赤ずきんちゃんにまつわる 其ノ六
薄暗い部屋の一室。
静かにしゃがみ込むその少女は、なにをするわけでもなく
ただただ、寂しさの募る時が過ぎ去るのを耐えていた。
そう、それはまるで狼に怯える赤ずきんのように・・
そんな寂しさに耐える少女の部屋の扉が、ガチャリと音を立てて開く。
そして部屋へと入ってきた一人の男は静かにクリスに語りかける。
「寂しかったかい?ごめんよ。待たせたね」
その男は小山である。
何も言わず小山を見上げるしゃがみ込む少女は、無表情のまま手を差し出す。
小山はその手を掴むと少女はゆっくりと立ち上がった。
そして、扉の方へ歩き出そうとした時
再び、ガチャリと音を立てて扉が開く。
「く、国素裸さん!野中さんも、田所教授まで!」
驚きを隠せず後退りをする小山。
それとは対照的にクリスは水を得た魚のように笑みを取り戻した。
そして野中の元へ駆け出し抱きついた。
「よかった・・」
野中もクリスを抱きしめ優しく微笑んだ。
「まさか自分のアパートの部屋の隣に、もう一室部屋を借りてたとはな・・」
田所教授の漏れたため息のような言葉だった。
「な、なぜ、ここが!?」
怯えるように言葉を放つ小山、それに対し私は話しだした。
「あなたが教えてくれたんですよ」
「!?まさか!?つけてきたんですか?でも国素裸さん、あなたは大学に行ったはずでは・・」
「いいえ、僕は初めからあなたを尾行するつもりでいました。だからサービスエリアへと一緒に行く人間をあなたに指定したんです」
「じゃあ、クリスがサービスエリアへにいるかもしれないっていうのは・・」
「ええ、嘘です。それともうひとつ、車中で話したフランス政府のくだりも嘘です」
「な、なんで、そんなこと!?」
「フランス政府という巨大組織が動いているとあなたに思わせ危機感を煽り、クリスのもとへ案内させるためにです。車で大学を出たあと、それらしい車を見つけ前方に割り込む。それを、あたかもつけられているかのように装う。まんまと、あなたは引っかかってくれました」
「なんてことだ・・」
ガックシと肩を落とす小山。
「なんでこんなことをしたんだ?小山くん!」
田所教授の助手に対する裏切られた気持ちを乗せた叫びだった。
その問に私が質問で応え返す。
「それは田所教授と同じ理由ですね?」
「同じ理由?」
クリスに寄り添いながら野中が聞き返した。
「つまり、小山さんも赤ずきんちゃんの赤いずきんを狙っていたということです。ただし、純粋に研究のために赤いずきんを欲していた教授とは違い、あなたは赤いずきんを売りさばこうとしていたのではありませんか?」
「その通りだ。赤ずきんちゃんの赤いずきんが存在すれば、その価値は計り知れない。相当の高値で売れるはずだ。仮に赤いずきんが存在しなくとも、赤ずきんちゃんの子孫であるクリスを使ってメディアにでも売り込めばかなりの金を生み出してくれる。クリスは金のなる木なんだよ」
小山は開き直ったかのように応える。
「小山くん・・君という男は・・」
「ひどい・・」
教授と野中は呆れているようだった。
「なるほど、後からいくらでもお金は手に入る。だからアパートの部屋をもう一室借りても惜しくなかった
ということですね。確かにここなら目も届くし安心ですからね」
「国素裸さん、いつから僕を疑っていたんですか?」
「あなたに最初に会った時です」
「!!はじめから?」
小山は思ってもみなかった答えにとまどっていた。
「野中さんはクリスと常に一緒にいました。特に大学では。最初に僕と会った時、あなたは野中さんを見てもそれを疑問に思わなかった。あなたはクリスがいないことを知っていたんです。その証拠に他の人たちは同じような質問をしてきました。
クリスは一緒じゃないのか、と」
「・・なるほど、そんなとこを見てたんですね・・」
「まずはじめに疑問に思ったのは、なぜクリスが危険な目にあったかです。でも、よくよく考えると狙われていたのはクリスではなく野中さん」
「え?私だったんですか?」
「ええ、ワイヤーが張られていた、それはワイヤーの位置からしても明らかに野中さんを狙ったものです。
野中さんを狙う理由はクリスと引き離したかったから。恐らく怪我さえさせればよかったんでしょうが、少しやりすぎです。」
私の言葉に小山も黙り込む。
「田所教授ならわざわざこんな回りくどいやり方をしなくてもよかったはずです。教授が野中さんにクリスを任さたのですから、離すことも指示できます。と、するならば、引き離したかった犯人はクリスに近づきたかった人物。真っ先にあなたが浮かびました。あなたは我々の様子を見に来たんですね?」
「そうです。大学にクリスを探しに来るのは分かっていましたが
つい、気になって・・」
「でも、どうやって小山さんはクリスをサービスエリヤからさらったんですか?」
野中が疑問をぶつけてきた。
「クリスは、わざわざさらう必要はなかったんですよ」




