下山事件にまつわる 其ノ二
盗聴器調査を行っていた頃より
約18時間前・・
私は野中と共に事務所で資料の整理をしていた。
すると、事務所のドアがトントントンとノックされ
ガチャリと開いた。
「どうも、こんにちは」
そう入ってきたのはネクタイは無いものの
黒のスーツで身を固めた1人の男性だった。
「浅部さん。また何かネタを探しにきたんですか?」
「失礼な。
いつもハイエナみたいな真似してる訳じゃないよ」
その様子を見て野中が尋ねる。
「あの・・こちらは?」
「あぁ、この人は警視庁の浅部さん。
こちらは先日から働いてもらってる野中さんです」
「はじめまして。野中梓と申します」
「はじめまして。警視庁特報係の浅部と申します」
「特報係?特別報道係みたいなものですか?」
「特別情報係の略です。
特別な情報が集まる部署だったみたいですよ」
「だった?」
「今では単なる雑用係に成り下がってしまいましたけどね」
「だから、しょっちゅうここに来ては何かないか探ってくんですよ。暇だから」
私の言葉に浅部は苦笑いを浮かべていた。
「あと浅部さんはナルシストで女好きだから気を付けて」
「ひどいな国素裸くん。生理的欲求に従ってるだけだよ」
「そうなんですか」
野中の冷ややかな目が浅部に注がれる。
「ところで浅部さん。今日なにを?
まさか本当にハイエナしに来たとか?」
「そう、そう、お願いがあって来たんだ」
「お願い?」
「とある方から頼まれてね、盗聴器の調査をしてほしいんだ」
「とある方?」
「その方のことは、おいおい話すとして
盗聴器の調査をしてほしい所はここ」
浅部は一枚の紙を取り出し私に渡してきた。
「豊中重工は知ってるよね?」
「あの財閥のでしょ」
「電車とか造ってる会社ですよね」
野中が尋ねる。
「そうそう、その豊中重工の社長宅の調査をたのまれたんだ。
そこに自宅の電話番号が書いてあるから、
連絡とって行ってほしいんだ。
盗聴器の調査って基本的には僕ら警察の仕事じゃないからね。
それに探偵なら報酬が発生するから、おいしいと思うよ」
「お金はともかく、依頼なら引き受けますよ」
「じゃ、お願いします」
その約3時間前・・
コンコンコン。
「どうぞ」
「失礼します」
ここは警察庁長官室。
そこに呼ばれ入ってきたのは浅部である。
「わざわざ呼び出してすまないね。まぁ座ってくれ」
そう、ソファーへと浅部を促し自らも腰かけた。
「的伊長官からのお呼び出しとは何事なんです?」
少し緊張しながら尋ねる浅部。
的伊竜司警察庁長官。
日本警察のトップである。
「いやいや、大したことではないんだ。
私の古くからの友人で豊中重工の社長、園丘っていうのがいるんだが」
「豊中重工?あの鉄道製造会社で財閥の?」
「そう、そいつの自宅に盗聴器があるか調べてほしいんだ」
「盗聴器が仕掛けられてる可能性があるんですか?」
「いや、いや、そういうわけではないんだが、
何しろ一大企業であり財閥の自宅だからね。
たまに調査しとけば安心でしょ」
「お言葉ですが、盗聴器の調査は警察の仕事じゃない気がしますが。
しかも、なぜ僕に?」
「たしかに警察の仕事じゃないかもしれないけど、
市民の不安を取り除くことも警察の大事な職務じゃない?
それに友人として個人的に頼まれたもんだから、
公に警察組織を使えないでしょ?」
「なるほど、それで特報係に」
「それに、なにもわざわざ君がやらなくてもいいじゃない。
適当に探偵でもみつくろってやらせれば。
そういう知り合い居るんでしょ?」
「まあ、居るには居ますが」
「じゃあ、お願い」
「はぁ」
半ば強引に的伊長官にお願いをされた浅部は、
言うまでもなく私の所にこの話を持ってきたのだった。
そして、時は現在に戻る。
時刻は12時30分。
一人の警察官が園丘邸にやってきた。
浅部である。
「先程お電話しました警視庁特報係の浅部と申します」
部屋に通された浅部は挨拶をする。
部屋には園丘夫人、運転手の西岡、お手伝いの後藤、
それから野中と私、そして顧問税理士の洲原が待っていた。
「それでは、お手数ですがご遺体の確認のため、
署の方までご同行お願いします」
お手伝いの後藤と税理士の洲原を残し私達は警察に向かった。
私は浅部の車に乗り、園丘夫人は西岡の運転する自家用車で、
野中には夫人の側に付いていてもらった。
「なんで浅部さんが迎えに来るんですか?」
車の中で私は浅部に尋ねた。
「今、警察のほうでは大慌てでね。
手が空いてる僕が頼まれたんだ。ほら、雑用係だから」
「普通じゃないですよね?事故じゃないんですか?
ただの事故ならそんなに混乱するはずがない。
自殺だとしても同じです」
「察しがいいね。さすが国素裸くん」
「事件なんですね?」
「十中八九」
十中八九?
なぜか歯にものが挟まったような言い方をした浅部に
少し疑問を覚えながらも、私は警視庁へと向かっていた。




