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港町コルハ

 それからしばらく2人はどうでもいい言い争いを続けていたけど、最終的にクライもコルハの光の柱に入り、わたしたちは転移スポットから慎重に外に出た。




 目の前は海。

 光を浴びる水面の上を、海鳥が群れを成して飛んでいく。

 海風が強いせいか、石畳の道や建物に渡された白とスカイブルーの美しい旗が音を立てて勢いよく風に靡いている。

 港ではたくさんの人が忙しそうに動き回り、遠くに何隻か立派な船が泊まっているのが見えた。


 コルハはずいぶんと大きな港町らしい。

 でもわたしはさっきまで薄暗かった森を歩いていたせいか、どこか遠くから映画でも見ているような感覚で、その様子を呆然と眺めていた。



「……セリア。セリアってば!! 大丈夫?」

 横を見るとクライが心配そうにわたしを見上げていた。

「……クライ?」

「何回も呼んでるのに、一体どうしちゃったの?」


「……ごめんね。何か……急に、世界が違いすぎて……」

「そっか。セリアはコルハの町並み、初めてだよね。広くて賑やかでしょ? 観光なら良かったんだけど」

「観光……。確かに綺麗な町だね。そういえばお城を出てから結構時間が経ってる気がするけど、外……いつまでも明るいね」


「今の時季は陽が落ちるのすごく遅いから。主、時間は?」

「まだ10時間も経っていない。……メル姫を待つならハンナだな」

 ライルさんが言った。


「ハンナ?」

 わたしは尋ねる。

「ハンナは王室御用達の隠れ宿だよ」

 クライが答える。


「その前にコルハのゲートが破られていないか確認したい」

 ライルさんは考えるようにそう言った。

「コルハが混乱してる様子がないから大丈夫だと思うけど、一応見てきたほうがいいかもね」

 クライが言った。



 石畳の道を歩き始めると急に視線を感じた。

 ライルさんが自分の服の一部を剥ぎ取り、いきなりわたしの顔に投げつける。

「ふぇ!?」

 思わず変な声を上げてしまう。

 それは、軽くて肌触りのいいクリーム色の大きな布。綺麗な正方形ではないけれど、半分に折ればスカーフと思えなくもない。


「被ってろ。お前は目立つ」

「……え?」

「この国でセリアのこと、知らない人なんて居ないの」

 クライが言った。


 なんだか分からないけど、どうやらわたしは有名人らしい。

 姫だからテレビとか新聞なんかで(この世界にそんなものがあるのか不明だけど)取り上げられたりしてるのかな?

 でもそうだとしても、15年間眠りっぱなしで昨日目覚めたばかりのわたしに気付く人がいるとは思えないんだけど……。



 ライルさんの服だったもので一応顔を隠しながら、さり気なく町を観察してみる。

 行き交う人々の髪と瞳は、綺麗なパステルカラー。本当に色とりどりで様々。

 だけどライルさんやクライのようにグラデーションの髪や、色が混ざった瞳の人なんて1人も居ない。

 多分、注目されているのはライルさんとクライ……。

 その証拠にわたしが顔を隠したところで、こちらを見つめる視線は一向に減らなかった。



 ライルさんは自分が見られていることを気にする様子もなく、足早にわたしの前を歩く。

 そして、クライとわたしは彼を追いかける。

 まるっきりさっきと同じ状況……。舞台が森から町に変わっただけ。


「クライ……。ゲート……ってどこにあるの? 遠いの?」

 わたしは隣を歩くクライに尋ねる。

「ううん。近いよ。少し先に船が見えるでしょ? あの辺りのはずだよ」

 彼はそう答えた。




 追いついたライルさんは、兵士のような人々に囲まれていた。

 なんだか尋常じゃない雰囲気。

 といっても、それは決して不穏なものではない。


 船は目前。船着き場らしきところに、とてつもなく大きな膜のようなものが見える。

 イメージと違うけど、これがゲート?


「コレット、他のものは下がらせろ」

 ライルさんがコレットと呼んだ彼は、ブラウンの髪にアクアマリンの瞳。

 がっちりとした体格のせいか、スポーツを愛する好青年といった印象だった。服装が妙に重々しい。

「分かりました」

 そう言って、彼は周囲にいる人を即座に下がらせる。


「ライル様がゲートまで来られるとは、何かあったのですか? あの、こちらの方は?」

 彼は突然わたしに視線を向け、そう尋ねる。

 ライルさんは返事をしなかった。



 コレットさんはゆっくりとわたしに近づく。

 そして下から覗き込まれ、穴があくほど見つめられた。

 こ……怖い……。



「……美しい」

 彼は放心したかのように一言呟く。


「そんなに不躾に見るな」

 ライルさんはそう言ってわたしとコレットさんの間に入り、わたしの頭にかかっている布を顎の下まで引っ張り下ろした。


「確かにそんなに近距離でセリアを見る彼も良くないけど、普段、主の方が100万倍不躾だし失礼だよね」

 クライは即座に小声で突っ込みを入れる。

 それは……その通りだとわたしも思う。



「あの、こ、この妖精のように美しいお方はもしかして……いえ、もしかしなくても……セリア姫……ですよね?」

 低く落ち着いた彼の声が裏返っている。

 ライルさんは仕方がないといった様子で頷いた。


「やはり……。勿論通達により聞いてはいましたが……本当だったのですね。セリア姫がようやく目覚められたと。このお美しさ。そしてなんといってもライル様がご一緒なのですから、これはもう間違いありませんね」

 わたしはライルさんに気づかれないようにそっと布を捲り、再びコレットさんを見た。

 わたしを見つめる彼の顔が赤い。


「本当に!! なんと!! なんと美しい!! 本来私のようなものがセリア姫をこのように間近で見るなど、決して許されぬ行為。私は今日のことを決して忘れません。もう二度とこのような機会が訪れることはないでしょう。ですから、今思う存分姫様をこの目に焼き付けて後世に伝えるのです。といっても私は独身ですから相手を探して子孫を残さねばなりません。しかし、このような美しいセリア姫を、こんな形でしっかりはっきりと見てしまったら私の目も肥えるというものです。一般的な美人と言われる女性では満足できず、もうただ僧侶のように生涯結婚せず、セリア姫だけをひたすら想って生きてゆくのも運命かと。それとも相手の方には申し訳ないが、セリア姫に似た……いやそんな女性が居るとは思えない。私は一体どうしたら」

「コレット。いい加減にしろ」

 さすがに、ここでライルさんが彼の言葉を遮る。


「失礼致しました。興奮のあまり取り乱しまして……」

 コレットさんは我に返ったのか、一つ咳払いをして姿勢を正す。


「とにかく、ゲートは無事なんだな」

 ライルさんが尋ねる。

「勿論です。ここ一週間、魔力のあるものは当然、平民ですら誰一人としてこのゲートから入国させておりません」

 コレットさんははっきりとそう言い、わたしたちに向かって一礼した。


「あのね、セリア。コレットってこんなだけど剣と武術の達人で魔力もそこそこあるから、すごーく強いんだよ。でも……もう二度と近づかないでね」

 クライが言った。

 ちなみにコレットさんが許されぬ行為云々話し出した辺りで、クライはわたしを彼から遠ざけている。

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