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王子様が迎えに来てくれたと思ったのだけれど  作者: 録宮あまね
3.逃亡

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転移スポット

 しばらく一本道を歩いていたけど、分かれ道に差しかかる。

「こっち」

 すぐにクライが教えてくれた。

 それから何度も分かれ道に差しかかる度に、彼は方向を示してくれた。


「この道はよく通るの?」

 わたしはクライに尋ねる。

「ううん、全然。普段はほとんど歩かないから」

 クライは魔法が使える。浮いたり飛んだり消えたり。キニュレイトだってある。こんな状況じゃなければ、そもそも彼は道なんて歩く必要がないのかもしれない。


「通らない道なのによく方向が分かるね」

「さっき、先に行って一通り見てきたでしょ。それに今は主の後を追ってるだけなの」

 クライは言った。

 そういえばだいぶ歩いたけど、その追っているライルさんの姿が一向に見えない。


「ライルさん、まだずっと先に居るのかな?」

「もう近いよ。あ、止まった。多分オレたちのこと待ってる……」



 道はどんどん狭くなり、その上かなり曲がりくねっていて歩き辛かった。

 あのキスでライルさんに体を元気にしてもらったけど、どうやらその効果も永久的に続くものではないらしい。

 大体、改めて見てみると着の身着のままできた(?)わたしの服装も悪い。

 ネグリジェみたいなひらひらした服にヒールのないガラスっぽい靴。(柔らかいからガラスではないと思うけど。)結んでいない長い髪も、歩くたびに揺れて鬱陶しかった。



 状況の悪い中、何気に結構な距離を歩いている。さすがに少し疲れてきた。

 息が上がっているわたしに気付いたのか、クライが足を止める。


「……魔法が使えないって不便だね。こんな状況じゃ、オレは役立たず。主と違ってセリアのこと抱えることも出来ないし。……ごめんね」

 彼はそう言うと、繋いでいる手にぎゅっと力を込め俯いた。


「クライ? 大丈夫だよ。頑張ってライルさんのとこまで一緒に行こう?」

「セリア……」

 わたしを見上げるクライの瞳は綺麗だけど黒っぽい。とても哀しげに見えた。


「クライがこうしてそばにいてくれるだけで心強いよ。でも笑ってくれたら嬉しい。クライが笑ってくれたらわたし、もっと頑張れると思う」

 わたしは彼に笑いかける。

 クライは驚いた顔をしていた。でも、一度頷くと可愛らしく笑った。


「セリア、ありがと。今オレがどれだけ幸せか、セリアにはきっと分からない……。ホントにありがと……」

 彼の瞳は一瞬で濃紺に変わる。そしてほんの一部だけ、月のような黄金の輝き。

 ライルさんといいクライといい、なんて綺麗な瞳なんだろう。

 それこそ魔法みたい……。

「行こう。主が待ってる」

 そう言ったクライの表情には、もうほんの少しの翳りもなかった。




 それから10分程歩き、一段と大きな木の側にライルさんの姿を見つけた。

「よかった。やっと追いついた」

 わたしはほっとして彼に近づく。


「寄るな」

 ライルさんが言った。

 よく見ると、彼と木の間にキラキラしたものが浮いている。

 キラキラしたもの……というより、キラキラした線? それは15センチくらいの、目の錯覚かと疑うくらいの細い縦線だった。



「こんなところに転移スポット?」

 クライがライルさんに尋ねる。

「まだ城の敷地内だ。さすがに分かりやすいところには置いていない」

 ライルさんはそう言って、キラキラの線に右手を突っ込む。そしてそのまま十字を切るように上下左右に動かすと、線は直径1メートル程の穴になった。


「入れ」

 ライルさんが言った。彼は真っ直ぐにわたしを見ている。

 そんなこと言われても、訳のわからない穴になんて入りたくない。だって……元は線だったんだよ? どこに繋がってるのかも分からないし……。


「大丈夫。先に入るね」

 クライがそう言って、ひょいと穴に入った。

「え?」

「さっさと入れ。塞がる」

 ライルさんは穴を押さえながら、わたしの腕を引く。

 わたしはそのまま勢いで穴に入り、ライルさんもわたしの後に続いた。




「……ここ、どこですか?」

 案の定、穴の中は謎の場所だった。

 勿論さっきまでの森じゃない。だだっ広い部屋……というか空間というか、とにかく見渡す限り白かった。


 その白い空間に光の柱みたいなものが何本も突き出ていて、光の周りを(つまりは空中なわけだけど)文字がゆっくりと回っている。

 わたしはこの世界を説明するときにライルさんが出した立体地図を思い出した。

 原理が分からないから、この場所も光の柱も魔法で作られているとしか思えなかった。


 回っている文字は難なく読める。

 近くからササライ、セレンカ、アナ、チエゴ、セイミ、ソイクエル、コルハ、ミチミチ、ハヅラ、ノエリ、チギ……もっとたくさんあるけど、意味が分からない。

 魔法の呪文か何か……なのかな?



「コルハに」

 ライルさんが言った。

「セリア、アサナへ向かう港があるのはコルハだから、コルハの光の中に入って」

 クライが優しくそう言った。


「コルハって町の名前?」

「うん。コルハの光に入って外に出れば、コルハの転移スポットから出られるよ」

「……転移スポットって?」

「んー、魔力と科学の融合? 転移スポットは魔力のない普通の人も利用できるの。すごく便利なものだよ」


 わたしはコルハの文字が回る光の柱の前に移動する。

 光の柱は円柱形で直径2メートル程。先が見えないくらい天高くまで伸びている。

 恐る恐る光に手を差し入れてみる。


「何をしている。早く入れ」

 ライルさんはそう言うと、わたしを軽々と抱きかかえ光の中に入った。

「え? あの、ライルさん? わたし、歩けます!!」


 ライルさんは事あるごとに、何の前触れもなくわたしを抱える。

 もう荷物か何かだと思ってるのかもしれないけど、こっちはそうされるたびに吃驚するし、何より恥ずかしくて仕方がない……。


「あ!! またセリアを驚かせた!! 主、セリアがいいって言ってないのに、べたべたしたらダメだよ!!」

「べたべたなんてしてない。こいつの動きが鈍いからだ」


「あの……喧嘩しないでください」

 わたしは不本意ながら抱きかかえられた状態で、ライルさんとクライを交互に見ながらそう言った。

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