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歴史と謎  作者: 村背博秋
第4話 「下山事件にまつわる」
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下山事件にまつわる 其ノ三

警視庁特報係の浅部あさべに連れられ

私と野中、園丘夫人、運転手の西岡の4人は遺体霊安室へ通された。


そこには園丘の遺体と思われる

シーツに包まれた状態のものが安置されていた。


「顔が、かろうじて判別できる状態です」

霊安室に案内してきた刑事が神妙な面持ちで伝える。


浅部がゆっくりとシーツをめくる。

そこにはあの朝、優しい笑顔で挨拶をしてくれた

園丘逸慈そのおかいつじの変わり果てた姿があった。


顔を手で覆い、その場に崩れ落ちる夫人。

夫人の肩を包み込むように野中が抱いた。


「浅部さん。司法解剖は?」

私は夫人に聞こえない程度の声で浅部に尋ねた。


「政財界や警察幹部とも付き合いのある方だからね。

それに状況が状況なだけに早めに身元確認をしときたかったから、

詳しい調査はこれからだよ」


「そうですか。

・・・もし可能なら少し遺体を見せてもらえませんか?」


「ん〜・・まぁいいでしょ」


浅部はそう言うとシーツを全てめくった。

そこには見るも無惨なバラバラになった体があった。


私はその遺体をゆっくり上から下から、注意深く観察した。

すると、遺体の中央辺り

血が出ていたと思われる位置に何かを見つけた。


「なんでしょう、これは?」

その言葉に浅部も近づいて覗き込む。


それは赤い糸クズのような小さな繊維状のものだった。

私たちの息にすら、

ゆらゆらと揺れる赤い繊維は血の跡にへばり付いているようだった。


「糸?かな?」

浅部が不思議そうに眺めながら応える。


「浅部さん。鑑識によく調べるように言っといてください」


「分かってるよ。言われなくても」



身元確認も終わり私たちは行きと同じく車に乗り込み

園丘邸へと向かった。


「浅部さん。警視庁は大慌てとおっしゃっていましたね?

なぜです?」


「・・・今回の園丘さんの事件は、

とある事件にそっくりなんだ」


「下山事件・・」


「!!知っていたのか?」


「豊中重工の社長がデパートで行方不明。

翌日、轢死体で発見、となれば誰でも想像できますよ」



下山事件しもやまじけんとは、

日本が連合国の占領下にあった1949年(昭和24年)

今から67年前の7月5日朝、国鉄総裁下山定則が

出勤途中にデパートに立ち寄り失踪、


翌7月6日未明に轢死体となって発見された事件である。


事件発生直後からマスコミでは自殺説・他殺説が入り乱れ、

警視庁は公式の捜査結果を発表することなく

未解決のまま捜査を打ち切った。


下山事件から約1ヵ月の間に国鉄に関連した

三鷹事件、松川事件が相次いで発生し、

三事件を合わせて「国鉄三大ミステリー事件」と呼ばている。



「つまり、警察は事故ではなく自殺か殺人の可能性を疑ってるわけですね」


園丘邸に向け車を走らせ私は今回の根深さを感じていた。



「下山事件とそっくりな以上、事故とは考えられない。

まず、事件と考えていいだろうね」

運転しながら浅部は応える。


「自殺はあり得ないと思いますよ」


「なぜ、そう思う?」


「朝、園丘さんに会っています。そんな感じは全くなかった」


「自殺する人の考えなんて分からないもんだけどね。

かなりの地位の方だったわけだし、

ストレスも相当なものじゃなかったかな」


「だとしてもです。

下山事件と同じような形で自殺するのは如何でしょうね」


「確かにね。じゃあ、他殺だとして犯人は?」


「それは、まだ分かりませんが轢死ではないと思いますよ」


「轢死じゃない?なぜ分かる?」


「確証はありませんが、

おそらく別の場所で殺されて遺体を運んだと思われます」


「犯行現場は別の場所・・

なぜ?」


「さっきの赤い繊維。

あれはおそらく殺された時に付着したもの。

朝、お会いした時にあのような赤いものは

身に付けていなかった」


「犯行現場に赤い何かがあった。

ということか・・

赤いものがある場所?どこだ?」


今の時点では大したことは分からない。

しかし、この先いろいろな事実は明らかになってはいくのだろう。


私たちの車と園丘夫人たちを乗せた車は

園丘邸へと到着した。


園丘邸では、お手伝いの後藤と顧問税理士の洲原が

心配そうに出迎えた。


野中に肩を抱かれながら屋敷内へと向かう夫人には

やはり覇気がなかった。


お手伝いの後藤は、

こんな時だから大したもてなしは出来ないがお茶を飲んで行ってくれと

私たちを屋敷に招き入れた。


部屋の中には豊中重工の副社長、

大塚治喜おおつかはるよしが来ていた。


大塚は私たちが部屋に入ると立ち上がり、

浅部の元へ歩み寄った。


「警察の方ですか?

私は豊中重工で副社長をやらせてもらってます、

大塚といいます」


大塚は名刺を取り出すと浅部と私に差し出し、

続けて夫人の元へ近寄って行った。


「奥さん・・今回の事故は・・

なんと申し上げていいか・・」


うつむきながら夫人に話しかける大塚に対し夫人は


「事故ではないと思います。

主人は殺されたんです!」

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