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治癒的な……

 右に左に、そうとうな距離を移動した。

 地下から階段を上がり(わたしはずっとキニュレイトに乗ったままだけど)外に出た途端、眩しい光に包まれる。


 見上げた空は、綺麗な青……。

 そこでようやく走り続けていたライルさんとクライの足が止まった。



 窓から見ていたとはいえ、外の世界は更に信じられないほど広かった。建物と建物の距離がありすぎるせいか、このお城以外の建造物は見えない。

 そして、目の前は森。美しいパステルカラーの木々が道沿いに天高く聳えている。

 今更だけど、長い夢を見ているんじゃないかと思った。

 まるっきり夢の中で見ていた風景と同じ。とても懐かしかった……。



「さすがに森の中なら大丈夫だと思うが、上から見つからないとも限らない」

「主、オレ、先に森の中が安全か見てくるね。何かあれば知らせるから、2人は後ろからゆっくり来て。キニュレイト自体危ないのに、スピードなんて出したら余計気づかれそうだし」

「いつまでもキニュレイトは使えない」

 ライルさんは淡々と言った。


「あの、わたし降りて歩きます」

 わたしはふかふかの絨毯にしか思えないキニュレイトから降りようと、片足を地面に伸ばす。

「セリア、森の中なら乗ったままで平気なの。無理しないで乗ってて。それで、森を抜けたらまた考えよう?」

「クライ……。ありがと」

 わたしの言葉にクライは可愛らしく笑うと「じゃあ、先に行くね」と言い、森の中へ消えていった。


 元気なクライが居なくなり、わたしとライルさんは取り残されるような形になってしまった。

 こんな時になんだけど、嫌われているライルさんと2人きりというのはかなり気まずい。



 何も言わず、少ししてライルさんは慎重に森に入った。

 わたしの乗っているキニュレイトも自動的に移動する。さっきと違い、彼はわたしの横を歩いている。


 本当に……気まずい。

 あちらの世界で初めて会ったときのことを思い出す。

 でも、これは彼とゆっくり話ができるいいチャンスかもしれないと思った。


「ライルさん……。聞いていいですか?」

 わたしは思い切って口を開く。

 ライルさんは一瞬横目でわたしを見たけど答えてくれない。

 その表情からは、いいんだか悪いんだか全く分からなかった。

 仕方がないので、否定しないんだからいいだろうという勝手な判断で話を続ける。


「さっき聞いた話で気になっていたんですけど、わたしの魂がこの世界から消えた時、ライルさんはすでにわたしの護衛をしてくれていたんですよね?」

「……ああ」

 今度は返事をしてくれた。


「あの、それって15年前……ですよね? そしたらライルさんだって子供だったんじゃないですか?」

「勿論そうだ。同じ歳だからな」

 ライルさんは当たり前のようにそう答えた。


「えっと……? わたしとライルさんが同じ歳ってことですか……」

 ライルさんは軽く頷く。

 初めて知った。わたしの精神が15歳のせいか、今のライルさんは年上にしか思えない。


「わたしの今の歳が23で、15年前ってことは8歳だったってことですよね? ライルさん、なんでそんな幼い頃から護衛なんてしてたんですか?」

「お前のせいだ」

「え?」

「魔力の高いナナハン家に生れながら、お前には全く魔力が無かった。それで魔術師の俺の親父がお前の護衛に就いた。だか物心がついたころ、お前が俺じゃないと嫌だと言ったんだ」

「そうだったん……ですね」


 幼いわたしは一体何を考えていたんだろう?

 もしかして、姫だからってどんな我儘を言っても許されるとでも思ってたんだろうか?


 勿論そんなことを言った記憶はないけれど、過去の自分の発言を知り恥ずかしくなった。

 でも、やっぱり思っていた通り……。

 それならライルさんがわたしを恨んでいても仕方がない。



「ごめんなさい」

 わたしは彼に頭を下げ、謝る。

「意味が分からない」

 ライルさんは首を傾げた。

「わたし、幼いライルさんに無理やり護衛なんて頼んで……」

「別に無理やりとかじゃない。それに、ナギは当時護衛なんて必要ないくらい平和な国だった。それはいいわけにはならないが……」

「いいわけ?」


「お前がサイネリアから消えたのは俺のせいだ」

「ライルさん、おかしいですよ!! それって絶対ライルさんのせいじゃないです!! それに消えたって言ってもわたし、死んだわけじゃなくてこうして生きてますし!!」

「……お前」

 ライルさんは足を止め、驚いた顔でわたしを見つめた。


 彼の瞳の色が変わっていく。薄青から紺碧。水面に波紋が広がるように変化し、色が混ざる。

 そしてその綺麗な瞳を閉じた。

「ライルさん……?」


 再び彼が瞳を開けると、また元の薄青に戻っていた。

「根本的に、そんな弱った状態の体では何もできない」

 彼はわたしに近づいてくる。

 なんか……距離が近い。

「ライルさん?」


 彼はわたしを抱き上げた。

「え? ちょっと……? ライルさん?」


 これは、あの日の再現?

 飛ぶの? 飛ぶつもりなの?

 こ、怖い……。

 目を瞑り、若干の重力がかかる(?)のを身構えていると、不意に唇に柔らかい感触があった。



 唇、に……?

 唇?

 え?


「ぎゃああああああ!!」

 反射的にありったけの大声を出す。

 そしてもう一度勢いよく唇を塞がれた。

「大声を出すな」

 間近で囁くライルさんは呆れた顔をしている。


「キ……キ……キキ……キキキ」

「何だ?」

「キ……キキ、キス……した。しかも2回も!!」


 ライルさんは平然とキニュレイトを消すと、わたしを地上に降ろした。

「ど、どういうつもりですか!?」

 わたしは子供のように腕を振りながら、ライルさんを指差し後ずさる。


「これで動けるだろう?」

「え?」

 わたしは自分の体を見下ろす。

 体はすごく軽い。

 なんだったらこのまま走れそうなくらい。


 もしかして、体を治すため?

 こっちの世界ではそういうことするの、普通なの?

「治癒的な……」

 わたしは呆然と独り言のように呟く。

 ファンタジーの世界でよく耳にする治癒魔法……。


 だけどいくらなんでも、なんか前もって言ってほしかった。

 ファーストキスだったのに何の感情もないキスなんて……あまりにも哀しい。

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