしまった。


「幼いころのあなたは、ライルさんのことがずっと好きでした。再会して、彼に惹かれても無理はないかと思います」

 ジェイド王子はそう言って目を伏せた。


 わたし……わたしは……。

 無意識に、またドレスの上からライルさんのスカーフに触れている。


 ジェイド王子が知らない人だから結婚できないんじゃない。年齢も国も世界も関係ない。

 そんなことは、自分の本当の気持ちを誤魔化すための理由……。


 夢の中の王子様。

 幼いころからただひたすら彼を想ってきた。

 実際会った彼には笑顔なんて一切なかった。口が悪すぎることに驚きもした。

 でも彼は幼いころも今も、わたしを守ってくれている。

 嬉しかった……。

 例えそれが彼の役目なのだとしても。

 片想いだってかまわない。嫌われていようとただの仕事の対象だろうと彼の側に居たい。


 わたしは……ライルさんのことが……。

 ライルさんのことが好き。

 大好きなの。

 他の人と結婚できるはずがない。



「……彼から、あなたに幼いころの記憶が全く無いと聞いて心配しました。けれど同時に期待もしていました」

 ジェイド王子は再び口を開く。

「期待?」

「姫に記憶がないのなら、僕は彼と対等に戦えます。あなたが記憶をなくすような事態になったのは僕が原因だというのに、それでよくそんな浅ましい考えが持てると自分でも呆れます。卑怯だとも思います。それでも僕はあなたが欲しい。あなたを愛しています。今度こそ……僕を愛してはくれませんか?」

 彼はそう言って、自分の目にかかる髪を指で払った。

 流れるようなその美しい動作。さらさらの薄紫色の髪。青紫色の宝石のような瞳で静かにわたしを見つめている。


 目の前に居るのは正真正銘、本物の王子様だった。

 その王子様がこんなに真剣にわたしを好きだと言ってくれている。

 いつエンドロールが流れ始めたっておかしくはない状況。


 でもわたしはこの場から逃げ出したくて仕方がない。

 それは残念ながら、これまで隼人から受け続けた100回の告白となんら変わりはなく……。

「ごめんなさい……」

 わたしはゆっくりと頭を下げる。


 ジェイド王子はため息をついた。

「僕は諦めません。ライルさんはあなたに相応しくないのです」

「どういう意味ですか?」

「あの方は弱い」

「……弱い?」

 ジェイド王子の返事はなかった。


「もしかして彼が護衛としてわたしを守れなかったことを言っているのですか? それはライルさんのせいではありません。だって当時、彼もまだたった8歳の子供だったんですよ?」

「分かっています。僕もその場に居ましたから。寧ろ足がすくんで何もできなかったのは僕の方です。ライルさんはあの状況で、あなたの魂を救おうとどこに続くとも知れない異空間に飛び込もうとしました。アラクネの魔力と相性が悪かったのもあって、すぐに弾き飛ばされてしまいましたが……。彼の弱さはそんなことではないのです」

 ジェイド王子はそう言うと、また押し黙ってしまった。



「王子は……どうしてそんなにわたしを想ってくれているのですか? 結婚したいのは国のためではないのですか?」

「……そうですね。どこから話しますか。……少し、長くなります」

 ジェイド王子は俯き、膝の上で自分の両手を組んだ。

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