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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

歯磨き粉を飲み込んでしまう

作者: 朝比奈

クレヨン

丸い時計の中の黒く短い針が「4」を少しすぎた頃。また恒例のアレが始まった。僕は大人しくじっと小さい体を丸め、母がこちらへ近づいて来るのを。ただじっと見送っていた。

ーー

お弁当をみんなでテーブルを寄せ合って食べていた時、リュウはプラレール(鉄道玩具)で遊ぶ事を楽しみにしていた。昨日の休みの日にお父さんとお出かけする際に乗った近鉄五万系に影響されたのだ。機体の正面像、デザインに内装、そしてなにより、しまかぜから見た外の景色はとても素晴らしく、綺麗なものだった。

父親はいつも家には殆どいなく、月に三、四回くらいしか顔を見ない。母親曰く、僕が幼稚園から帰ってくる前に職場へ向かい、僕が寝ている間に働き続けているという。向こうで泊まり込みもするからあまり家に帰ることは少ないらしい。だから疲れて帰ってきた時は「おかえり」って抱きしめてあげなさい。とそういわれた。


お昼ご飯を食べ終えると、いつもの歯磨き。この教室に蛇口は三つしかないからみんな食べ終わった順に交互に磨いていく。

僕は食べ物をよく噛んでから飲み込んで、という動作を繰り返し、箱の中身が空っぽになったら「ごちそうさまでした」と手を合わせて、お弁当を鞄にしまった。歯ブラシを持って洗面所に向かう途中。みんなの食べるおにぎり、ウィンナーやブロッコリーなどの匂い、汚い咀嚼音を聞いていると気持ち悪くなって吐きそうになった。


今日はブツブツ達がいつもに増して痒い。

利き手とは逆の所に位置しているから力が入りにくい。怠い。


遊び場の方へ行くと、僕よりも先に食べて、歯も磨きも終えたヤマトがプラレールで遊んでいた。

一緒に遊ぼうとヤマトに近づき

「それ、かして」と言ってみる。

ヤマトは僕の顔を見て「やだ。」と言い放ち体の向きをを元に戻してまた遊び始めた。

僕はなんだか悲しい気持ちになった。

心臓らへんにある細胞がこんがらってぐちゃぐちゃになって端っこ同士を引っ張って丸い結び目ができてしまうような気持ちになった。

胸が痛く、体の内側が引き締められるような感覚に襲われた。

「おねがい、かして」

僕は不器用にもう一度頼む。

「だから、やだって言ってるじゃん!」

そう大きな声で言われた僕はどこかの糸が切れたような気がしたと同時に『欲しいものがあれば自分のものにすればいい。もしとられたなら力尽くで奪えばいい。』

そんな母の言葉を思い出した。


僕はそれを実行しようと試みる。背を向けたヤマトの後ろ襟を引っ張って首を苦しめてみた。ヤマトは咄嗟に立ち上がり僕の髪を思いっきり引っ張ってきた。

髪が抜けるかもしれないほどにとても痛い。

それに対し僕は彼が手で掴んでいる方の腕を爪で力強く引っ掻いた。やまとは手を離し、勢いよく床に座り込んだ。

やまとの顔は赤く、目から涙が出そうになっていた。

しかしそれよりも彼の腕に白く細いラインが引いてあったことにびっくりした。

僕の爪の白い部分が粉になって出てきたのか。

しかもそれはだんだんと赤くなっていく。

ヤマトはその傷をみて泣き始めた。先生にわざと聞かせようとするように、とてもうるさく。

まずい、と思い僕は必死に謝った。

「ごめんね...ごめんね!ごめんね!!ごめんね!!!」

泣きやめ泣きやめと僕はヤマトの頬を何度も平手打ちする。さっきヤマトがしてきたように髪を引っ張る。

ヤマトは襲いかかって来る手を払いのけながらも、早く先生来てくれと更に煩く泣き叫ぶ。

すると化粧の厚い先生が駆けつけて止めに入ってきた。

「何してるの!リュウくん離れなさい!!」

僕は頭に血が上りすぎてそのまま倒れ込んだ。

ーーー

小さい頃、母がよく僕の脇腹に火のついた煙草を押し付けていたのを思い出す。

いつものそれが終わった後、母はゆっくりと僕のことを優しく抱き締めて眠りにつく。


何重にも重なったケロイドを隠そうと試行錯誤していていた日常が懐かしい。


ほら。美しいだろ?


小便

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