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王子様が迎えに来てくれたと思ったのだけれど  作者: 録宮あまね
3.逃亡

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クライはいつも

「クライが戻ってくる」

 嫌そうな声でライルさんが言った。

「え? ……先の道でなんかあったんでしょうか?」

「全く……不便だ」

 ライルさんの言葉と同時に、クライが目の前に現れる。

 本当に突然……。

 森から歩いてきたわけでも走ってきたわけでもない。



「あーー、るーーー、じーーーー!!」

 クライは叫びながら物凄い形相でライルさんに詰め寄る。


「何しちゃってんの!?」

「それはこっちのセリフだ。魔力を使うな」

「抑えたよ!!」

「空間魔法を使っただろう」

「だって!! 主、何なの!? オレが居ないのをいいことに、セリアに何しちゃってんの?」


「……悪いことはしていない」

「悪いよ!! セリアに謝って!! 大体そんなことしなくたって」

「黙ってろ」

 ライルさんは言葉を遮り、躊躇いなくクライを魔法の力で飛ばした。

「クライ!!」


「セリア、大丈夫。主にちゃんと謝らせるから、ちょっとだけ待ってて」

 クライは3メートル程の距離で、軽く空中に浮いたまま平然と言った。



「クライ、お前わざと俺に少し残しただろう?」

 ライルさんは冷たい目でクライを睨んでいる。

「そんなことしてない。主が勝手にまたセリアのこと」

「果てまで飛べ」

 ライルさんは再びクライの言葉を遮り、素早く手をかざす。瞬間、クライは勢いよく森の中に飛ばされた。

「きゃああ!! クライ!! ライルさん、何するんですか?」

「……俺たちの問題だ」

「俺たち? なんだか分からないけど、クライに酷いことしないで!!」

 ライルさんは黙っている。



「……嫌だったのか?」

 ライルさんが躊躇いがちに口を開く。

「え?」

「さっきの……」

 瞬間、キスの話をしているのだと分かった。

 わたしは反射的に左右に頸を振る。

「吃驚したけど……嫌なんて、そんなこと思ってないです」

 本当に……嫌だなんて思ってない。少し哀しかっただけで。


「……ライルさんの方が災難でしたよね」

 わたしの感情より、彼の感情が気になった。よく考えたらライルさんにとって、わたしはすごく迷惑な存在だと思う。

 幼い頃から強制的に護衛させられたり、したくもないキスしなくちゃならなかったり。

「ライルさんが魔法を使えなかったら、こんなとんでもない迷惑をかけずにすんだのに……」


「そんな優しいこと言ったらまた襲われちゃうよ?」

 いつの間にかクライが戻ってきて、側でそう言った。


 襲われる?

「敵?」

 わたしは慌てて辺りを見回す。

「違うよ!! セリア……なんでそうなの? もう、面白すぎる」

 クライは笑っている。


「あの……ホントに敵に見つかるんじゃないですか? 2人ともさっきから普通に魔法使ってるみたいだけど」

「「あ……」」

 ライルさんとクライは同時に声を上げる。

 魔法のこと、少しの間2人とも本当に忘れていたらしい。




 クライがすぐに近辺を探り、敵の気配がないことを確認する。

「セリア、ごめん。結局主は謝らないし、それどころか下手したら敵に見つかっちゃうところだったね」

「見つからなくて……よかった」

 わたしはほっと胸を撫で下ろす。


「主はもうああいうこと、セリアの許可なくしちゃダメだよ!!」

「許可があればいいのか?」

「そうだね。……ん? やっぱりダメじゃないかな? 仮にもセリアはジェイド王子の婚約者だよ?」

 わたしの代わりにクライが答える。


「ああ、そうか……。確かに……。……悪かった」

 ライルさんはそう言って俯く。

「え? 今? 結局謝るの?」

 クライは呆れて言った。

「ライルさん、謝らないでください。大体わたし、ジェイド王子と結婚なんてしませんから」

 聞こえていたはずだけど、ライルさんは俯いたままわたしに背を向け、黙って歩き出す。


「でもセリア……。オレ個人としては嬉しいけど……結婚のこと簡単に決めないでほしいの。ジェイド王子に王位を継承してもらわないとカナン……というより、サイネリアの行く末が危ないんだよ?」

 クライは言った。

「……やっぱりよく分からない」

 わたしは呟く。

「説明不足……だよね。メル姫さまも言ってたけど、ジェイド王子と会って話して決めたらいいよ。オレはセリアがどういう選択をしようとセリアの味方だから。セリアが幸せなら……それでいいの」

 クライはきっぱりと言った。


「なんでいつもいつもクライはそんなに優しいの?」

「セリアのこと、大好きだから」

 彼のさらさらのグラデーションの髪が風で揺れている。

 わたしはクライをぎゅっとしたくなる感情を抑えて、両手で彼の手を取る。

「クライ、ありがと」

 彼は嬉しそうに笑って頷く。

 綺麗で温かい笑顔。

 どことなく夢で見ていたライルさんに似ている。それは彼の髪飾りをつけているせい?

 また懐かしいという感覚に襲われた。



 それからわたしたちは手を繋いだまま、大分距離が離れてしまったライルさんの後を追った。

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