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臣下とか従者とか人じゃないとか

 突如、部屋に立派なテーブルと椅子が現れ、わたしはまたぐにょぐにょしたものに運ばれる。

 魔法の力……。

 すぐに忘れてしまうけど、ライルさんもクライも魔法が使えるんだから、当然寝室だって簡単にダイニングに変えられる。

 手軽に食べられるパンとかおにぎりなんて考えてたのが馬鹿みたい。

 わたしが座った(というより座らされた)椅子は体に負担がかからないように作ってくれたのか、とてもゆったりとしていて柔らかかった。


「どうぞ、ごゆっくり」

 ライルさんはそう言って頭を下げ、部屋から出て行く。


「ライルさん、一緒にご飯食べないんですか?」

「ライルは一応臣下だもの。誘ったって同席しないと思うわ」

「……臣下? メル姉のですか?」

「いいえ、ナナハン家の。でも、あなた専属と言った方が正しいかもしれないわね」

「え!?」

 わたしは思わず大声を出してしまう。


 ライルさんがわたし・・・の臣下?

 あんな態度で?

 100パーセント、嫌われているのに?



 いや、だからこそ……なのかもしれないと思った。

 彼は嫌々臣下にさせられて、わたしのことを恨んでいるのかもしれない。

 もしかしたら、向こうの世界でずっと見てきたあの夢……。

 あの幸せな夢……。

 哀しいけど、わたしの願望だったんじゃないのかな?

 ここの世界のことを少しだけ覚えていて、それであんな夢を見ていたんじゃないかって思う。

 ライルさんの笑顔を、一度でいいからどうしても見てみたくて。


「なんでそんな哀しい顔するの? オレもセリアのだからね!!」

 目の前で、勢いよくクライがそう言った。

 彼はいつの間にか、例のぐにょぐにょに座ったまま宙に浮いている。


「そっか。クライはライルさんの従者だったよね。でも、わたしには臣下とか従者とか分かんない。だからただ……仲良くなりたいな」

 わたしは笑って伝える。


「セリアは、やっぱりセリアだ。変わらないね」

 彼は小首をほんの少し傾け、嬉しそうに笑った。

「そうね。記憶がなくたって、ちっとも変わらない。それでこそ私が大好きなセリアよ」

 メルさんも笑っている。


「ごめんなさい。なんか……話ばっかりして、全然朝ご飯食べれないですね。ご飯、食べましょうか」

 わたしはなんだか恥ずかしくなって、慌ててそう言った。

「早く食べましょう。私、お腹ペコペコよ」

 メルさんが同意する。


「クライは? 食べないの?」

 わたしはクライに尋ねる。

「あ、オレは大丈夫なの。人じゃないから」

 彼は軽く返す。


「え!?」

 再び発したわたしの大声に、クライとメルさんは顔を見合わせる。

 2人とも何をそんなに驚いているのかわからない……と言った表情で。


 ……わたしがおかしいの?

 だってどこをどう見たって、クライって人にしか見えない。

 人じゃないとか、さらっと言われても全然理解できないし、信じられない……。


「人じゃないとダメ? 仲良くしてくれない?」

 クライが心配そうに言った。

「違うよ。そんなことない。吃驚しただけ。仲良く……してください」

 わたしは言った。

 わたしですらわたしじゃなかった。人にしか見えない人じゃない人(だから人じゃないんだけど。もう何言ってんだか分かんなくなってきた……。)が居たっておかしくはない。

 これまでの常識で考えちゃいけない……と思う。



 そして、ようやくメルさんと朝食を食べ始める。

 こちらの食べ物はよく分からないものもあったけど、見た目は普通の洋食だった。

 クリーム系の温かいスープ。パンは焼きたてだからか、日本で食べてたパンより弾力があり、もっちりとしていてすごく美味しかった。

 ただ、サラダの中に入っていたミニトマトを食べたら、ものすごく酸っぱくて吃驚してしまった。形や色がそっくりなだけで、全然違う食べ物らしい。ツナと言って(食べ物のツナって缶詰しか浮かばないんだけど)栽培が難しい貴重な果物だと、メルさんが教えてくれた。


 食後にいい香りのするお茶が出てきた。

「このお茶、美味しいです」

 わたしが言うと、

「スワリの葉っぱから作るのよ」

とメルさんが言った。

 やっぱり聞いたことのない植物の名前だった。

 でも、紅茶やハーブティのような感じで気持ちがとても落ち着いた。



「じゃあ、そろそろ私のリストの出番のようね」

 メルさんがそう言い終わると同時に、扉がノックされる。

 ライルさんだった。彼は一礼し、部屋に入ってくる。それはもう見計らったかのような絶妙なタイミングで。


「ライルさん、扉の近くに居たんですか?」

「いや。クライがお前の側に居れば、状況が分かる」

 そういえば、前にクライからも同じようなことを聞いた。

「話が長くなると思うから、ライルもクライも椅子に座って」

 メルさんは、わたしたちのやり取りを気にすることなくそう言った。


 広いテーブルだけど、クライは速攻でわたしの右横に、ライルさんはわたしの斜め向かいにそれぞれ座る。

 ライルさんは、呆れた表情でクライを見つめた。今の彼の瞳はエメラルド。どんな表情をしようと、とても綺麗。

 わたしはライルさんと視線が合いそうになり、慌てて目を逸らす。

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