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メルさんとの再会

「俺に緊張してどうする?」

「主は口調も態度も悪すぎなの」

 クライが代わりに答える。

「そもそも、こいつが普通に話せって言ったからだ」

「主の普通は普通……じゃないと思う」


「あの!!」

 わたしは思い切ってライルさんに向かって呼びかけた。

「こ、これ、洗ったのでお返しします。ありがとうございました」

 変なタイミングだとは思ったけど、わたしは彼に畳んだスカーフを差し出す。

 緊張のせいか無意識に握りしめてしまっていた。これ以上持っていたら、もっとくしゃくしゃになってしまいそうで。


「……俺の服か。そんなもの捨ててよかったのに」

「お借りしたものは、ちゃんと返さないと」

「借りたもの? 可笑しな奴だな。俺のものなど好きにして構わない」

「じゃあ、貰ってもいいですか? お守りにします」

「……意味が分からないが好きにしろ」

 ライルさんは呆れた顔でそう言った。




 それからわたしは部屋に戻り、食事を済ませた。多分遅めの夕食。

 クライは扉の前にいる。

 ライルさんは……分からない。

 自分の部屋にいるのかもしれないし、外に出て行ったのかもしれない。


 エチカさんが香りのよいお茶を淹れてくれたので、わたしはクライに声をかけた。

 でも、クライは「オレは飲めないから」と言って扉の前から動こうとしなかった。

 忘れていたわけじゃない。お茶は口実で、ただ部屋に入ってほしかっただけ。飲めなくたって構わない。

 寒々しい扉の前で1人、クライを立たせているなんて嫌だったから。


「クライ、部屋に入って」

「どうしたの?」

「どうもしないけど入って」

 クライは不思議そうな顔で部屋に入る。

 そしてわたしが席に着くと、黙ってわたしの向かいに座った。


「クライ、一緒にいればいいじゃない。なんでずっと扉の前にいるの?」

 クライは驚いた顔でわたしを見た。

「なんでって……考えたことないよ。オレはただ、セリアのこと守りたいから」

「だったら見えるところにいて? その方がクライだって安心でしょ?」

「……やっぱりセリアは……優しいね」

 優しくなんてない。普通のことだって思う。そんなこと言ったら、わたしをいつも気遣い守ってくれるクライのほうがずっとずっと優しい。

 わたしは左右に首を振る。


「ねえ、セリア。ちょっと気になったの。さっき主に言ってたお守り……って何のこと?」

 クライはそう言ってわたしを見つめた。


「……わたしを守ってくれるもの……かな」

「うん、それは分かる。でもそんな布じゃなくて、セリアのことはオレと主が直接守るよ?」

「ありがと。けど、多分気持ちの問題だよ。持っているだけで心強いし……」

 わたしは少し考えて答える。


「あんななのに、信頼してくれてるんだね」

「え?」

「主のこと」

 クライはふわりと笑った。




 不意に、突然扉が強めにノックされる。

「どうぞ」

 わたしは返事をする。


 慌てて飛び込んできたのはキイロさんだった。

「メル姫様がお見えになりました!!」

 キイロさんの肩は、走ってきたせいか激しく上下に動いている。

「セリア、行こう」

 クライの言葉にわたしは頷く。


「ご……ご案内します」

 キイロさんが、右手で胸を押さえながらそう言った。

「大丈夫だよ。今、先に主が着いた。どこにいるかは分かる」

 クライは真剣な声で答える。


 わたしはクライの後を追って走った。1秒でも早くメルさんに会いたくて。






 辿り着いた部屋の扉をノックもしないで勢いよく開ける。

「メルさん!!」

 わたしは彼女の名を呼ぶ。


「もう……セリア、メル姉でしょ?」

 振り向いたメルさんはそう言って笑った。

 久しぶりに見るメルさんの明るい笑顔。

 ……心の底から……ほっとした。



「とにかくご無事で何よりでした」

 先に部屋に着いていたライルさんが言った。

「それが、無事でもないのよね……」

「えっ?」

 わたしは驚いて声を上げる。

「あ、勿論私は無事なんだけど」


「メル姫、破られたゲートですが……どこか分かりましたか?」

 ライルさんが聞いた。

「セレンカ。中央ゲートだったわ」

「……親父の管轄か」

「あれからすぐに予想通り、侵入者は城に入り込んだ。でも誰も接触はしてないわ。カエヒラ様が二重ゲートを張ったから」


「カエヒラ様?」

 わたしは聞き返す。

 初めて聞く名前だった。

「主のお父さんの名前だよ」

 クライが教えてくれた。

 そういえば元々はライルさんのお父さんがわたしの護衛をするはずだった。きっと、相当な魔力を持っているのだろう。


「では侵入者は現在も城の特定の場所に閉じ込めたままということですね?」

 ライルさんが聞いた。

「多分……。私は一応みんなの無事を確認した後、こちらに向かってしまったから」




「キャッ!!」

 メルさんが突然、一点を見つめて悲鳴を上げた。

 ライルさんが瞬時にわたしの前に移動する。



 部屋の隅の床が黒い円状になり、波打っていた。

 そこから黒い腕が伸びてくる。

 そして、頭、胴体、腹部、足。全身が円状の穴から這い出る。


 黒ずくめのいかにも怪しい人物は、波打つ穴の横に降り立った。しかも1人ではなく3人……。

 守ろうとしてくれているのか、クライもわたしのすぐ横で身構える。


「ごめんなさい……。つけられていたみたいね」

 メルさんが言った。

「全く、あの耄碌親父が……」

 ライルさんは呟く。

「ライル、そんな言い方しないで。セレンカのゲートが破られた時点でカエヒラ様、相当なダメージを受けていたはずよ。頼りっぱなしで更に無理をさせてしまったんだわ。ご無事ならいいけど……」

 メルさんの言葉に、ライルさんはため息をついた。

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