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嫉妬と独占欲

「セリア、先にお風呂に入る?」

 クライが尋ねた。

 確かに歩き通しで全体的に汚れている。お風呂に入れるのはすごくありがたかった。

 宿に入ってからずっと手に持っているライルさんのスカーフ。返さないといけないけど、ちゃんと洗って返したい。

 お風呂場の洗面台で洗えるかもしれないと思った。

 とりあえずひらひらした服のわきにポケットがついていたのでそこにしまう。

 わたしはお風呂場まで案内してもらうことにした。



 シンリーさんがベルを鳴らすと、可愛らしい女の子が大勢やってきた。

「はいはーい。私、ライル様の担当ね」

「ライル様の担当は私でしょ?」

「ちょっと新人は下がっていて。気軽にライル様に近づかないでくださいな」

「私は絶対にセリア姫様の担当をしたいです!!」

「……クライ様は……わたくしがお引き受けいたしますわ」

「ちょっとー、平等にあみだくじで決めようよー」

「だから新人は下がっていて!!」

 可愛いメイド服にも似た格好をしている女の子が……えっと? 何人いるんだろう?

 その中に見分けがつかないくらいそっくりな女の子が2人いた。


「あなたたち、お客様の前で失礼のないようにと常々言っているのに、どうしてそんなに落ち着きがないのですか……?」

 シンリーさんはそう言って、困ったように頰に手を当てる。


「新人のエリスとカミラが和を乱しているのですわ」

 落ち着いた雰囲気の女性がきっぱりと言った。


「エリス、カミラ……。前に」

 シンリーさんが言うと、そっくりな女の子が彼女の前に並ぶ。

「……2人は奥に下がっていなさい」

「そんなー。私、ライル様に会えると思ってすごい勉強してこの宿に入ったんです。入ってからも毎日厳しい修行をしてきました。だから一通り何でもお世話できます!!」

「私だってそうです。エリスより、ちゃんとお世話できます!!」

 彼女たちは双子らしく、見分けが全くつかないけど、どうやらこちらがカミラさんらしい。


「ライル様、是非とも私にお世話させてください!!」

 カミラさんはそう言ってライルさんに近づく。

「カミラ、ずるいよ。私の方が絶対きちんとお世話できます」

 エリスさんも彼に近づく。



「寄るな。俺の世話なんて必要ない。どっかに行ってろ」

 ライルさんは冷たく言い放った。


「キャー、カッコいいー」

「ライル様、綺麗で冷たいー。大好きー!!」

「大好きー!!」

 2人はライルさんの周りで飛び跳ねている。

 シンリーさんが注意するも、2人は全く言うことを聞かない。


 ……い……嫌だ。

 好意を持ってライルさんに近づかないでほしい。



「セリア、どうしたの?」

 クライに聞かれて、わたしは必死で首を横に振る。

 なんだろう。

 ライルさんはわたしのものじゃないのに、それどころか嫌われているのに、彼女たちに「ライルさんに近寄らないで!!」って叫びたい!!

 なんて自分勝手な……。


 やだな……。苦しい。

 本当に泣きそうなくらい、胸が苦しい……。

「主、セリアが変だよ!! 具合悪いみたい」


 瞬間、ふわりと体が軽くなる。

 気付くとわたしはまたライルさんに抱きかかえられていた。


「大丈夫か? 疲れたんだな」

 ライルさんの言葉と同時に、周りから悲鳴が聞こえる。

 そして、彼の綺麗な顔がゆっくりと近づく。

 わたしは慌てて手で自分の口元を押さえた。


「あの、それは……嬉しいけど大丈夫ですので……」

「何が?」

 ライルさんは怪訝そうな顔でわたしを見ている。


「ですから、治癒……ですよね?」

「治癒?」

「キスです」

「ああ……。馬鹿か? そんなこと人前でするか。それに、お前の許可が必要なんだろう?」

「え?」


「いいのか?」

「いえ、あの……はい。でも、大丈夫……ですので。その、元気……ですから」

 わたしはしどろもどろになりながら、なんとか返事をする。

 また周りから悲鳴が聞こえた。

 ライルさんの表情は変わらない。


「とりあえず、こいつの部屋に案内しろ」

「私が案内いたします」

 さっき私の担当を名乗り出てくれた女の子が一礼する。

 わたしはそのままライルさんに抱えられて、案内された部屋の広いベッドに寝かされた。




 豪華絢爛な部屋だった。美しい装飾のベッドにテーブルセット。

 クライがわたしを覗き込む。

「セリア、大丈夫?」

「うん……。ごめんね」

 具合が悪いわけではないのに、クライに余計な心配をかけてしまった。


 起き上がって部屋を見回すと、ライルさんの姿が見えない。

「ライルさんは?」

 わたしはクライに尋ねる。

「主が気になるの?」

 わたしは素直に頷く。


「シンリーにお世話係は要らないって言いに行ったんじゃないかな。主、そういうのホント苦手だから。セリア、少し休んだほうがいいの。落ち着いたら声かけてね」

 クライはそう言って優しく笑った。

 指定位置でもあるかのように、彼は扉の前へ移動する。


 それにしてもさっきのライルさんは何だったんだろう?

 キス=治癒って……堂々と誰彼かまわずするものじゃないのかな?

 治療行為とはいえ誰かに見られるのは恥ずかしいけど、ライルさんってなんとなくそういうことを気にしない人だと思ってた。

 それに、前にクライに注意されたからって律儀にわたしの気持ちなんて確認してきたりして……。

 一体どういうつもりなの?

 彼のことが全然分からない。

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