赤ずきんちゃんにまつわる 其ノ五
静かに時計の針の音だけが、今という歴史を刻む。
「どういうことですか?国素裸さん!?」
田所教授がクリスを連れ去ったのではないという
私の話に野中は困惑しているようだった。
「最初は僕も田所教授が犯人ではないかと考えていました。
しかし、教授には無理です。その時間、教授は講義を行っていた。
多くの人間が証人になるうえに調べてるうちに教授は
純粋に歴史の謎を解き明かそうとしているようにしか思えなかった」
「歴史の・・謎ですか?」
野中の後方にいた奥寺が問いかける。
「ええ、赤ずきんの謎です」
「赤ずきんに謎があるんですか?」
今度は小山が驚きながら聞き返す。
「おそらく田所教授は数々の歴史的文献をあさるうちに
ある推測にたどり着いた。それは、赤ずきんの話が
実在の人物をモデルとして創られた話ではないかと」
「そ、そうなんですか!?」
小山と奥寺は驚きを隠せず叫んでしまう。
「そして更に調べるうちにクリスへとたどり着く。
クリスは赤ずきんの子孫ではありませんか?」
「・・・よく、この短時間でそこまでたどり着いた・・
その通りだ。赤ずきんは実在していた。
そしてクリスはその末裔だと考えられる」
「クリスの所在を知ったあなたは、いてもたってもいられず
野中さんをフランスに送った。クリスを日本に連れてきてもらうために。
しかし、あなたの狙いはクリスだけではなかった」
「どういうことです!?国素裸さん?」
野中は田所教授を視界にとらえながら私に問いかけた。
「もし、赤ずきんが実在していたとなると
ある物も存在していた可能性がある」
「まさか!」
奥寺は何かを察したように声をあげる。
「そう、赤ずきんが被っていた赤いずきんもまた存在していた」
「その通りだ。赤ずきんちゃんの存在を確信した時、私は赤いずきんも存在すると考えた。
そして当然クリスがその所在を知っていると。
考えてもみたまえ!あの童話の中の話だけだと思っていた赤ずきんちゃんが、そして赤いずきんが、
この世に存在している。そう考えただけでもワクワクしないかね?
赤いずきんがあれば、それはとんでもない歴史的価値となる。そして歴史を塗り替えることにもなる!」
教授は笑みを浮かべながら淡々(たんたん)と語り続けた。
「だからと言って、なぜクリスをさらうのですか!?」
野中が我慢できすに割り込んできた。
私は野中を制するように話を始めた。
「野中さん、僕たちはもしかすると勘違いをしていたかもしれません」
「勘違い?」
「ええ、クリスは連れ去られてはいないのかもしれないということです」
「どういうことですか?」
「クリスは自ら姿を隠した」
「なぜ、そんなことをするのですか?」
「可能性の話です。つまりクリスはまだ、あのサービスエリアにいるのかもしれない」
「まさか!だったら早く行かなきゃ!」
「あくまで可能性の話です。ですが行ってみる必要はあります。
しかし、クリスがここに戻ってくる可能性もあります。
全員で行くわけにはいきません。野中さんはここに残ってください。
僕と誰かもうひとり一緒に行ってもらいたいのですが・・
小山さん、お願いできますか?」
突然、白羽の矢が立った小山は少し間を空けたが快く引き受けてくれた。
私と小山はすぐに車に乗り込み大学を後にした。
いくつかの可能性を考慮に入れての人選。助手席に座り不安そうな表情を浮かべる小山。
私はサービスエリアへと急いだ。
「でも、なぜクリスが自ら隠れたと思ったのです?」
小山が私の顔をちらっと見て尋ねる。
「クリスはある巨大組織に狙われていた可能性があるんです」
「巨大組織?それは一体・・?」
「フランス政府です」
「フランス政府!?なんで政府が!?」
「クリスは幼い頃に両親を亡くし、お手伝いさんが一人だけいる屋敷で暮らしていたんですよね?」
「そう聞いてます」
「身寄りのない少女がお手伝い付きの屋敷に一人で暮らせるほど財力があるとは思えない。
仮に両親の遺産があったとしても・・何らかの後ろ盾があったに違いありません。
しかも赤ずきんちゃんの子孫ともなれば国として援助することも考えられる。
なおかつ、国として知られたくない事実でもあったとも推測できます」
「なるほど、つまり政府が監視もかねて支援していた・・と?」
「もしくは私たちと同じように赤ずきんの真実に気付きクリスを狙う組織・・」
小山は額に汗を浮かべ唾を飲み込む様子がうかがい知れた。
と、私はミラー越しに黒い車がいるのに気付いた。
「付けられてるようです」
「えっ!?」
私の言葉に驚き後ろを振り向く小山。
が、小山が振り向くが早いか私はアクセルを踏み込んだ。
カーブに差し掛かり追っての車が見えなくなった隙に脇の道に車をいれ、路肩に停車した。
「やり過ごせたようですね」
私の言葉に小山も胸をなでおろす。
「だが、私たちが奴らを巻いたことで野中さん達の身に危険が及ぶかも知れない。
僕はクリスを探しにいきます。小山さん!申し訳ないのですが、大学に戻ってもらえませんか?」
「分かりました!」
小山はすぐさま車を降り携帯でタクシーを呼び出した。
私は小山を降ろすと車を急いで発進させた。
なんとしてもクリスを無事に見つけ出す。
その思いが私の頭の中で繰り返し囁いているようだった。




