下山事件にまつわる 其ノ四
「主人は殺されたんです!」
突然の夫人の言葉に副社長の大塚はもちろん
他の者たちも驚きを隠せずにいた。
「な、何を言ってるんです?!奥さん」
そう聞き返す大塚に対し夫人は背を向け
私たちの方へ歩き出す。
「主人が自殺するはずがありません!
警察は自殺ということにするつもりでしょ?」
浅部に向かってそう言う夫人に浅部は
「いえ、そんなことはないと思いますが・・」
歯切れの悪いその態度に夫人は
今度は私の元へ歩み寄り私の手を取った。
「国素裸さん!
主人を殺した犯人を見つけてください。
謝礼は払います。お願いします!」
私の手を取り頭を下げる夫人の目には涙がちらついていた。
その姿を見て、私の心が動かないはずはなかった。
「園丘さん。頭を上げてください。
僕も自殺ではないと考えてます。
犯人は必ず見つけますから」
それを聞いた浅部は呆れたように
「ちょっ、国素裸くん・・」
その頃、警視庁では捜査本部が立ち上がり
今まさに捜査会議が行なわれていた。
刑事部長と参事官を前にして、
多くの刑事が肩を並べ座っている。
中山参事官はその刑事たちに現状報告を促す。
「被害者の失踪当日の行動は?」
それに対し2人の刑事が立ち上がり報告する。
「被害者の園丘氏は8時15分頃、いつものように専用車で
運転手の西岡と共に自宅を出ています。
その後8時40分頃 三敏銀行に立ち寄っています」
「銀行?銀行はその時間まだ空いてないだろう」
そう聞き返したのは中山参事官である。
「はい。ですが園丘氏はVIP待遇のため、
時間外であってもいつも裏口からVIPルームに通されてるようです」
「なるほど。で、その後の足取りは?」
「三敏銀行に30分程滞在したのち、大黒デパートに向かってます。
デパートに着いたのが9時20分頃。
デパートは9時半からですので10分程、車の中で待ったようです」
「運転手の証言か?」
「そうです。銀行でもデパートでも運転手の西岡は車で待っていたようです」
「そのデパートで園丘氏は居なくなったということか・・」
「すぐ戻る、と言っていたそうですが15分経っても戻らなかったため
運転手は携帯に電話したそうですが繋がらなかったようです」
「15分は案外早くないか?」
「10時から会議が入っていたようで、
それまでに会社に行きたかったようですね」
「なるほど・・」
「さらに10分程待ってデパートの中に行きサービスカウンターで
呼び出しをしてもらってますが、園丘氏から連絡はなかったということです」
「9時半から10時までの間に居なくなったということか・・」
「その可能性が高いと考えています」
「そして翌日、轢死体で発見か・・
まさに下山事件にそっくりだな・・」
すると黙って聞いていた刑事部長が立ち上がり、
刑事たちに檄を飛ばす。
「今回の事件は下山事件になぞられている可能性がある。
下山事件は皆んなも知っていると思うが、未解決事件だ!
さらにその後、1ヶ月以内に三鷹事件、松川事件と続いた。
今回も同じ事が起こるとも限らん!
そのような事が現代でも起きてしまっては警察の恥だ!
何としても今回の犯人を早急に捕まえるんだ。いいな!」
その頃、園丘夫人の依頼を受けた私は、
野中を夫人に付き添わせ浅部と共に車で園丘邸を後にしていた。
「国素裸くん。いいのか?
園丘夫人の依頼を受けて犯人を見つけるなんて言って・・」
「浅部さん、どうせ暇でしょう?」
「まさか、僕を利用するつもりで?
かなわないな・・
まあ、いいけど。暇だから」
浅部は車を運転しながら、まんざらでもない顔をし、
私に質問をしてきた。
「ところで、これからどこへ?」
「まずは大黒デパートに行きましょう」
「園岡さんが失踪した場所だね」
浅部は車を大黒デパートに向けて走らせた。
「ところで、国素裸くんは、今回の事件を
どう思う?」
「まだ何ともいえませんね・・はたして下山事件になぞられたのか?
それすら何とも・・」
「下山事件とそっくりなのは、たまたまだと?」
「ですから、まだ何とも・・
ただ、これは明らかに殺人です。
そして殺害場所は遺体発見場所とは別、なのは確かでしょう」
「別の場所で殺害し、遺体を運んだ・・
と、すると犯人の目的はいったい・・?
まさか!!国素裸くん!もう犯人の目星がついてるとか!?」
「さすがにまだですよ。
ですが、関係者でしょうね」
そうこうする間に車は大黒デパートに到着した。
現在は多くの人で賑わっているが、園丘が来た時は開店直後。
おそらく人はまばらであったであろう。
私と浅部は車を駐車場に停め、正面入り口から店内へ
足を踏み入れた。
店に入った直後、私はあるものに気が付いた。
斜め上を確認する私に浅部が問いかける。
「どうしたんだい?」
「あれです」
私が指さした先に、一つの店内カメラが
こちらを捉えていた。




