DARK HERO 前編 ”蛍(正史)ルート”
*注 ここから先のお話は”第53話「与えられる?選択肢」”から分岐する”守居 蛍(正史)”ルート”です。
第54T話「DARK HERO」前編
ぼろぼろで構える俺の目前に木偶で聳える巨神……
右腕から肩までをあらぬ方向へ捲り上げられた無惨な右半身、
そして、さっきの俺の一撃で首にしこたま衝撃を受けて、どこか妙な角度にかしげられた顔面……と、蓄積されたダメージは俺の比じゃ無い。
「ガガ……ガ……」
虫の息の……
かつて”岩家 禮雄”という男だった瀕死の怪物。
「……」
俺は”死に体”の怪物を前にふと視線を守居 蛍に移していた。
自分がまいた種……
望んだこと……
けど、それと真逆の心との葛藤……
守居 蛍は”ずっと”そうして、苦しんで、だが結局、彼女は流されてしまって来たのだろう。
俺とは違った諦め……
けれどそれは俺とは違う……”足掻く”という希望。
「……」
――ああ、そうだ
相変わらず俺は役に立たない。
だが――
”巨人”はなんとかしてやれそうだ。
「……」
常に無力な”折山 朔太郎”の出来る数少ないこと。
蛍の失敗で具現化した”禍津神”は――
俺が無かったことにしてやれる!!
「……」
必然的に視界に入る、少し離れた位置で心配そうに俺を見つめる――
ショートボブが愛らしい美少女。
他人から見ると、なんとも無責任な約束をした俺を信じて疑わない少女。
「ウッ……ウガァァァァァァァァァァッッ!!!!」
そして、断末魔を先取りしたかのような怪物の咆哮に、俺は……
ザッ、ザッ、ザッ……
至極、普通に歩み寄る。
「い、いくら相手が瀕死だからって……あの怪物に無防備に歩み寄るって、それが当たり前に出来るなんてホントに朔ちゃんは化物……だよ」
俺の大胆な行動に、後方から波紫野 剣の呆れを通り越した驚嘆の声が聞こえてくる。
ザッ、ザッ……
そして俺は――
とうとう怪物の懐まで到達し、見上げるほどの巨躯の鍛えられし腹筋にそっと左手の掌を添えていた。
「……」
高さを揃えるように後方の虚空へ引き絞った右手の拳と――
対象に向け半身に開いた俺の身体。
極限まで引き絞った弓を引く様な構えから俺は……
「ほ、崩拳?確かにあの業なら確実に息の根を止められるだろう……けど」
そう言う波紫野 剣の頬をツゥっと冷や汗が伝っていた。
「本当に……殺すのね……朔太郎」
東外 真理奈がそれが表す意味を言葉にするが――
「……」
「……」
そこには最早、誰も異論を挟む者はいない。
――
行動目的は正しい。
しかし、手段は人道に悖る。
それを知って尚、他の誰もが”それ”しかこの馬鹿げた事件の終焉を望むことは出来ないと……
それを解決できる現状唯一の存在、折山 朔太郎はそれしか出来ない輩だと……
それが出来る人間が”他の誰か”だったなら、違う結果だったろうかと……
諦めている。
「ウゴォォーーッ!!」
突如!火の付いたように怒りのオーラを纏い、無事な左腕を天高く振り上げる巨人!!
「朔ちゃん!」
「朔太郎っ!!」
「逃げてっ!!」
これまでで――
巨人が所持する一撃の恐ろしさを散々に思い知る皆の心配を余所に俺は……
「……」
構わず腰を落とし拳を……
――蛍
不意に視界に入る少女の姿。
こんな状況で、
”殺られる前に殺る”
全くシンプルな状況のここにきて……
――
俺の意識は”殺し合い”以外のことに”ひっぱられ”ていた。
――”あのね……あの……もし……”
――今日は”おしまい”だけど、もしキミが……その……いつか……憶えていてくれたら……”
――”わたしは……”
――
過ぎ去りし過去で、俺は一目散に彼女のもとから走り去った。
――”その先”を聞くのが怖かった
俺は……
きっとその少女の想いには応えられない。
ずっと気になっていた、その少女に応えられない無力な自分を俺は……
――”普通に……生きたい……”
その……彼女の願いに、どうすることも出来ない俺自身を認めさせられるのが……
――怖かったんだっ!!
「…………くっ……そぉっ!!」
ダッ!!
瞬間、俺は構えていた拳を下ろして跳んでいた!
ただ闇雲に……
滅茶苦茶に……
そして無様に……
それは武術の匂いも、実戦の感覚も無縁な、唯々、不格好で無意味な跳躍……
「な、なん……それって!?」
「朔太郎、な、なにをっ!!」
「えっ!えっ!えぇーー!!」
剣に嬰美に真理奈、シリアスな展開から一転して驚愕し顔色を変える面々……
恐らく本日一番の、間抜け面の博覧会だ。
「ヴォォォッ!!」
そして、当然!この期を逃すまいと――
意味不明の行動で空中に浮いた無防備な体勢の俺に向けて唸る巨人の左鎚!!
ブォォォーーンッ!!
”死に体”とは言え――
左腕の桁違いな破壊力は健在!!
この状況は死に直結する愚行だ!
「……」
だが俺は……違う意味で”それどころ”じゃ無かった!
――どうだった?
――こう、こうか?……いや……たぶん、こう?
ズゴォォォォーーーー!!
幸運にも僅かに逸れた巨大な拳が俺の肩を紙一重ですり抜け!
シャツごと削ぎ取られた薄皮から鮮血が吹き出す!!
一瞬、キャーー!と観衆の悲鳴が飛び交うも、
――いや……こうだっ!!
奇跡的な運で九死に一生を得た当の本人は自身の生死に構うこと無く、
直撃を免れ宙に彷徨う自身の体を、巨大な力の奔流に翻弄されながらも、
驚異的な防御本能を以て空中で身体制御を回復させる!!
そして!!ガシッ!と――
「ヴォォッ!?」
巨拳を射出した直後で硬直する怪物の肩を蹴り、
ブワッ!
――その反動で逆方向の空中に踊る!!
「なっ!?」
「えっ!?」
「う、うそっ!?」
出鱈目に近い動きを見せる俺に、観衆が奇異な悲鳴をあげる中で――
ググ……
俺は空中で高々と右足を振り上げたのだ!
「……」
高々と天を指す俺の遙か足下には――
「さく……」
栗色のショートボブが愛らしい美少女の瞳が在った。
――
――これは世間で言うところの”三角飛び蹴り”
否、違う!
これは……俺の……
俺と彼女の出会いで俺が練習していた……
ブワッ!!
大げさ以外の何者でも無い!
必要以上に無理矢理に振り上げられた右足を、さらにさらに天に捧げる!!
「お……おおおおっ!!」
――あの時、遠離ってゆく俺の後ろで……
――”わたしだって……わたしだって普通に生きたい”
小さく零れた少女の言葉。
「おおおおおおおっ!!」
――彼女はきっと、俺が聴き取れていなかったと思っていただろう。
「おおおおおおおおっ!!」
――だけど!
――だけどあの時!
――俺は本当は……
ググッ!と足先まで感覚を研ぎ澄まし、渾身の力を込めて俺は思いをぶちまける!!
「ひっっさぁぁーつぅぅーー!!」
空中で、どう見ても無理な姿勢のまま、
俺は高らかに叫んでいた!!
「キィィング!カイザァァー!ブレイクゥ!クリムゾンン!ブラック・シュートォォォッッ!!」
同時に!思い切りに!怪物の脳天へとそれを振り下ろすっ!!
――――――ドカカァァッ!!
「ウッ……ガァァ!?」
滑稽で素っ頓狂な攻撃を受けた巨神は全く微動だにしない!
「ふ……くっ!」
――――――ドサァァ!
変わって俺は変な体勢のままで地面に落下した。
――
「は、はぁぁ??な、なんなんだよ……それ……朔ちゃん」
「うそ……でしょ……?」
「…………ば、ばか??」
六神道の――彼ら、彼女らの呆れ果てて放った感想はもっともだろう。
「う……ぐ……」
なんと言っても空中蹴りは”見てくれだけ”の技……
いや、見てくれもアレな……
カビの生えた作り物の子供騙し。
「……く……しこたま体を打った」
安っぽいテレビヒーローの必殺技だったのだから。
「……ふっ、半端が」
――だが、その場でただ独り
相変わらず遠くのベンチにふんぞり返った不遜な男だけが……
常に首から上に不機嫌を据え置いた様な、俺が唯一恐れる男のみが……
僅かに笑った様な気がしていた。
「あ、あんたねー!一体それはなんのつもりよっ!!」
直死の攻撃を幸運の極みで免れ千載一遇の機会を得ただろう男は、なんとも奇異な行動でそれを不意にした。
東外 真理奈が皆を代表してその場から一歩踏み出し、俺を問い糾そうとするのも至極当然な事だろう。
「ふふ……知らないの?」
――っ!?
だが、そのさらに後方から別の少女の声が……
「ふふふ、あれはね……」
何故か凄く愉しそうで、
それでいて――
垂れ目気味の大きな瞳を滲ませた、感極まった震える声で……
「あれはね……”正統派正義のダークヒーロー、キングカイザー”の必殺技だよ」
なんとも言えない懐かしい笑みを浮かべて、その美少女は自慢げに説明したのだった。
「キング……なに?」
「えと……子供の頃に流行ったヒーロキャラだったっけ?」
「じゃなくて、それがなんの関係が!?」
益々混乱する六神道の面々を余所に……
「ふふ……あはは」
頬にぽろぽろと溢れては零れ落ちる大粒の涙をそのままに微笑む彼女は――
「…………」
俺は地ベタからその少女を見上げて思う。
――その少女の大きめの潤んだ瞳は少し垂れぎみであり
そこから上目遣いに他人を伺う様子はなんとも男の保護的欲求がそそられる。
「ふふ、正統派なのにダークヒーローでぇ、赤なのに黒のキックでぇ……」
――ちょこんとした可愛らしい鼻と綻んだ桃の花のように淡い香りがしそうな優しい唇で
月と僅かな星の光を集めサラサラとゆれ輝く栗色の髪は毛先をカールさせたショートボブで、それが愛らしい容姿によく似合っている。
「”さくたろうくん”の大好きな、王様皇帝って理不尽なほど偉そうなお名前の英雄なんだよねぇ?」
誰の異論も挟む余地の無い美少女であろうが、どこか頼りなげな仕草と雰囲気から美女という表現よりも、可愛らしい少女の印象が一際強い……
「……」
――俺が昔、焦がれた少女
「さくたろうくんの憧れのヒーローが使う必殺技なんだよねぇ?ふふふ」
そう言って泣き笑いする少女は昔と同じで……
「……」
いや、記憶よりずっと……
「……ああ……そうだ」
魅力的だった。
――
「ウガッ……ガ……ガガ……」
だが、そんな感傷にいつまでも浸る暇など戦場には――
「さ、朔ちゃん!!後ろっ!?」
――ちっ!
「……だよなぁ」
ご都合主義の安映画じゃあるまいし、結局は”アレ”じゃあ決着はつかない。
ズザザァァーー!
俺は転がるように距離を保ち、即座に立ち上がって――
バシュゥゥッ!!
振り向きざまで、鼓膜を激しく叩く爆音と共に通り抜ける巨大な邪神の拳を捌いていた!
トンッ――
そして素早く低く地を蹴って、もと居た場所よりも更に近く――
巨躯の懐に入り込む!!
「とりあえず這い蹲っとけ」
――トンッ
「ウガァッ!!」
分厚い筋肉の装甲に包まれた邪神の腹に左手の掌を添え、
相手の腹部に宛がっただけの左手より自らの体を前に半歩ばかり前進させる俺。
――
正面から邪神とすれ違うような格好で、しかし左手のみは残したままで……
左手の中に重心を意識し、本身に遅れて進行方向やや下方に軽く押し出すっ!
ドシャァァァァッッーーーー!!
「なっ!?」
「うそっ!?」
結果――
雑な大砲を空振りしたばかりの巨大扇風機は、見事に後方へ九十度回転する形でひっくり返っていた。
第54T話「DARK HERO」前編 END




