俺の得意分野だ! 後編
第49話「俺の得意分野だ!」後編
「剣、真理奈!そんなことより避けてっ!」
ドカァァァーーー!!
「うわっ!」
「ひぃっ!」
鉄拳により地響きが起こり抉れた地面から砂煙が舞う!
――
「…………おお、向こうは中々の阿鼻叫喚だな」
巨人活性化の原因を棚上げした俺の言葉に蛍は浮かない表情で……
「……」
俺は蛍に再び近づき――
「それより、お前も色々と誤解解けよ?」
態とガラリと雰囲気を明るく変えて言った。
「!?」
突然の切り口に驚く蛍。
「嬰美とは友達なんだろ?お前、岩家利用していたっていっても御端があんな事考えてるって思ってなかったろうし、だから嬰美に助けを求めて……」
「なんで……そんなこと……」
「俺とお前はすごく似ているんだ……多分な」
「に……てる?」
蛍はゆっくりと瞳を俺の顔に向けて上げる。
――この期に及んで気づかないか、まったく困ったお嬢さんだ
「そもそも、なんで”蛍雪の会”なんてものを創ったんだ?他人に関わられるのをあんなに……岩家を使ってまで、あんな手段を使ってまで拒んでいたのに?」
「そ、それは……」
途端に言葉に詰まる蛍。
「過去の事が露見するのをそんなに警戒して、だから他人を寄せ付けないよう、変な噂が立つように岩家を利用して……学校で孤立してまでそれに注意していたのに一方では何故そんな目立つことを?」
「だから、そ、それは……」
――いや、解ってるんだ
俺は理解している……痛いほどに。
「お前、本当は過去を切りたく無かったんだろ?」
「!?」
「正確には両親とか、過去の思い出とか……」
「さくたろうくんっ!?」
行き成り核心を突かれ、待ったをかけようとする蛍を制して俺はそのまま続ける。
「別におかしな事じゃ無いだろ?俺達のような人生でも、過去が全て隈無く悪い思い出ばかりって訳じゃ無い。最低の両親でも、環境でも……僅かでも……確かに……大切なものはあった……」
言っていて自分でも苦しくなるが――
「さ、さく……たろ……わたし……」
蛍は驚きを隠せないままだ。
実はもっと別の感情が入り乱れているのか?そこまでは解らないが……
いつの間にか華奢な白い両手を震えさせて俺のシャツの胸元を掴んでいた。
「そ、そんなこと言える立場じゃ無い……だって、わたしは……私のせいで……いろんなひとが、朔太郎くんの家庭だって……」
手だけじゃ無い……声も……
全身が弱々しく震える少女。
――まぁ実際、今日はもういっぱいいっぱいだろう
「俺はな、蛍」
色々とぶちまけ合ったことで現在は素直に俺に頼る蛍……
だからこそ俺は今日話さなくてはならないだろう。
「俺は……親の借金踏み倒しても大丈夫だったんだ」
「……え?」
急に俺の話に変わり、少女は呆気にとられる。
「当時の俺は子供だったし、そもそも闇金だし……弁護士やらなんやら、方法はいくらでもあった。闇金やヤクザだって、たかだか数百万の借金回収のためにそんな危ない橋を渡らないって、子供ながらに知ってた」
「でも……キミは今も……」
俺は自分でも驚くほど穏やかな視線を彼女に返す。
「っ!?も、もしかして……朔太郎くん……も?」
――
そしてどうやら彼女の思考もそこに行き着いたようだ。
俺は蛍の瞳を捉えたままゆっくりと頷く。
「ああ、同じだ」
そう……
俺は――俺たちは――
”切り”たくなかったのだ。
たとえどうしようも無いクズ親でも……
毎日執拗に痛めつけられ、いつも殺してやりたいと思っていた親でも……
――悪いことばかりじゃないときも
確かな時間もあったはずだから……
唯一の確かな時間
――だから借金なんて”歪な鎖”でも俺は……
――しがみついていたかった!
「それに気づこうとしなかった。認めずに、ただの悲劇の主人公を気取って、自分のプライドを保とうとしていた。俺にそれを気づかせてくれたのは……蛍だろ?」
「朔太郎……くん」
言葉にならない感情を溢れさせる彼女の双瞳。
「まあ……な?正直言えば、俺より不器用な”馬鹿”がこんなところに居てくれたお陰だけどな」
俺はそれをあえて茶化してやり過ごす。
「なっ!?」
そして俺は蛍の反応を愉しんでいた。
「ひどいよ!どっちが不器用だよ!馬鹿だよ!朔太郎より馬鹿がいるはず無いよ!朔太郎くんはキングオブ馬鹿だよっ!」
「キング……馬鹿……酷いな」
言うに事欠いて……
なかなかだ六花……いや、守居 蛍。
「馬鹿だよ、ばか……こんな事のために……こんな私のために……そんな大怪我までして……大馬鹿だよ」
大きな瞳に溢れる涙に俺は困って苦笑いを返すのみだ。
「そ、そうか?一年程前に、目立ちたくないくせに怪我人を見捨てられなくて、大勢の生徒の前で能力を使った……結果、学生連にも目を付けられたっていう、どこかの誰かとどっこいだろ?」
「……」
またもや俯く蛍。
「朔太郎くんは……私のこと、何でもお見通しなんだね」
蛍はそのまま静かにそう呟いていた。
「どうだかな?けど……そうだとしたら”似てる”からだろう」
そしてもう一度その言葉。
「うん、似てる……ね」
そして今度は彼女も柔らかに同意する。
――そして
”すぅっ”とひと呼吸、再び顔を上げた少女は……
変わって真剣な顔つきになっていた。
「エイミちゃんと仲直りしたい。けど、今はまずちゃんと責任取らないと……朔太郎くん、わたしどうしたら取り戻せる?」
――これでいい
だから俺は……
「知らない。俺はそういうことから背を向けてきたからな」
俺は素っ気なく返す。
それが事実だし、その点で実際に俺は無力だからだ。
「ふふ、ごめんね。変な事聞いて……自分で考えなきゃ駄目だよね」
そんな相変わらず片手落ちな俺に安心したかのように微笑んだ蛍は、それでも彼女なりになにかを必死に、打開策を模索している様子だった。
「……」
――多分、現在までもそうしていた……んだ
自分が撒いた種。
確かに望んだこと……けど、それと常に在った真逆の心との葛藤。
蛍はずっとそうして苦しんで、でも結局、彼女は流されてしまっていた。
俺とは違った諦め……
でもそれは俺とは違う……”足掻く”という希望への渇望だった。
「……」
絶望だろうが希望だろうが……
――箱は開けなければ始まらない
「そうだな……」
そして相変わらず肝心な時に俺は役に立たない。
――けど
――けどな
”巨人”は……あの怪物は……
「蛍、俺は相変わらず無力だ。だがな、あの”禍津神”とやらだけは、なんとかしてやれそうだ」
「え?」
無能で無力な折山 朔太郎の出来る数少ない事。
――守居 蛍の渇望した未来への失敗が具現化した姿であるだろう……
”禍津神”は無かったことにしてやれるっ!!
――都合の悪いことは無かったことに!
自分の手に余ると判断した物事には距離を置き、無視したり無かったことにしてきた常習犯のクズ野郎である俺には、ああいう”|不都合の産物である怪物”を理不尽な暴力で根こそぎ無かったことにするという愚行は寧ろ……
――得意分野だ!
「さくた……ろうくん?」
とはいえ、相手は見たことも無いレベルの化物だ。
それでも俺は根拠の無い約束を自信満々でしている。
「……」
驚いて瞳を丸くさせている蛍を後目に、俺は自身の身体を確認する。
――足と肩の穴は塞がって繋がった
――骨も筋も、外れた関節も、この状態でも応急的には有りだろう
俺は肘を曲げたり、屈伸したり、拳をニギニギしてみる。
「っ!」
相変わらず激しい熱と痛みはあるし、感覚も完全では無いが……
――動く……なら俺には問題ない
「だから、さくたろ……」
「なに一つ問題ないな。俺に任せておけよ、俺の得意分野だ」
そう言って俺は少女に親指を立てていた。
「…………あ、ははっ」
他人から見るとなんとも無責任な約束をする俺を見て……
「ははは……やっぱすごいね、朔太郎くんは。”いつも”頼りになるね」
最初は戸惑っていた守居 蛍も最後は瞳を細めて微笑っていたのだった。
第49話「俺の得意分野だ!」後編 END




