赤ずきんちゃんにまつわる 其ノ三
エンジン音が響く車の中はラジオも音楽もかけず
二人の会話だけが続いていた。
少し急ぎ気味で、それでも慌てず私は車を走らせた。
クリスのことは心配であったが、だからと言って急いでも
状況はなにも変わらない気がしたからだ。
それは野中も同じようで、案外というか落ち着いているようにも見えた。
「何度か危険な目にもあってるんです」
野中は少し震えたような声で発した。
やはり落ち着いてみえるようでも、内心はかなり不安なのだろう。
「危険な目?どんな?」
野中は両手で自分の肩を抱えるようにして応えた。
「最初は大したことではなかったんですが
次第に命の危険さえ感じるほどのことが・・・
上から植木鉢が落ちてきたり、歩道にワイヤーが張られてたり・・」
「ワイヤー!?」
「ええ・・自転車で帰る途中に・・ちょうど首の高さ辺のところにワイヤーが貼られてたんです。歩道を歩いてる人を避けようと車道に出たので助かりました」
「・・殺意を感じますね・・・」
田所教授がいると思われる大学に到着すると
私と野中は車から飛び出し、教授の部屋へと走った。
講義終わりと思われる学生達とすれ違いながら
教授の部屋の前にたどり着く。
すると、部屋の前に一人の男性が立っていた。
「野中さん、どうしたんですか?そんなに急いで」
男性は野中を見つけると不思議そうに尋ねた。
「小山さん!教授は!?」
「田所教授かい?さぁ、今さっき講義が終わったばかりだけど部屋には居ないんだ。どこいったんだろう?」
小山という男性も田所教授を探しているようだった。
その後も野中と小山は言葉を交わしていた。
その内容を聞く限り彼、小山は田所教授の助手らしい。
その小山の話しでは、教授は図書室に行ったのではないか
という事だ。
「小山さん、教授の部屋を見せてもらう訳にはいかないですか?」
「ここですか?構わないと思いますよ。大したものはありませんから」
「ありがとうございます」
お礼もそこそこに私は部屋の中へと足を踏み入れた。
「少し散らかってますが」
そう言う小山。
しかし少しと言うには無理があるような散らかりようだ。
「それでは、僕はこれで」
小山はそう言うと部屋を後にした。
私は、散らかった部屋に無造作に置かれている資料や
本などを手に取り何か役に立つ情報を探した。
「なにか、クリスが失踪したヒントになるようなものがあれば・・」
すると、私は一冊の本に目がとまった。
それはかなり古い本で、どうやら赤ずきんの話を
日本語に翻訳した本のようだった。
「これは・・?」
少し被った埃を払いながら本に目を通していた。
その時、野中が私を呼んだ。
「国素裸さん!これを見てください」
それは、田所教授の書いたと思われる資料だった。
資料を片手に野中は私の方に近づき手渡した。
「?どういうことだ!?これは?」
正直、資料の内容がよく分からなかった。
しかし、教授の残した資料、そして古い赤ずきんの本、
そこから私は推理を始めた。
「この資料にはクリスの家の家系図やクリスの周りの様々な情報が書かれている、 さらには赤ずきんに関する情報も・・」
私は数秒、考え、
「まさかな・・」
「何かわかったんですか?」
「残念ながらクリスの居場所は分からない・・だが、ここにある資料で面白いことが推測できる」
「おもしろいこと?」
私の話に野中も興味津津のようだ。
それもそうだろう、野中も歴史や童話を研究するサークルに所属しているのだから。
「この古い赤ずきんの本を見てください。この本は実に細かく話の設定がされているんです。赤ずきんの名前自体は描かれていないもののここまで詳しい赤ずきんは見たことがない」
「でも、赤ずきんちゃんの話によっては”メイジー”という名が出てくるものはあります」
さすがは歴史研究会、メイジーの名を知っているとは。
「確かに、でもそれは赤ずきんの話が出来てずっと後に付けられたものです。後の作者が勝手に付けたに過ぎません」
「そうなんですか」
「そして、教授の資料です。様々な赤ずきんの事と、クリスの身辺について詳しく調べられています。そこから推測できる真実・・」
「なんですか?」
「それは、赤ずきんちゃんが実在の人物をモデルにして描かれたということです」
「!!!」




