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神がかり!  作者: ひろすけほー
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折山 朔太郎 後編

挿絵(By みてみん)

第51話「折山(おりやま) 朔太郎(さくたろう)」後編


 「”巻き尺”ってぇのはな……」


 何故かどや顔の森永が説明を始める。


 「相手の腕をとって逆関節を()め小指を折る!わかるかぁ?お嬢ちゃんお坊ちゃん達、小指ってのはなぁ、五指の中で一番脆いくせに折れると拳……いや腕全体の力がなぁ、フニャッと抜けるんだよなぁ」


 「……」


 取りあえず”お嬢ちゃん、お坊ちゃんたち”という嘲りの言葉を流して黙って聞く六神道(ろくしんどう)波紫野(はしの) (けん)


 「でだ!力が抜けた腕の関節をテメエの脇に巻き込んで!引き倒して!肘関節を逆方向に折るっ!!」


 ”折るっ!”と叫んだ箇所でビシリと自身の二つの腕を交差させ、なにやら謎な表現をする小太り男。


 「……なるほど」


 ――今回の場合は相手があんな化物だから……


 引き倒すと言うより、(さく)ちゃん自身がへし折った腕ごと上に跳んで巻き上がり巨神は崩れ落ちるという形になったのか。


 森永の下手な説明にも聡い波紫野(はしの) (けん)は自身の中で修正を加えつつ理解する。


 「さ・ら・に・だっ!折れた腕を咄嗟に引き下げて引っこ抜き!それを今度は逆にかち上げて肩関節壊して半身を完全に殺す!」


 「……」


 ――つまり、相手の腕を取ってから


 指→腕→肩と巻き込むように連続した攻撃を加えて完全破壊する!


 ――なんて物騒な技なんだい、(さく)ちゃん


 波紫野(はしの) (けん)は目の前で起こった出来事を完全に理解し、そして改めて恐怖していた。


 「ああやって”半殺し”にするさまからなぁ、闇世界(オレら)の間じゃ(さく)のアレは”巻き尺”と呼ばれて恐れられてんだぁよっ!」


 イキりまくる森永に対し、言葉無く静まりかえるその場。


 これまでの交流から、朔太郎(さくたろう)を知った、感じた六神道(ろくしんどう)の者たちは……


 波紫野(はしの) 嬰美(えいみ)は……


 東外(とが) 真理奈(まりな)は……


 永伏(ながふし) 剛士(たけし)は……


 そして、波紫野(はしの) (けん)は……


 それが彼を知った”つもり”であっただけだと根本から思い知らされる。


 ――


 ズズゥゥーーーーンッッ!!


 大地が揺れ巨神が地に(まみ)れる音が聞こえる。


 見るも無残、手法は残酷極まる!


 幾重にも重ねた凶悪な技を次々と連係させ”ぐるぐる”と相手を巻き取る様はまさしく”地獄の巻き尺”だ。


 シンプルな名付けだけにその凄絶な連続技は、確かに殺人(わざ)としか表現できない恐ろしいものだった。


 「ふふ」


 そして折山(おりやま) 朔太郎(さくたろう)に接触した六神道(ろくしんどう)で唯ひとり……


 「……」


 椎葉(しいば) 凛子(りんこ)だけが、



 ――折山 朔太郎(オレ)という男の本質を見抜いていたのだろう



 「すっごいわぁぁっ!やーっぱりねぇ!朔太郎(さくたろう)くん、ふふ……ふふふ」


 瞳をウルウルと潤ませていた。


 「因みにあれはなぁ!(さく)の野郎のオリジナル殺人(わざ)だぁぁ!!」


 森永のどや顔もすっかり誰も気にしなくなってしまうほどの衝撃の光景。


 ――


 「ヴォ……ヴォ……」


 「……」


 俺は屈した邪神の巨体を見下ろしながら――


 「岩家(いわいえ)……いや、(いにしえ)の邪神”禍津神(まがつかみ)”っていったか」


 告げる。


 「ヴゥ……ヴォォッ!!」


 土塊に(まみ)れさせていた顔面を無理矢理に持ち上げ!


 革ベルトで塞がれている視認できない眼を俺に向けただろう(いにしえ)の邪神は――


 「何度目だ?神様、”人間如き”に(ひざまず)かされるのは?」


 折山 朔太郎(オレ)の口元は自然と歪んで上がる。


 ――ああ……


 「ヴォ……ヴォ……ヴォ」


 俺を見上げ口惜しそうに唸る邪神。


 ――これじゃ、また(かおる)さんに……


 ”西島(にしじま) (かおる)”にどやされる。


 ――”油断してんじゃねぇよ!このガキ!”って……


 「……」


 ――だが俺は……


 俺の口元が緩むのを抑えられない。



 「しっ!信じられるかっ!!ウソだっ!あり得るわけがないっ!禍津神(まがつかみ)を人間如きがっ!……こんな圧倒的に制圧するなんて!!ウソだぁぁっ!!」


 御端(みはし) 來斗(らいと)は取り乱し、他の六神道(ろくしんどう)の面々も立場は全くの逆ではあるが――


 奴の言葉と同じような感想だと顔に書いてあった。


 「……」


 ――まぁなぁ……


 圧倒的かと言われれば”(いな)”である。


 現に俺は満身創痍で、いつ死んでもおかしくない闘いをしているのだ。


 ――だが……


 人間(ひと)人間(ひと)(わざ)のみで神を転がす。


 そんな天変地異があり得るのか?


 と聞かれれば……


 折山 朔太郎(オレ)はこう答えるだろう。


 ――”(しかり)”だ!


 「神?何言ってんだ?あのな、世界チャンピオンだろうと大統領だろうと、いいや王様か?挙げ句は神様ねえ?そんな”肩書き”が場末の喧嘩に関係あるかよ」


 ――っ!!


 そこにいる全員が俺を見る。


 ”暴力(それ)”しかできない、どうしようも無いクズの折山(おりやま) 朔太郎(さくたろう)を奇異な目で注目する。



 「さく……たろうくん」


 そして――


 そんな中、(くだん)の美少女は俺の名を呼んだ。


 「……」


 ――ああ、もうすぐだ


 もうすぐ約束は果たせる。



 俺はその結果に……顛末に……


 その時、幾分かの寂しさを感じていたのかもしれない。



 「ふん、アレが折山(おりやま) 朔太郎(さくたろう)って半端なガキだ」


 西島(にしじま) (かおる)が不機嫌そうなへの字口の端を上げ珍しく上機嫌そうに呟いた。



 「ヴォォォォッーーーーーーーーッッ!!」


 そんな状況に一番納得いってないだろう化物――


 こんな幕引きはあり得ないと!往生際の悪い巨神の荒れ狂う咆哮が響いたのだった。


 「ひぃっ!」


 「きゃっ!」


 「くっ……」


 ビリビリと大気を震撼させる禍津神(まがつかみ)の怒り!


 古神(いにしえがみ)はそれでも人間(ひと)にとって絶望と畏怖の対象でそこに存在していた!


 ――


 まぁ、ちっぽけな人間にとって神なんて過ぎた存在はそうだろう。


 「そう(わめ)くなって化物。俺はな、昔から……」


 他の者達の反応を納得しながらも俺には違った。


 「神様、アンタらが大嫌いなんだよ!」


第51話「折山(おりやま) 朔太郎(さくたろう)」後編 END

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