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ずっと見ていたい

「今日はまたずいぶんと感度がいいようだな」

「ライル様の魔力は特殊ですので」

 ライルさんの言葉に兵士の1人が答えた。

「ま、結構派手に入ったしね。この分じゃもうトキ王子にも気づかれてるかもね」

 クライが言った。


「気づかれてるって?」

 わたしは小声でクライに聞いた。

「カナンには魔力を感知できるシステムがあるの。魔法じゃなくて科学。機械的にね。だから魔力を使ってこの国に入った時点で普通は気づかれちゃう」


「あの……クライ殿、一体どなたと話されているのですか?」

 兵士の1人が尋ねる。もう1人の兵士も不思議そうな顔でクライを見ていた。

 え?

 わたし、キニュちゃんに乗ったままクライのすぐ横に居るんだけど。

 兵士たちはさっきから少しもこちらに視線を向けない。

 もしかして見えてない……?


「透明……人間……?」

 思わず呟いていた。

「うん。さっき主がキニュレイトごと見えなくしたから」

「ええ!? ホントにわたし、透明人間なの?」

「だって、うちの大事な姫君をおいそれと見せられないよ。他国に来てまで、コレットみたいなのに捕まりたくはないでしょ?」

「どういう意味?」

「自覚してよ。セリアがちょっと笑っただけで大抵の男の人……おかしくなるよ」

 そう言うと、クライは困った顔で笑った。


 おかしく……? 意味が分からない。もしかしてメルさんから感じたお姫様オーラみたいなものが、わたしからも自然に出ていたりするのかな? 特に今はとんでもなく煌びやかな衣装を身に纏っているわけだし。


「クライ殿? セリア姫がどうかなされたのですか? 私、先程から愛らしい女性の声が聞こえるのですが、これは幻聴なのでしょうか? まさか何か魔法を使っていらっしゃいますか?」

 兵士の1人が慌てた様子で聞いてきた。

「あー、うん。気にしないでいいよ」

 クライはしれっと返した。説明するつもりはないらしい。

「こんなところで時間を費やしている場合か。さっさと行くぞ」

 ライルさんはそう言って颯爽と門をくぐる。



 彼に付いて建物に入ると巨大な枠があり、コルハで見たゲートのようなものがあった。

 枠の中のな空間が膜を張ったように歪んで見える。

 わたしたちは膜を通り抜け(結局膜に触れたところで何の感触もなかった)反対側の門から再び外に出る。

 反対側の門にはまた当然のように兵士がいて、ライルさんを見ると親しげに声を掛けてきた。彼は面倒そうに兵士を振り払うと、建物が見えなくなる場所まで飛んで移動した。

 他の国に来てまで、なんたる横柄な態度。王宮に向かうのが不安になってきた……。


「主、王宮までそんなに距離ないし、このまま飛んで移動する?」

 クライが尋ねる。

「いや、面倒だ」

 ライルさんはそう言うと、急にわたしが座っているキニュちゃんに乗ってきて、わたしの真横に座った。


 ち、近い……。

 わたしは緊張して立ち上がり、キニュちゃんから落ちそうになってしまった。(キニュちゃんが角度をつけて助けてくれたので、なんとか落ちずには済んだ。)



「お前、何やってるんだ」

 ライルさんは呆れた顔でわたしを見ていた。

 こんな時になんだけど、彼の瞳はこれまでにみたことのない色をしている。

 瞳孔に近い部分は黄色がかったグリーン。外の円に向かって濃いエメラルドのグラデーションになっている。


「ライルさん……すっごく綺麗……。これはもう……なんていうか……レアですね」

「は?」

 彼は不可解そうな表情でそう言うと、視線を下に向けた。途端に瞳は単色の薄緑に変わる。その色もまた美しい。


「凄い!! ホントに綺麗!!」

 わたしは緊張のあまり彼から離れようとしたことなんてすっかり忘れて、今度は自分からライルさんのすぐ横に座ってじっと彼の瞳を見つめた。

 ライルさんはますます怪訝な顔をしている。



「……ああ、そうか。お前、さっきから俺の目を見ていたのか。……くだらない」

「くだらなくなんてないです!! ライルさんの瞳は宝石です!!」

「この目は俺にとっては恥ずべきものだ」

「どういう意味ですか?」

「魔力が安定していないからそれが目に表れる。宝石なんていうなら、お前の方がもっと美しく煌びやかなものを身につけているだろう?」


 わたしは自分が着けているネックレスや腕輪を見つめて、左右に首を振った。

 そして視線を彼に戻す。

「いいえ、この宝石よりライルさんの瞳の方がずっとずっと綺麗です!! 奇跡です!! 宝物です!! もうできることならこのままずっと永遠に見ていたいくらいです!!」


「……そういうところ……少しも変わらないな」

 彼はそう言ってわたしから視線を逸らすと、俯きため息をついた。

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