赤ずきんちゃんにまつわる 其ノ七
野中はクリスの肩を抱き、クリスもまた野中にしがみつき
事の成り行きを静かに聞き入っていた。
「クリスは自らトイレから姿を消した」
「なんだって!?」
田所教授は驚きさけんだ。
「クリスはたった一人でフランスの大きな屋敷に暮らしていた。
幼い頃に両親を亡くし身寄りもない、そうでしたよね?」
「ああ、そうだ」
教授はクリスを見ながら応えた。
「クリスは寂しかったんだ。誰かに見て欲しかったんだ。
そうだよね、クリス」
私はクリスに優しく語りかけた。
クリスは静かに頷いた。
「そこに気が付いた小山さんは、それに付け入ればいい。
大きな寂しさ、孤独を抱えた少女に言えばいい。
友達になってあげる、と。
その言葉にクリスは嬉しくなり小山の指示のもと自らトイレから抜け出し、
外で待っていた小山さんと合流した」
「だから、クリスは誰にも気づかれずに居なくなったんですね」
野中が納得したようにつぶやいた。
すると小山は観念したかのように話しだした。
「まったくもってその通りです。まさか野中さんが、
あなたのような人を連れてくるとは考えてもみませんでした」
「小山さん、あなたはクリスの悲しみに抱えてるものに気付いてあげました。
そして、友達になると言ってあげました。それは決して間違っちゃいない。
でも、少しやり方を間違えましたね」
小山は悲しみに気付いてあげた、間違っていないという私の言葉に
意外そうな顔をし、うなだれた。
「国素裸さん、あなたは大した人だ」
「ところで、君は赤ずきんの謎をどこまで解き明かしたのかね?」
田所教授は一番、気になっていることを尋ねた。
「赤ずきんの話については僕の推測の域をでていませんが、
それでもよければ推理をお話しましょう」
「頼む!」
「赤ずきんの話しはそもそも何のために書かれたのか?
世界中で翻訳され愛されるにはそれなりの訳があるはずなんです。
日本にも日本版の赤ずきんが存在しますしね」
「日本版赤ずきん?」
野中が不思議そうに尋ねてきた。
「戦時中の日本が舞台となってる話で、
赤いずきんの代わりに防災頭巾を被ってる女の子が出てくる話です」
「よくそれを知っていたな」
「たまたま、図書室で見つけただけです。
そして、赤ずきんの話の舞台はいつか?」
「赤ずきんが書かれたのは17世紀のフランスです。
赤ずきんが実在したなら舞台も17世紀?」
「そう、その頃ヨーロッパ全土である大きな出来事が起きていた」
「そうか!魔女狩り!!」
田所教授はとんでもない歴史を見つけた気がした。
「その通り、魔女狩りです。考えてもみてください、
おばあさんはたった一人で森の奥に住んでるんです。
赤ずきんちゃんが歩いて行ける場所に住んでるにも関わらず。
変だと思いませんでした?」
「確かに・・」
「赤ずきんちゃんの赤いずきんは、
おばあさんから受け継がれてきた物です。
赤いずきんは元々おばあさんの物だった。
そして、当時のフランスでは赤い色は
悪魔の象徴として忌み嫌われる色だったんです」
「まさか!?」
「そうです。恐らくおばあさんは魔女狩りによって
魔女だとされてしまった人間の一人。
だとすれば森の奥でひっそりと暮らしていることにも説明がつく」
私の推理にその場の全員が息を殺して聞いていた。
「しかし、ここでひとつ疑問が浮かんできます。
魔女裁判で有罪になった者はほとんどの場合、処刑されています。
にも関わらず、おばあさんは赤いずきんを送られて
森の奥に追放されただけで、命までは奪われていない」
「どういう事なんでしょう?」
「つまり、処刑できないほどの人物だったとしたら?」
そこに居る者たちは静まり返った。
歴史をひっくり返すほどの事実に直面しているからである。
その静けさを破ったのは小山だった。
「処刑できないって、どういった人物なんですか?」
「王家に関わりのある人物」
私の言葉にそこにいる全員が言葉を失う。
しかし、私は構わず話しを続けた。
「王家に関わる人物ならば、簡単には処刑できませんからね。
とは言え魔女狩りは当時、神の名を使ってでも
歯止めが効かない程にまで暴走していました。
王家の人間とは言え処分しない訳にはいかなかったでしょう」
「国素裸さん、そんなことあるんですか?」
野中が尋ねた。
「クリス、君のフルネームは?」
「・・・クリス・マンシニ」
「クリスのラストネームがマンシニだと聞いたとき、
なんとなく聞き覚えがあったんです」
「マンシニ・・?・・・‼︎マンチーニか⁉︎」
田所教授少し考えたのち気が付いたようだ。
「マンシニはイタリア読みでマンチーニです。
マンチーニといって思い浮かぶはマリー・マンチーニです」
「マリー・マンチーニ?」
野中はマリー・マンチーニを知らないようだった。
その疑問に田所教授が応える。
「マリー・マンチーニは17世紀の国王、ルイ14世の愛人だった女性だ」
「!!!!」




