お墓づくりに必要なもの
墓地に必要な物ってなーんだ。
答えは以下の通り。
広大な土地。
墓石。
棺桶。
近隣住民の理解。
祈り。
金。
予算。
費用。
上記の物を獲得するための強かさ。
「で、ユリエさん。首尾はどうでした?」
「元々あそこは人口が少ねぇから問題はなかったぜ。コインで殴ってきた」
身も蓋もないことを言いやがる、このハーフリングのロリは。
だが古今東西、相手の心を掴むのに「お金」というのはとてもスマートで手っ取り早い方法でもあるのだ。
彼女を責めることはできない。
「……ありがとうございます。方法論はさておき、これで土地問題は解決だ」
墓地というのはとにかく土地が必要だ。
しかも今回は戦死者の墓だ。粗末な物には出来ない。
まさか現代の都会の墓みたいにコインロッカー式の納骨堂にするわけにもいかないだろう。
だから広大な土地は必要だし、出来れば一人につき一つの墓を用意したい。
まぁ、これは俺の勝手な願望というか宗教観でもある。
「土地が問題なく終わったとあれば、あとは墓地施設の施工か」
「でもよー、何建てるんだよ。墓なんかに」
「墓『なんか』って……。まぁ、色々ですよ」
追悼施設とか、休憩所とかね。
かなり巨大な施設になる。とりあえずの目標としては合衆国アーリントン国立墓地のようなものにしたいな。
「でもまぁ、そこら辺のデザインは施工業者に任せて我々は確認だけしましょう。あとは予算との兼ね合いかな」
ふむ、あと彼女に頼むことと言えば……。
「あ、そうだ。ユリエさん、もうひとつ頼めます?」
「なんだい?」
俺は彼女にそれを伝える。
道を歩けば普通にあるものなので問題なく手に入るとは思うが、一応確認。
「どうです?」
「……んま、確かに普通にあるし、探せば売ってると思うけどよ。何に使うんだ、それ? そんなことに金使うのか?」
「まぁ、ただの感情ですかね。絶対必要と言うわけでもありませんし、無理だったり高かったりしたら省いちゃってください」
これはちょっとした我が儘だ。職権乱用でもあるが、戦死者墓地には必要なのだと思った。
「ふーん……まぁ、いいぜ。局長さんがそう言うんだから、いるんだろうな」
「ご迷惑おかけします」
ユリエさんになんか雑用を投げてしまった感じで少し申し訳なくなったが、彼女は気にせずサムズアップで答えてくれた。
「いいってことよとりあえず局長さん、これにサインしてくれ」
「はい……って、これなんです?」
渡された紙には、インクでなにやら書いてある。だが何を書いてあるかは全く――、
「見てわかんだろ! 墓石の発注書だよ!」
「ごめんなさい、見てもわかんないです」
相変わらずユリエさんの字が汚かった。
しかも日に日に汚さが増していくものだから最早解読不能なのだ。暗号文って言った方がいいのではないのだろうか。
「ユリエさん、今度からちゃんとした字で書いてください。じゃないと受け取れません」
「めんどくさいからそのままでいいか?」
「書いてください」
「いやさ、オレ字書くの苦手でさ。書類仕事は頑張るけどこれ以上はだな……」
「いいから書け」
「お、おう」
よし。極めて平和的な話し合いによって交渉は成立した。
とりあえず、暗号文は言い過ぎにせよギリギリ読めなくもないこの書類にはサインしといてあげよう。
「あ、そうだ。墓石で思い出しましたけど、ちゃんと墓石には墓碑銘刻んでおいてくださいね。墓石だけ地面に突き刺すのはやめてくださいね」
「わ、わかってるよ。そそそ、それくらいオレにも理解できるし!」
「わかりやすいなぁ……」
まぁ、このわかりやすさ、行動の単純さがユリエさんの良い所でもある。
墓石や墓石に刻む名や生没年、その他諸々に関していくつかの要請を出し、ユリエさんは再び魔都の各ギルドや商会を渡り歩くことになる。
今回の墓地建設計画にあたっては、彼女が一番の功労者なのは間違いない。
最近は戦闘部隊の殴り込みが減ったし、彼女にも休暇を与えよう。
しかし俺の言葉をメモするユリエさんの姿、仕事熱心なのは本当のようだがやっぱりというかなんというか、彼女のメモ書きはヒエログリフになりかけている。
いやいいんだけどね、本人が読めれば。
たまに自分でも読めないくらい字が下手な奴もいるけど。
「ユリエさん、そんなんでよく前の職場で事務出来ましたね。いや今もそうですけど」
陛下の紹介がなかったら、俺はユリエさんのこと雇わなかったよ? 彼女の前の職場は何を考えていたのだろうか。
「なにせ文字読めるのがオレだけだったからな!」
「おいちょっと待てどういうことだ」
文字が読める奴がユリエさんしかいないってそれやばいだろどう考えても!
一人で事務回してたらそりゃ仕事早いよね! ついでに字の汚さも説明できるよ! 綺麗に書いてたら時間ないもんね!
あぁ、なんだかすごい納得したわ。ついでに頭抱えそうにもなったわ。
「その前の職場……工房でしたっけ? 今大丈夫なんですか?」
「大丈夫だと思うぜ。潰れたけど」
「おいィ?」
事務仕事できる唯一の人材引き抜いたらそりゃ瞬く間に潰れるだろうけど。
「大丈夫だって、皆腕はいいから、きっと別の工房で再就職してるから! 元々経営は真っ赤だったし遅かれ早かれそうなってたって」
「な、なら安心……安心なのか?」
「そうだよ。オレが『赤字だぞ』ってみんなに言ったら『赤ってことは良い意味だよな!』って言ってたくらい総じてバカしかいなかったからな!」
安心して良いのかこれ。
ユリエさんの話す情報が全部不安要素しかないが……。
ま、まぁ陛下のことだからアフターケアもばっちりだろう。潰れないようにしてほしかったけど。
「ユリエさん、かつての上司の行先にも気を使ってあげてくださいね」
「え、やだ。めんどい」
即答だった。




