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空間魔法

「クライ、ライルは?」

 メルさんが尋ねる。

「あ、場所も決めたし、いつでも行けるって言ってたよ」

「そう……。じゃあ、いよいよ私の出番ね。セリア、行きましょう」

「え?」

「いいから任せて!!」

 メルさんは瞳を輝かせてそう言った。




 それから部屋を移動して、メルさん、シンリーさん、エチカさんたちにこれでもかというくらい体中を触られた。

 勿論変な意味で触られたわけじゃなく、着替えの手伝いをしてくれたり、お化粧してくれたり、髪を結ってくれたり。

 途中、腕に巻いていたお守りを怪我だと誤解され、説明するのに大変だった。



 みんなのおかげで、鏡に映るわたしはどんどん綺麗になっていった。

 でもこれまで鏡を見ることを極力避けていたから、やっぱり自分だという実感はどうしても湧かない。

 偶然だと思うけど、メルさんが選んでくれた緑と白を基調としたドレスは、ライルさんの髪や瞳を思わせてなんだか嬉しくなった。

 ただ1つ不満があるなら、イヤリング、ネックレス、指輪、腕輪、眩い宝石が鏤められた装飾が全部重い。

 お姫様の正装ってそういうものなの?


 わたしがお礼を言うと、メルさんたちは満足そうに微笑んだ。




 シンリーさんに連れられて、わたしとメルさんは階段を下りる。

 そもそもハンナ自体、地下にあるわけだけど、ずいぶんとまた下っていく。

 王族御用達というだけあって本当にすごい造り……。


 下りた先の一段と広い部屋に入ると、

「綺麗!! 綺麗!! セリア、すっごく綺麗!!」

とクライが嬉しそうにわたしに駆け寄ってきた。


「クライ、ありがと」

「もう、主もなんか言いなよ」

 クライが離れた場所に立つライルさんに声をかけたけど、彼はわたしのほうを見ようとはしなかった。


「あの、わたしはともかく、なんだかライルさん…って感じのとっても素敵なドレスなんですよ!!」

 わたしはライルさんにそう言って、改めて自分のドレスを上から眺める。


「ああ、お前が綺麗なのは分かっている。……俺にどう答えろと?」

 彼は困ったようにそう返した。

 そんなライルさんを、クライは呆れた顔で見ていた。

 言い方はどうだろうと、今日は褒めてもらえただけマシかもしれない……と思う。(またちんちくりんとか言われたら、それこそ立ち直れない。)


「それで、こんな地下からカナン国に行けるんですか?」

 わたしはライルさんに尋ねた。

「どこからでも行けるが、それなりに落ち着いた場所から始めたい」



 メルさんがわたしに近づく。

「……セリア。心配で余計なことをいろいろ言ってしまったけど、わたしはあなたを信じている。だからあなたの思うとおりに。でもライルからは決して離れないで、十分気をつけてね。わたしはお城に戻ってあなたの帰りを待っているわ」

「メル姉、ありがとうございます」

 メルさんは優しい顔でわたしの手を取った。

 それからわたしは、お世話になったシンリーさんやハンナのみんなにお礼を言った。




 ライルさんが床に手を置くと、直径3メートルほどの円状に光の文様が現れる。

 なんて綺麗な白い光の魔法陣。

 そして彼は唐突にわたしを抱き上げると、

「準備はいいか?」

と言った。

 こ、この体勢は……。

 まさか?


「じゅ……準備? やっぱりこれから、と、飛ぶんですか?」

「連続で12。それでカナンに届く」

「……連続?」


「主、セリアを抱えたままじゃ無理だよ。オレが開けるよ」

 クライが言った。

「問題ない」

 ライルさんはそう言うと、翡翠色の瞳でわたしを見つめて何か呟く。

 途端に体が軽くなった。


「え? 何……?」

 なんだかふわふわとして、自分が空っぽになったみたい。

 ライルさんは更に強くわたしを抱きしめた。


 彼の体温を感じる。

 そういう雰囲気じゃないって分かっているけど、恥ずかしくてじっとはしていられない。

 思わず身をよじる。

「あの、ちょっと……ライル……さん?」

「動くな。今のお前は空気よりも軽い。しっかり掴まっていろ。クライ、行くぞ」

「オレはいつでも大丈夫」

 クライが答えた。


 ライルさんは左手でわたしを抱えて、右手で円を描いた。円は穴になり、彼はわたしを抱えたまま穴に入る。

 わたしは少し体をひねって、彼が向かう方向を見ていた。




 穴の先は、空間。

 いきなり空に放り出されている。

 下界には、美しい町並みが見えた。



 絶対に、絶対に落ちる!!

 もはやまともな声すら出ない。

 そこでまたライルさんは素早く円を描き、開いた穴に入った。



 同じように……空に放り出される。

 でも落ちない。

 思い切って足元を見ると、ライルさんは光の魔法陣の上に立っていた。

 あの時床に現れた美しい魔法陣が空に浮いている。

 彼はまた円を描いて穴に入る。

 そして、再び現れる魔法陣。

 ようやく……理解した。

 魔法陣が地面の役割を果たしている。この魔法陣の上に立っていれば、決して落ちることはないのだろう。


 わたしは体を戻し、後方を見てみる。

 クライがしゃがみ込んで魔法陣に触れていた。

 彼はわたしと視線が合うと優しく微笑む。

 落ちることがないことは分かったけど、何……その余裕?

 こんな地上から何千メートル(?)の上空に浮きながら、どうしてそんなに平然と笑っていられるのか分からない。

 クライは決まってわたしを抱えたライルさんの後に続いて穴に入った。

 多分彼が、落ちないように素早く魔法陣を移動させている。

 しばらく同じことが繰り返された。



「最後だ」

 ライルさんがそう言って穴に入ると、次に現れたのは空ではなかった。

 地上の町並み。

 ライルさんがわたしの瞳を覗き込み、また何か呟くと一瞬で自分の体に重みが戻った。

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