赤ずきんちゃんにまつわる 其ノ八
「ルイ14世の愛人?」
「ルイ14世と引き離されたマリーはその後はイタリア国外で
生涯を過ごしたとされているが、実は詳しくは分かっていない」
田所教授は淡々と応えた。
「じゃあ、もしかするとマリー・マンチーニが
赤ずきんのおばあさんのモデルになってるって事!?」
野中が尋ねる。
それに応えるように私は続けた。
「マリー・マンチーニがおばあさんだったとすると、
その子供はルイ14世との間にできた子の可能性も考えられる。
つまり、赤ずきんちゃんはルイ14世の孫だったかもしれない」
「なんてことだ・・」
田所教授は事実を受け入れようとはしていたが、
動揺は隠しきれていなかった。
「ルイ14世の関係の者が、しかもその血縁の人間が魔女裁判で有罪になり
しかも追放されていたとなれば公にできない事実。
その血脈が現代まで続いていたとするならば
フランス政府としても何としても隠したい史実だったでしょう」
「クリスが・・その末裔って事・・?」
野中の困惑を隠せぬ漏れた言葉だった。
「クリスが赤ずきんの、そして王家の末裔ならば
常にその監視下にあったでしょう。
たったひとりで大きな屋敷に住んでいたのも何となくわかる・・」
私の話を静かに聞いていたクリスも徐々に俯き気味になり目を潤ませていた。
それは悲しみに満ちた表情を携えて。
それに気付いていた私はクリスに近寄り語りかけた。
「クリス、君はもしかすると赤ずきんちゃんの子孫かも知れない。
王家の血を受け継いでいるのかもしれない・・。
でも、そんなことは関係ない。僕達が出会った事とは。
クリスは寂しかったんだよね。友達が欲しかったんだよね。
たったひとりで大きな屋敷に残されて誰よりも辛かったんだと思う。
ずっと耐えてきたんでよね。でも、もうひとりじゃない!」
私の言葉に俯いていたクリスがゆっくりと顔を上げた。
だが、目には今にもこぼれ落ちそうな涙を溜めていた。
「出会えたという事はいずれ過去となり、僕らの歴史となる。
僕達は歴史の上にいるが今を生きるにはさほど重要ではない。
だって、すでに僕も教授も小山さんも、
そしてもちろん野中さんも君の友達なんだから」
クリスの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。なんどもなんども。
それは先程までの悲しげな表情のうえの涙ではなく、嬉しさの涙であった。
その傍らで野中もまた涙を流していた。
「よし!じゃあ行こうか」
「え?どこに?」
私の言葉に野中が反応する。
「僕の仕事はクリスを空港まで送り届けることです。
それまでは仕事は終わりません。いいですよね?教授」
「ああ、我々が暴いていい歴史じゃない。
クリスはフランスに帰してやってくれ」
私と野中、そしてクリスは部屋を後にし空港へ向かった。
その部屋に残された田所教授と小山は・・
「教授、どうしますか?警察に通報しますか?僕は甘んじて罰を受けます」
「そうだな・・クリスの大事な友達の一人を警察に突き出すわけにもいくまい。
クリスも望んじゃいないよ」
「教授・・」
「だが、罪は罪だ。罰は受けてもらう。そうだな、
私の部屋の掃除でもしてもらうか?」
「はは・・そりゃ確かに罰だ。しかもかなり手厳しいな。あの部屋は・・」
そう言う小山の目にも涙はちらついていた。
その後、私達は空港に到着しクリスを搭乗口前のロビーで見送っていた。
「クリス、元気で。何かあったらいつでも連絡してこいよ。
日本にはたくさん君の友達が待ってるんだから」
私の言葉にクリスは頷く。
「クリス・・」
野中はそれだけ言うとクリスと抱き合った。
そこに言葉は必要なかった。
搭乗口に向かうクリスはなんども振り返り手を振って消えていった。
私と野中は飛行機の見える場所まで行き、
クリスの乗った飛行機が飛び立ち見えなくなるまで見送った。
「行っちゃいましたね」
「行ってしまいましたね。野中さん、実はまだ話していない推理があるんです」
「まだ話していない?」
「ええ、赤い色は悪魔の象徴と言いましたが、
実はそれだけではないんです。
赤い色というのは心理学的にいうと
血の色から少女の性への目覚めを表していると言われます」
「どういう事ですか?」
「つまり、おばあさんが森の奥に暮らしているのは
単純に追放されたからということだけではなく
とあることをしていたのではないか?そう思ったのです」
「とあることですか?」
「・・・おばあさんの家は売春小屋だったのではないか・・
ということです」
「売春小屋!?」
「ただ追放されただけならば名を隠し暮らせばいいだけのこと。
それをあえて森の奥に住んだということは・・
そしてそこに通う赤ずきんちゃんもまた・・」
「そんな・・」




