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会いに行きます

「トキ王子に……魅入られた? アラクネさんは女性ですか?」

 メルさんは頷く。

「……でも多分、性別は関係ないわ。トキ王子には老若男女問わず虜にする不思議な力があると言われているから。あなたを彼に会わせたくない理由の一つね」

 彼に本当にそんな力があるのなら、メルさんが警戒する気持ちもわかる。

 でもそんな特殊能力、にわかには信じられない。


「今もアラクネさんはカナンに居るんですか?」

 メルさんは黙って左右に首を振る。


「彼女はもう何処にも存在しない。あの事件で相当な魔力を使った。抵抗する魔力さえ残っていない状態で、自白の魔法をかけられるのを恐れて自ら命を絶った……と俺たちは考えている」

 メルさんの代わりにライルさんが答えた。

「自ら命を絶った……?」

 わたしは聞き返す。


「全てはアラクネの独断の犯行。それでトキ王子は無罪放免。当時、カナンの前王は知らなかったと必死に訴える息子の言葉を信じた。お前を陥れる動機もなかったからな。そしてアラクネが犯した罪を償わせるために、自分の息子2人をお前の婚約者にしたんだ」

 ライルさんの言葉を聞いて、メルさんはため息をつく。

「だから事件の真相、実は未だにはっきり分かんないんだよね」

 クライが言った。




「……カエヒラ様……ご無事かしら」

 沈黙が流れると、メルさんは心配そうに呟いた。

「主、城の様子見て来ようか?」

 クライが尋ねる。

「必要ない。何度か攻撃を受けたといってもゲートを破るためだけの瞬間的なものだ。親父が深手を負っているとは思えない」

「どういうこと?」

 メルさんが聞いた。


「侵入者は魔力の結晶を使ったのでしょう。直接会って分かりました。そもそもあの3人程度の魔力で親父のゲートを破ることは叶わない」

「じゃあご無事なのね!! ライル、さっきの耄碌親父……っていう失礼な言葉は撤回してあげてね」

 メルさんはそう言って、ほんの少し笑った。

 ライルさんは黙っていた。


「だけどカエヒラ様の二重ゲートを破るくらいだから使用した結晶のランクは相当高いわね」

「最高クラス。あれはもしかしたらアラクネの……」

 ライルさんは考え込んでいる。


「つまり、トキ王子は15年前の事件が起きる前からアラクネの魔力を溜め込んでいたということかしら?」

「そうかもしれません。彼が何を考えているのか分かりませんが、まとめてあのクラスの結晶を使われたらさすがに今の俺でも対抗するのは厳しい」

「……そんなに強力な魔力の結晶があるなら、これまでよく使わないで隠し持っていたわね」

 メルさんは難しい顔で顎に指を当てる。


「セリア姫が目覚めた今、トキ王子は完全に不利な状況……」

「いよいよ奥の手を使ってきたっていうことかしら?」

 メルさんがライルさんの言葉に続いてそう言った。



「会えるものなら会ってみたいです」

「え?」

 わたしの言葉に、メルさんは驚いた顔で聞き返す。

「トキ王子に……です。彼が何を考えているのか知りたいです。それに、わたしに会うために乱暴な手段で勝手に侵入してきて、ライルさんのお父さんを傷つけたんだとしたら文句の一つも言いたいです」

「でもこれまで彼は、眠った状態のあなたの身体を何度も奪おうとしてきたのよ? 直接会ったら何をされるか分からないわ」


「わたしの……身体を?」

 そういえばメルさんはさっきもあの侵入者にそんなことを言っていた。

「王位を手に入れるため、魔術で魂のないあなたの身体を操ろうとでも考えていたんじゃないかしら。それとも何の抵抗もできないあなたを穢そうと……」

 メルさんはそう言って目を伏せる。


「でもさっきのカナンの女性、襲撃はトキ王子の意思じゃないって言ってました」

「そんなこと信じられないわ」

「トキ王子って……そんなにまで酷い人なんですか?」

 わたしは聞いた。


「正直なところ彼の考えを直接聞いたわけではないから、はっきりとは分からない。聞いたところで本当のことを話すとも思えないけど。ただ、今までの行動から私たちはどうしたって彼を警戒せざるを得ない……」

「会うなら覚悟が必要だろう」

 ライルさんも静かに続けた。


「やっぱりまずはジェイド王子に会うのが先よ。ずっとずっと長い間、あなたを待っていたのよ?」

 メルさんはわたしを見つめてそう言った。


「……メル姉はジェイド王子のことが好きなんですね」

「えっ?」

「あ!! 好きと言っても違います!! 人として信頼しているというか……そういうの、話から伝わってくるので」

「そうかもしれない。世界のことは置いといて、やっぱり同士……だからかしらね」

「同士?」

「とにかく一途な子は応援したくなるのよ」

 メルさんは優しい顔で笑った。



「あのさ、今日はそろそろ休んだほうがよくない?」

 クライが言った。

「そうね。確かにもう遅いわ。……大変な1日になってしまったわね」

 メルさんが言った。

 襲来からこの宿まで、本当に目まぐるしい1日だった。

 わけもわからず戸惑いながらライルさんに連れられて。

 でも、わたしはただ言われるままに従う人形じゃない。


「メル姉……。わたし、ジェイド王子に会いに行きます。できたらトキ王子にも。会ったこともない人のこと、あれこれ想像で話していてもどうにもなりません。わたし、もう逃げようとは思いません。それで結婚の話は堂々と断ってきます」

 そう言って真っ直ぐにメルさんを見る。

 彼女は一瞬驚いた顔をしたけど、頷くと諦めたように笑った。


「ライル、クライ、改めてセリアをお願いね。私はこの国を離れられない。今は一緒に行くことはできないから」

 メルさんが言った。

「……分かっています」

 ライルさんは無表情のまま答える。

 クライは優しい表情でわたしを見ていた。


 そしてわたしたちは、各々自分の部屋に戻った。

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