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神がかり!  作者: ひろすけほー
90/101

未来へ 後編 ”嬰美ルート”END

挿絵(By みてみん)

第56E話「未来(さき)へ」後編


 「…………」


 ――


 「なんだ、あまり驚かないんだね(さく)ちゃん」


 姉の顔と俺の顔を交互に見て――


 面白く無さそうにそう言う(けん)を俺は仏頂面で睨む。


 「(ふすま)の外にちょっと前から人の気配があったからな、どうせこんなことだろうと」


 「はぁぁぁっーー、からかい甲斐が無いねぇ(さく)ちゃんは」


 俺の反応に何故か逆切れする波紫野(はしの) (けん)


 「ほっとけ」


 ――面倒臭い男だ、ほんと暇人だな


 「……あ、あの……さくたろう……」


 目の前の男を改めてそう認識した俺に、廊下から遠慮がちに声をかけてくる黒髪の美女。


 「じゃ、お邪魔虫はこれで……明日を楽しみにしておくよ!」


 そして、これを機とばかりに、そう軽口を言って消える黒髪美女の弟。


 間違い無く闘う事になるだろう明日の俺の対戦相手、波紫野(はしの) (けん)の去り際に見せた視線は――


 「……」


 姉想いの温和な言葉とは裏腹に、なんとも(たの)しげな”殺気”を孕んだ瞳だった。


 ――この戦闘狂め


 そして、それを見送る俺の口端も自然と上がる。


 ――


 「あの……さくたろう……」


 ――!?


 「あ、ああ……帝都から帰って来てたのか、明日だと聞いてたけど?」


 直ぐに殺気を抑え、気を取り直して俺は女性にそう応えた。


 「え、ええ、明日の”(とう)(じん)(さい)”が気になったから、ちょっとだけ予定を繰り上げて……さっき着いたばかりだけど」


 ひとつ学年が上の嬰美(えいみ)は去年、帝都の女子大に合格して既に上京していた。


 全寮制のお嬢様女子大に通う彼女が天都原(あまつはら)市に帰ってくるのは今年の盆以来だ。


 その前は……


 二人でW県に一泊旅行して、白黒の獣を観に行ったのが春の大型連休だったっけか?


 「あの……本当はね、明日の”(とう)(じん)(さい)”のことはあまり心配していないわ、朔太郎(さくたろう)は誰よりも強いもの」


 「?」


 「それよりも……あの……」


 ごにょごにょと言いにくそうに頬を赤らめる嬰美(えいみ)


 「帝都大合格おめでとう。その、それが言いたくて……あとね……」


 ――そんなのメールでもなんでも良いだろうに……


 けど、嬰美(えいみ)らしいと言えばらしい。


 「あと……あと!その……心配って言うか……」


 「心配?”(とう)(じん)(さい)”の事は心配してないんだろ?」


 ――なんだ?


 直接会うのは久しぶりとは言え、今更緊張する仲でもあるまいし。


 「その……それはつまり……帝大に合格して、残りの学園生活もあと少しだけど……朔太郎(さくたろう)はその……真面目にさえしていれば運動神経も良いし、春から帝都大生だし、もともと見た目も……か、格好良いし……あの……」


 朱を帯びた頬でモジモジとしながら俺をチラチラ上目遣いに言葉を繋げる嬰美(えいみ)


 「そ、それに、意外と女性の扱いも馴れているし……だからちょっと!ホントにちょっとだけなんだけど……心配って言うか……」


 「…………」


 ――なるほど……そういうことか


 要は親父さんに出された条件を全てクリアして余裕の出た俺が浮気しないか……と。


 しかし、それは杞憂だぞ嬰美(えいみ)……


 俺はそんな器用じゃ無いし、多分、そんな甲斐性も無い。


 そういう風に、ある意味で男として情けない評価を自身に下しながらも――


 だが、それでも俺の事を想ってくれる相手に俺も実は悪い気がしなかった。



 「そうか?確かに俺は女の扱いはそれなりだが、それは”一世会(いっせいかい)”の頃に培った営業技術の(たまもの)って言うか、その時の名残だしな。部活や学業に真面目に取り組んだのも全部、”嬰美(おまえ)の為”だし……まぁ、顔の方はよくわからんが?」


 正直に答える俺に、目の前の嬰美(えいみ)の顔は見る見る朱く染まっていった。


 「うぅっ……そういうことハッキリ言うわよね、朔太郎(さくたろう)って……」


 そして、嬉しそうに見えなくも無いが――


 多分、それよりも照れくさい方が勝った彼女は顔を伏せる。


 ――まぁな……


 俺の性格は今更変えようが無いが、彼女にだけ心の内を吐露させて俺だけ余裕綽々ってのは正直公平性に欠けるだろう。


 俺は煙が出そうなほど上気した顔の嬰美(えいみ)を見ながらそう思った。



 「大体なぁ、それを言うなら嬰美(えいみ)だ」


 「?」


 「だ・か・らぁ、美人で頼れるお前は学園にいた時から男子生徒のみならず全生徒に絶大な人気があったろう?それが最近、帝都に行ってからより大人っぽくなったお前に、普段目の届かない俺は気が気じゃないぞ」


 「え……と?……それって……」


 黒髪美人で絵に描いたような大和撫子の波紫野(はしの) 嬰美(えいみ)


 学園在籍中も絶大な人気があったが、持ち前の正義感と凜としたイメージから近寄りがたいところもあった。


 だが、俺と付き合うようになってから、なんというか、融通が利くようになったと言うか、物腰とか雰囲気が柔らかくなって……


 つまり、その人気は俺なんかの比じゃ無かった。


 実際、学園では俺はかなり”やっかまれた”ものだった。



 「あの……わ、私……朔太郎(さくたろう)がそう言うこと言うって……言ってくれるって思わなかったから……だから……」


 嬰美(えいみ)は白い頬を相変わらず上気させたままだが、恥ずかしがって伏せがちだった瞳を俺にしっかりと向け、少しだけ滲んだ黒い宝石を輝かせてニッコリと微笑(わら)う。


 「ま、まぁな……なんにしても明日だ。しっかり決めないと親父さんにどやされるからな」


 真っ直ぐすぎる嬰美(えいみ)の瞳に、俺は照れもあって視線を逸らしがちに話題も逸らす。


 「ふふふ……そうね。最初は何処の馬の骨ともしれぬ若造が!って、怒鳴られてばっかりだったものね」


 「ああ、あの頃の事はあんまり思い出したくないが……そうだな。けど、それは現在(いま)も同じようなもんだぞ?最近は毎度毎度、晩酌に呼び出されては何時間も説教と愚痴を言われ絡まれる始末だ」


 俺は態と大袈裟に両手を挙げて困った風を装うも――


 「ふふ、それはお父様が朔太郎(さくたろう)に心を開いている証拠よ、貴方を認めているの。”ああいう男は滅多にいないから絶対逃すな”って言われてるもの」


 「…………………………マジ?」


 紅い唇に白い手を当てながらコロコロと笑う嬰美(えいみ)の言葉に、俺はキョトンとなる。


 「ええ……マジ」


 そして彼女は俺を真似てそう答えてから、また笑った。


 「そ、そうか……」


 予期せぬ真実に俺は少し狼狽えながらも、彼女の柔らかい視線の中で”ふぅ”と一息ついた。


 「せっかくだし……これからどっか飯でも行くか?」


 なにが”せっかく”なのか?


 俺は自身に心の中でツッコミながらも、そう言って立ち上がる。


 「うん」


 そして嬰美(えいみ)は、そんなスマートとは程遠い俺のお誘いに即答する。


 ――っ!


 立ち上がった俺は……その後、手に握ったチケットに気づく。


 「ああ、そうだ。飯の後に……なんていったっけ?怪物がわさわさ出て来て、主人公が矢鱈滅多等(やたらめったら)と素人臭い殺陣(たて)で剣を振り回す映画のチケット……そんなのあるけど、それも一緒に行くか?」


 「…………」


 黒い瞳を丸くして俺の顔をマジマジと凝視する嬰美(えいみ)


 「どうした?」


 「朔太郎(さくたろう)からそういうのって、珍しいかなって……」


 なんだか聞こえにくい声でボソボソと呟く嬰美(えいみ)


 「ん?」


 聞き取りづらい彼女の呟きを受けて、再び彼女を見たときには――


 「ううん、女の子を誘うのにその説明はってね……」


 彼女は”仕方無いなぁ”と笑っていた。


 「…………」


 ――確かに……ちょっとな……


 尤もな事を指摘され、そして照れ臭さも重なって、俺は若干乱暴に聞き返す。


 「そうか……で、行きやがるか?」


 「うん、行きやがる!」


 そして嬰美(えいみ)はまたも俺の口調を真似てから、嬉しそうに微笑んだのだった。


 ――


 俺の最初は六花(むつのはな)事件。


 そして前の六神道(ろくしんどう)事件。


 思えば、俺の人生は――


 ”神がかり的な”なにかに翻弄されっぱなしの人生だったのかもしれない。



 だが、よくよく考えると”神がかり的な”なにかなんて……


 事の大小はあるにせよ、日常に溢れた、ごくありふれた出来事なのかもとも、現在(いま)は思う。


 「……」


 いや、それよりも――


 そんなことよりも、なによりも――



 こんな俺に……


 手を差し伸べてくれた嬰美(えいみ)という少女との出会い。


 そして、紆余曲折したとはいえ、その手を掴むことが出来た……俺の変革。


 俺にはきっとそれこそが、”神がかり的な”なにかだったのだろうと……


 ――


 「朔太郎(さくたろう)っ!早く!!お父様が映画に一緒に行くって言い出して!早く勝手口から……」


 ――は?


 思わず感傷に浸っていた俺はその声に素に戻る!


 「うっ、うぉぉっ!逃げるぞ嬰美(えいみ)!!」


 俺は嬰美(えいみ)の手を掴んで走り出していた。



 「さ、朔太郎(さくたろう)くん!!待ちたまえ!(わし)とて久しぶりの娘なんだぁっ!!ここは三人でっ!おじさんと一緒だと”シニア割引”もあるぞぉぉっ!!」


 直ぐ近くで親父の悲痛な声が響く!


 「朔太郎(さくたろう)、早く!!お父様、腕も立つけど足も速いからっ!」


 「ちっ!なんでこんなことに…………くっ!くだらねぇぇーーーー!!」


第56E話「未来(さき)へ」後編 END


「神がかり!」嬰美(えいみ)ルート END 


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