表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神がかり!  作者: ひろすけほー
89/101

未来へ 前編 ”嬰美ルート”

挿絵(By みてみん)

第56E話「未来(さき)へ」前編


 「それにしても久しぶりだねぇ、楽しみだよ」


 そう言って俺の目前の男は軽薄に笑った。


 「(さく)ちゃんとは何回か手合わせしてきたけど、真剣勝負はいつ以来だったっけ?」


 俺の冷ややかな視線をものともせず、会話を続ける男……


 ――波紫野(はしの) (けん)



 ここは俺の部屋……


 もとい、波紫野(はしの)家のお屋敷で”俺用”に提供された一室だ。


 「直近は三ヶ月前に鉄朗(てつろう)さんの前で試合(しあ)った時だ。一番古いのは……お前が手の平を返したように俺を避けだした二年前か?」


 「二年前、(さく)ちゃんが道場(ウチ)に来た時だね」


 仕方無く応じる俺の言葉に、その時の事を思い出したのか苦笑いを浮かべながら(けん)はなにか細長い紙切れを差し出してくる。


 「なんだ?これは」


 「いや、ね……でもあれは、あの時はさぁ?俺だって六神道(ろくしんどう)の為に戦ってくれた(さく)ちゃんにお礼の一つでもって思ってたよ当然、だけど嬰美(えいみ)ちゃんからねぇ……」


 確認する俺の言葉を無視し、ひとつ前の俺の言葉に苦笑いのまま答える(けん)は、紙切れを俺の鼻先に差し出したままだ。


 「”取りあえず朔太郎(さくたろう)の事は私に任せて欲しい”って頼まれてたからなぁ……てか、意外に根に持つねぇ、(さく)ちゃん」


 「…………」


 ――意外に?


 俺は別になんとも思っていない……(おまえ)の適当な行動なんてな。


 「ああ、これ?”これ”は映画のペアチケットだよ」


 無言の俺の冷ややかな視線にいまさらながら気づいたのか、(けん)は俺の鼻先に差し出したままの紙切れをピラピラとさせた。


 「……」


 微妙に噛み合わないやり取り。


 いや、それも波紫野 剣(こいつ)の会話術か。


 俺は眉間に皺をつくりながらも、その”ペアチケット”なる物を受け取った。


 「別に俺は”六神道(そんなもの)”の為に戦った訳じゃ無いし、別にお前からの礼なんて期待しても無かったけどな」


 半ば無理矢理押しつけられたチケットは……


 昨今、流行(はやり)の魔法ファンタジー系映画の鑑賞券だった。


 ――確か……


 ――”ハリス=ポーター・ザ・グレイト”?


 地味眼鏡にムキムキの筋肉がミスマッチの外国俳優が、剣と魔法の世界で怪物や荒くれ者たちを相手に大暴れするという、


 なんとも破天荒()つB級臭ただよう代物だが……


 信じがたいことに特撮が神レベル!とか、


 全世界が泣いた!とか、


 評価は中々に上々らしい。



 「あっ!?もしかして恋愛映画の方が良かったかな?(さく)ちゃん的には雰囲気(ムード)づくりをしてその後に……ムフフってね?」


 ――ムフフって、お前……


 カビの生えた表現を。


 俺の手中にある二枚の紙切れ、それとぶっきらぼうに睨めっこする俺を眺めながら、(けん)はわざとらしく”気が利かなくて悪いね”という仕草を見せていた。


 「……」


 そもそも”これ”は、俺が()(いつ)にお使いを頼んだ結果だ。


 デートに適した映画なんて俺にはさっぱりだから、金だけ渡して”女たらし”の(こいつ)に任せてみたのだったが……


 それが運の尽きか。


 「変えてこようか?今ならたしか……”歯科医院の中心で愛を叫びまくる”ってのが上映してたような?」


 「迷惑な主人公だなっ!」


 というか、波紫野 剣(このおとこ)はいつも確信犯だ。


 それが言いたいが為に、この映画を選択(チョイス)したのか……


 まぁ、こういうお使いを(こいつ)に頼む俺も俺だが……


 俺は波紫野(はしの) (けん)という男の、このなんともブレない悪趣味で暇人さ加減に呆れていた。



 ――二年前の嬰美(えいみ)との体育館対決の後


 ほどなく俺は六神道(ろくしんどう)のひとつ、波紫野(はしの)家の屋敷に居候となった。



 一世会(いっせいかい)から抜けた俺に、いまさら特に行き先が無かったとも言うのもあるが主たる理由は他にあった。


 「大体ねぇ、(さく)ちゃんも嬰美(えいみ)ちゃんと両親公認で付き合いだして二年も経つわけだし、現在(いま)はこの波紫野(はしの)の門下生なんだから……”六神道(そんなもの)”という表現はないと思うよ?」


 「そうか?俺は別に……」


 「あのね、波紫野(はしの)流剣術の門下で、今となってはその師範代のひとりで、将来は嬰美(えいみ)ちゃんを(めと)って波紫野(はしの)の家を継ぐ次期当主って自覚ある?」


 面倒臭そうに適当に返事する俺に、今度は波紫野(はしの) (けん)が呆れた顔で聞き返してくる。


 「俺は別に当主になんて興味は無いぞ、それは波紫野(はしの)の長男であるお前が……」


 「真剣(マジ)で言ってるのかい?じゃあ(さく)ちゃんは明日の”(とう)(じん)(さい)”でも俺に勝ちを譲ると?」



 ――刀剣を司る神、”不刀主神(ふとぬし)”を奉る(とう)(じん)(さい)


 天都原(あまつはら)市で年に一度行われる祭りのひとつで、”不刀主神(ふとぬし)”が氏神の六神道(ろくしんどう)波紫野(はしの)家が中心に執り行う行事だ。


 そして、その祭りの儀式のひとつにトーナメント形式で剣技を競う大会があった。



 「いや、”刀刃祭(あれ)”の優勝は嬰美(えいみ)と正式に付き合う条件のひとつだろ?」


 そうだ、二年前……


 俺は波紫野(はしの)家当主、つまり嬰美(えいみ)の父親に、彼女と付き合うにあたって条件を出された。


 その条件とは……


 ひとつ……天都原(あまつはら)学園に残り、成績トップになり、それを卒業まで維持(キープ)すること。


 ふたつ……波紫野(はしの)家の道場に入門し、住み込みで下っ端から精進すること。


 みっつ……二年後、つまり俺が学園を卒業する前に、当主である波紫野(はしの) 鉄朗(てつろう)の前で行われる最高の剣士を競う大会、”(とう)(じん)(さい)”で俺が優勝すること。


 以上、この三つだ。


 ――で、


 最後の条件である”(とう)(じん)(さい)”が明日行われ、俺の最大の相手は確実にこの波紫野(はしの) (けん)になると……そういう事だった。


 「あのねぇ、正式に嬰美(えいみ)ちゃんと付き合う条件って……つまり、そう言う事だよ」


 当然でしょ?と言う表情(かお)(けん)は再び呆れ顔を俺に向けた。


 「…………」


 俺は黙ったままだ。


 ――なるほど……確かに……


 正式に付き合う条件と言われながらも実際、俺は既に嬰美(えいみ)と付き合っている。


 だとしたらこれは……


 つまり、この先も”そうできる”ための条件とも言える訳か。



 「(さく)ちゃんは頭が良いからもう大学は決まってるだろ?確か”帝大”だってね、凄いね、この国で最高峰の大学に現役合格なんて」


 ――いや、そもそもそれも一年ほど前に……


 波紫野(はしの)家の当主である鉄朗(てつろう)さんに急に呼び出されて、散々晩酌に付き合わされた挙げ句に……


 ”おい朔太郎(さくたろう)くん!嬰美(えいみ)と釣り合う男の最低条件は帝大合格ぐらいで無いとな?な?なぁっ!”


 ――てな具合に言われたわけで……



 「ああ!そういえば(さく)ちゃんって二年の時、一時的に剣道部に入部して全国大会で優勝もしたよね」


 ――いや、それも……な……


 ”おい朔太郎(さくたろう)くん!嬰美(えいみ)と釣り合う男の最低条件は剣道で高校日本一ぐらいで無いとな?な?なぁっ!


 ――とか…………って?


 ――あの親父っ!!


 ――なんだかんだで”条件”足していってんじゃねぇかっ!!


 「…………くっ」


 と、今頃気づく俺も俺だが……



 「ふーーん、なるほどねぇ」


 気がつくと目の前にはニヤけ顔の(けん)が俺の顔をマジマジと眺めていた。


 「な、なんだよ」


 「いやいや別にぃ?……で、嬰美(えいみ)ちゃんとこの先のご予定は?」


 「……」


 「考えてんだよね?」


 「…………ま、まぁな」


 渋々答えた俺の顔を、(こいつ)らしくない意外な真顔でもう一度確認してくる――


 ガラッ!


 「だそうだよ?嬰美(えいみ)ちゃん!よかったねぇ!」


 (けん)はおもむろに立ち上がり、部屋の引き戸を勢いよく開けたのだった。


 「…………」


 「…………」


 そこには、長く美しい髪の……


 上品な白いブラウスにマキシスカート姿の、いかにも”お嬢様”という、黒髪の美女が立っていた。


 「…………え……と」


 透き通るような白い肌の頬を少し朱に染めて、どこか所在なさげに佇む黒髪の美女。


 如何(いか)なる時も凜とした立ち居振る舞いの、俺が知る彼女とは少し勝手が違う様子の……


 結構久しぶりに会う、波紫野(はしの) 嬰美(えいみ)の姿がそこにあったのだった。


第56E話「未来(さき)へ」前編 END

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ